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オーケストラ・アンサンブル金沢第483回定期公演マイスター・シリーズ(2024年7月13日(土)

2024年7月13日(土)14:00~石川県立音楽堂コンサートホール
1) ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番ハ短調, op.18
2) ラフマニノフ/ 
3) シベリウス/交響曲第2番ニ長調, op.43
4) チャイコフスキー/歌劇「エフゲニー・オネーギン」~ポロネーズ
●演奏
ロベルト・フォレス・ベセス指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)*1,3-4
小菅優(ピアノ*1-2)

7月の第2土曜日,2週連続となるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK
)
の定期公演を聴いてきました。

今回は 2023/24マイスター定期シリーズの最終公演でした。この日のOEKは前週同様10型(第1ヴァイオリン10人)編成で,金管楽器にはトロンボーン3,テューバ1が加わり,ホルンも4人でした。今年の7月はずっとこのサイズでしたので,「7月だけはOEK+」といった感じですね。

楽器の数はこれくらいでした。

この編成を生かして後半に演奏されたのがシベリウスの交響曲第2番。そして前半はラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が演奏されました。OEK初登場となるロベルト・フォレス・ベセスさんの指揮の下,シーズン・フィナーレに相応しい名演を聞かせてくれました。

前半のラフマニノフのピアノ協奏曲第2番では,ソリストとして小菅優さんが登場しました。小菅さんについてはドイツ音楽を得意としている印象を持っていたので今回の選曲は少々意外でしたが,甘く華麗なだけではない,緻密な設計と熱さを感じさせる演奏を聞かせてくれました。

第1楽章冒頭のピアノ・ソロは分散和音で始まりました。特に最初の音がとても弱く,ためらいがちだったので,全く別の曲を聴くようでした。この部分に限らず,とても内省的な美しさを持ったピアノでした。OEKの音にも重過ぎず明る過ぎず,バランスの良い充実感がありました。第2主題には憧れがと爽やかなロマンが漂っていました。その後の展開部では力強い歩み。再現部に出てくるホルンの高音は非常に遅いテンポで,演奏する方もかなり大変そうでしたが,その分胸が詰まるような切なさがありました。

第2楽章もしっとり,じっくりと演奏されていました。フォセス・ベセスさんは,2024/2025シーズンからイギリス室内管弦楽団の首席客演指揮者に就任予定で,室内オーケストラの指揮経験も豊富な方です。小菅さんも室内楽に熱心に取り組んでいますので,この楽章はまさに本領発揮という感じの充実感がありました。ピアノのモノローグの後,木管楽器がその気分をしっかりと受け継いでいきました。小菅さんはソロを取る楽器の方を見ながら,しっかりとしたタッチで演奏しており,濃密な気分が漂っていました。その一方で,カデンツァでは多彩で華麗な音を鮮やかに楽しませてくれました。再現部では昇華されたような気分となり,ホール全体が至福の時間に包まれました。

第3楽章は一転して鮮やかな演奏で,小菅さんのピアノも一回り大柄になった感じ。キラキラとした音を聞かせてくれましたが,この楽章でも第2主題の憂いをもった歌が素晴らしかったですね。デリケートだけれども甘すぎない演奏を聴かせてくれました。この楽章ではシンバルが弱音で連打する部分がありますが,非常に丁寧に演奏されており,何とも言えない神秘的なムードが漂っていました。

中間部ではしっかりと間を取って,主役登場といった感じでピアノが貫禄たっぷりに入ってきました。とてもゆっくりと内省的な気分を持って演奏されており,じっくりと練られた音楽が続きました。曲の最後の部分も聞き物でした。トランペットやホルン4本が力強く加わり,弦楽器がじっくりとうねりながら,大きく盛り上がるのですが,小菅さんのピアノには緻密さとキレの良さがありどこか知的な気分。OEKともどもしっかりと表現が練られた,浮ついたところのないエンディングでした。

