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石田組ツァー2022/2023金沢公演

2022年9月25日(日)14:00~北國新聞赤羽ホール

  1. モーツァルト/ディヴェルティメントへ長調, K.138

  2. メンデルスゾーン/弦楽八重奏曲変ホ長調, op.20

  3. ピアソラ(アグリ編曲)/アディオス・ノニーノ

  4. シルヴェストリ(松岡あさひ編曲)/バック・トゥ・ザ・フューチャー

  5. ウィリアムズ,J.(松岡あさひ編曲)/シンドラーのリスト

  6. バーンスタイン,E.(近藤和明編曲)/荒野の七人

  7. レッド・ツェッペリン(松岡あさひ編曲)/天国への階段

  8. ディープ・パープル(近藤和明編曲)/紫の炎

  9. (アンコール)クライスラー(編曲者不明)/美しいロスマリン

  10. (アンコール)マーキュリー,F.(編曲者不明)/I was born to love you

  11. (アンコール)見岳章(編曲者不明)/川の流れのように

●演奏
石田組(石田泰尚2-11,塩田脩,田村昭博1-2,4-11,丹羽洋輔2,4-11(ヴァイオリン),中村洋乃理1-2,4-11,生野正樹2,4-11(ヴィオラ),門脇大樹1-2,4-11,西谷牧人*2,4-11(チェロ)

Review

9月末の日曜の午後,神奈川フィルの首席ソロ・コンサートマスター,石田泰尚さんを中心とした弦楽アンサンブル,石田組の演奏会を北國新聞赤羽ホールで聴いてきました。石田さんについては,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のゲスト・コンサートマスターとして金沢に来られたことはありますが,「石田組」として北陸で演奏会を行うのは今回が初めてです。というわけで,単純に「テレビの音楽番組に出ている人たちを生で見られる」「一度は聴いておかねば」という軽い感じで聴きにいくことにしたのですが...その気合いの入った演奏に改めて感銘を受けました。どの曲からも石田組長とメンバーの真面目さと秘めた熱さが伝わってきて,存分に楽しめました。

前半はモーツァルトとメンデルスゾーンという,オーソドックスなクラシック音楽。後半は,石田さんのソロによるピアソラの後,映画音楽や古典的なロック音楽を弦楽合奏で演奏するという構成でした。

まず前半の室内楽が良かったですねぇ。1曲目のモーツァルトのディヴェルティメントK.138は,石田組長抜きの弦楽四重奏編成。ただし組長のテイストを反映したように,ビシッと美しく聴かせてくれました。チェロ以外は全員立ったままの演奏。ホールの残響はそれほど長くないので,ストレートに弦楽器の音が入ってくる感じでした。”硬派弦楽アンサンブル”の呼称に相応しい響きに感じました。

この曲では勢いのある両端楽章も良いのですが,甘さを廃した第2楽章も良いなぁと思いました。不協和音が入るとちょっと苦み走った感じになり,これもまた”硬派”っという感じでした。

2曲目は,メンデルスゾーンの八重奏曲でした。私が最初に見たチラシにはこの曲が掲載されていなかったので,大好きなこの曲がプログラムに載っているのを見て,「おっ」と思いました。

石田組については,公演のたびに編成が変わるそうですが,今回はヴァイオリン4,ヴィオラ2,チェロ2の8人。まさにこの曲にぴったりの編成でした。メンデルスゾーンが10代の頃に書いた,「天才の証拠」のような作品ですが,石田組に皆さんは,慌てず騒がず,充実感のある引き締まった音楽を聴かせてくれました。石田組長のストイックな雰囲気を中心とした第1楽章では,展開部でのシリアスな深さが良かったですね。ちょっと殺気走っているような気分を(勝手に)感じてしまいました。楽章最後は,アクセルを一気に踏み込んだような雰囲気。組長がちょっと睨むとエンジンが全開になるといった統率力を感じました。

第2楽章は,組員たちの「ひとときの休息」といった感じでした。ちょっと虚無的な空気があるのもクールでした。第3楽章は緻密でキレの良いスケルツォ。平然とバッチリ決めていました。

第4楽章の最初の部分は,チェロ,ヴィオラ,ヴァイオリンの順に1人ずつ速いパッセージを弾いて開始します。この部分は実演で聴くととても面白いのですが,今回の配置だと音が左右に飛び交っていたので,「組内の派閥抗争か?」という感じでした。が,すぐに一体感とスピード感のある音楽へ。キリッとした格好良さのある音楽になっていました。最後は厚みのある音で熱く締めてくれました。

   西谷Vc 門脇Vc
  中村Va   生野Va
 塩田Vn     田村?Vn
石田Vn       丹羽?Vn

休憩時間。すっかり秋の空ですね。飛行機雲がよく見えました。

後半は石田さんの独奏によるピアソラのアディオス・ノニーノで開始。孤高のソロという感じが格好良かったですね。ヴァイオリン1本でリズムもメロディも担当し,段々と優しさが湧き出てくるような趣き。最後のピチカート3発で終わるのも何かを暗示しているようで意味深でした。じっくり聴かせてくれる曲で,クラシック音楽として定着していっても良い曲では,と思いました。