その後,アンコールでラフマニノフの「リラの花」変イ長調, op.21-5という曲が演奏されました(フォレス・ベセスさんもオーケストラのメンバーに混ざって聞いていました)。キラキラとした感じのある歌が素晴らしく,自然とビジュアルな情景が浮かんでくるようでした。

後半はシベリウスの交響曲第2番が演奏されましたが,OEKがこの曲を単独で演奏するのは今回が初めてだと思います(県内の大学生オーケストラとの合同公演で演奏するのを一度聞いたことはあります)。こちらもフォレス・ベセスさんの意図がしっかりと浸透した素晴らしい演奏でした。

第1楽章冒頭からデリケート過ぎずにくっきりとまっすぐとした音楽。木管楽器の音が美しかったですね。そして弦楽器のユニゾンの鮮明さ。ウァっと情が揺れ動くようような細やかさと透明感がありました。演奏のどの部分を取っても精妙さがあり,色々なリズムや音が明快に聞こえてくる辺り自然そのものの音のように感じました。そして「OEKのシベリウス」だなぁと思いました。

第2楽章はCDなどで聞いていると少々長く感じることもあるのですが,この日の演奏は非常に充実感がありました。力のこもったティンパニに続いて,コントラバスやチェロのじっくりと聞かせる響き。合いの手を入れるように入ってくるファゴットやホルンなどにも存在感があり,室内楽を聞くようなムードがありました。途中弦楽器が弱音で演奏する素晴らしい部分があるのですが,その部分での別世界に入ったような精妙さと広がり。色々な音が重層的に出てくるような部分にも鮮やかさがあり,この楽章でも,フィンランドの自然そのものをリアルに伝えるような感じでした。解像度の高い音がパッと飛び込んできて,全く退屈しませんでした。

第3楽章は中庸のテンポによるくっきりとした演奏。この楽章でも隅々まで磨かれているのが素晴らしいと思いました。この鮮やかさは室内オーケストラ+αぐらいで演奏することのメリットなのかもしれません。大きく間を取った後の中間部では加納さんのオーボエがしっとりと可憐な音を聞かせてくれました。その後,対照的にティンパニの強烈な音。何が出てくるか分からないスリリングな感じがありました。第4楽章に推移していく部分での細かい音の動きもとても面白いと思いました。

そして第4楽章。すっと雲が晴れたような気分になる感じは何度聞いても最高ですね。オスティナート風の低音の上でトランペットがファンファーレを演奏する感じが気持ち良いですね。第1ヴァイオリンが大きく歌い上げる部分では,いつものことながらコンサートマスターのアビゲイル・ヤングさんを中心とした豊かな歌が素晴らしいと思いました。全曲のフィナーレに向けて音楽が大きく盛り上がって行くのですが,ここでも細部の音の動きが鮮やかに分かり,非常に構築的な音楽に聞こえました。フォレス・ベセスさんの指揮は結構細かく指示を出す感じでしたが,最後の最後まで丁寧な指揮ぶりで,美しい音で全曲を締めてくれました。

全曲を通じての解像度の高い明晰な音作りに加え,フィナーレに向かってスケール感たっぷりに大きく盛り上がっていく演奏。フォレス・ベセスさんの描いた設計図どおり鮮やかなシベリウスになっていたと思います。

最後にアンコールとしてチャイコフスキーの歌劇「エフゲニー・オネーギン」の中のポロネーズがどっしり,華やかに演奏されてお開きとなりました。

「これで今シーズンも完結!夏本番」といった雰囲気の素晴らしさでしたが…今年の7月は広上淳一アーティスティック・リーダーによるファンタスティック公演も忘れてはいけませんね。今シーズンは,大編成三本立で完結させたいと思います。

PS. 終演後,フォセス・ベセスさんと小菅さんによるサイン会が行われました。

フォレス・ベセスさんにはプログラムの表紙にいただきました。
小菅さんには吉田誠さんと共演したブラームスのクラリネットソナタのCDにいただきました。

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