その後,メンバー紹介や組員の決め方などについての楽しいトークが入った後,映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のテーマが演奏されました。私は,リアルタイムでこの映画を映画館で観ているのですが,このアラン・シルヴェストリの音楽は,何回聴いても気分が高揚します。聴いている方がヒーローになったような気分にさせってくれますね。弦楽器によるキリキリとした輝くような感じも,曲想にぴったりでした。

映画「シンドラーのリスト」のテーマは,既にヴァイオリン独奏曲の定番ですね。石田さんが独奏を担当し,他のメンバーが周りを取り囲むような配置。まわりの楽器は弱音器を付けて(多分),霞んだような音色。石田さんのソロの真摯さがくっきりと浮き上がってくるような立体感を感じました。石田さんのヴァイオリンは常に整っており,その中から,自然に詩情が漂ってくるようでした。

映画「荒野の七人」のテーマは,この映画のみならず西部劇全体のテーマ曲のような作品。ユニゾンが美しく,「石田組の八人」といった団結力を感じました。アメリカの西部的な壮大さとコープランドの音楽を思わせるような楽天的な気分も感じました。

最後はロックの古典2曲。実は,個人的にこの分野がいちばん知識がない分野です。レッド・ツェッペリン「天国への階段」,ディープ・パープル「紫の炎」の両曲とも名前だけは聞いたことはありますが,よく知らない曲でした。ただし,今回聴いてみて,弦楽合奏で聴いても全く違和感がないと思いました。

「天国への階段」の方は,かなりメランコリックでメロディアスな曲で,ヨーロッパの民謡のような親しみやすさを感じました。最後の方,ヴィオラがうなるような感じになったり,音楽の熱気が増していく感じも良いなぁと思いました。

トリの「紫の炎」はテンションの高い急速な曲ということで,バルトークの曲に通じるリズムの面白さがあると思いました。途中,急速な弦楽合奏になる部分などは,バロック音楽の「嵐」の表現に非常に似ていると思いました(多分,そういうアレンジなのだと重います)。先日,OEKの定期公演できいた,ピアソラ作曲(デシャトニコフ編曲)による「ブエノスアイレスの四季(弦楽合奏版)」の世界に通じるものもあると思いました。というわけで,この曲の室内オーケストラ版などがあれば聴いてみたいものだと思いました。

ステージ上の石田さんを見ていると,拍手を長く受けるのがお嫌いな感じ。すぐにステージから退場する動作がちょっとユーモラスでした。それでも拍手は続き,アンコールが3曲演奏されました。

まずクライスラーの「美しいロスマリン」。以下,ネタバレになりますのでご注意ください。
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まず,石田さんが客席まで降りてしまい(よく分からなかったのですが着席していた?),ステージ上に残ったメンバーのみで「ボス抜きリラックスムード」で演奏開始。主旋律は石田さん以外の3人のヴァイオリニストが順番に演奏するという趣向。そして,最後の最後のピツィカートの音だけ石田さんがステージ上に戻ってきて,キッチリと締め。勝ち誇ったようにヴァイオリンを持ち上げる石田さんの姿は,とてもうれしそうでした。
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アンコール2曲目は,フレディ・マーキュリーの「I was born to love you」。弦楽器によるキューンキューンという不思議な音が印象的なノリの良い演奏でした。そして3曲目は,全員お揃いの「組」のTシャツに着替えて「川の流れのように」。「会場のみなさまお疲れ様でしたという」メッセージが音になって伝わってくるような,気分をクールダウンする,ファンサービスのような演奏でした。

というわけで,石田組北陸初公演は大成功だったと思います。また,別のレパートリーで聴いてみたいですね。OEKファンとしては,石田組とOEKによる合同演奏などにも期待したいと思います。

ホールのホワイエの天井にも「緑」が映っていて,上下対称に見えました。

PS.

途中のトークは,石田さん自身が語るというよりはメンバーが石田さんについて語るという構成。この形の方が面白い話が出てくる感じですね。次のようなことを語っていました。

  • 前日は夜11:40に金沢に到着。その後2時過ぎまで「反省会」。石田組長に元気の秘訣をおたずねしたところ...よく食べ,よく寝て...あとは気合いだ とのことです。

  • 今回は石田組にとっては北陸初公演。「今日,石田組を初めて聴く人は?」という生野さんの質問に答えたのは,会場の大半のお客さん。関東地方だとこれと反対に90%がリピーターなのだそうです。というわけで「とても新鮮な気分です」とのことでした。

  • メンバーは,毎回石田組長から「この日は空いてるか?」とメールが来て決まるのだそうです。ちなみにこの日,お隣福井県でNHK交響楽団の演奏会が行われたのですが,ヴァイオリンの丹羽さんとヴィオラの中村さんは,そちらをサボって(?),「組」の方に参加されたとのことでした。

公演プログラムのリーフレット


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