広島交響楽団金沢公演:オーケストラ・キャラバン(2023年6月15日)
Review
コロナ禍の中で始まった,全国のオーケストラを地元以外で楽しむ「オーケストラ・キャラバン」企画として広島交響楽団金沢公演が行われたので,石川県立音楽堂で聴いてきました。広響が金沢で演奏会を行うのは今回初。徳永二男さん指揮,外村理紗さんのヴァイオリンによるオール・チャイコフスキープログラムを楽しんできました。
演奏会は,歌劇「エウゲニー・オネーギン」のポロネーズで始まりました。ゴツゴツとした感じの硬質な響きによる,ポロネーズらしいポロネーズ。中間部のチェロの歌わせ方が良いなと思いました。
指揮の徳永さんは,プロフィールによると1994年にNHK交響楽団を退団....そろそろ30年ですね。個人的には,サヴァリッシュ,スウイトナー,シュタインといったドイツ系「常連」指揮者時代のN響の「顔」という印象をいまだに持っています。時の流れは速いものだなと改めて感じています。
続いて,外村理紗さんのソロでチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が演奏されました。第1楽章は,大らかさのある序奏部に続いて,外村さんのくっきりとした音が入ってきました。まさに「ソリストの音」という感じでした。弱音でもオーケストラの音に埋もれることなく(やはり,この曲の作り方も,巧いのだと思います),落ち着きのある音がホールに広がっていました。
外村さんは,いしかわミュージック・アカデミーの「元受講生」で,2018年インディアナポリス国際ヴァイオリンコンクールで2位を受賞される前に石川県立音楽堂交流ホールで行われた「ライジングスター・コンサート」で聴いたことがあるのですが(その時は高校生だったかも),今回はさらに堂々としたステージでした。押し出しの良い音,慌てることなくじっくりとテンションを高めていく感じなど,熟練の演奏という感じでした。
展開部はオーケストラのどっしりとした音で開始。外村さんのヴァイオリンもそれにぴったりの落ち着きのある演奏。楽章後半のカデンツァなども,とてもじっくりと歌われていました。
第2楽章も,甘くなりすぎることのない,落ち着きのある静かな歌を聴かせてくれました。この楽章では木管楽器との対話も聞きもの。クラリネットやフルートとの掛け合いにも味わい深さがありました。
第3楽章は一転して荒々しい気分で開始。外村さんの演奏は,一つ一つの音のニュアンスの変化が大変多彩で。ピツィカートにも色々あるなぁなどと感心しながら聴いていました。そして音楽の高揚とともに,ぐいぐいと攻めてくるような積極性が出てくるのが素晴らしかったですね。たくましい野性味も感じられれ,若い外村さんが全体を引っ張っているように感じました。
曲の終結部,満を持して独奏ヴァイオリンが重音になる部分も大好きなのですが,迫力たっぷりの鮮やかさ。各楽章を積極的かつじっくりと描き分けた素晴らしい演奏だったと思いました。
アンコールでは,バッハの無伴奏パルティータの中の,有名なガヴォットが演奏されました。この曲では,外村さんの即興的で自由な解釈が炸裂した,オリジナリティあふれる演奏になっていました。音を短く切って,弾むような演奏。多分,バッハのオリジナルの楽譜はとてもシンプルだと思うので,それをベースに外村さん独自のイマジネーションを発揮した,アーティスティックな演奏。これからが大変楽しみなアーティストだと思いました。ただし...この日のドレスはキラキラしすぎていて,少々目がくらみそうになりました。
後半演奏されたのは,チャイコフスキーの「悲愴」交響曲でした。金沢だと,5番の交響曲は結構頻繁に演奏されるのですが(5月の楽都音楽祭でも,小林研一郎指揮群響で聴いたばかり),「悲愴」の方は...いつ以来か思い出せないぐらいです。
徳永さんの作る音楽には,おどろおどろしい感じはなく,特に弦楽器の雄弁な歌わせ方が魅力的だと思いました。第1楽章の冒頭のコントラバスの音などにも独特の虚無感が漂っていました。その上に登場するファゴットの音もその雰囲気にぴったりマッチしていました。その後に続く弦楽器の動きには,キビキビとした端正さがありました。第2主題にもベトつかない美しさがあったので,古典派の交響曲に通じる抑制された美しさを感じました。p×6個の弱音の後の展開部は堂々とした雰囲気でしたが,トロンボーンやテューバの音に明快さがあり,粗っぽい感じがありませんでした。
2楽章も大変こなれた演奏で,5拍子であることを忘れてしまいそうでした。というわけで,どちらかというと弦楽セレナードのワルツなどに通じるような美しさがありました。中間部はティンパニの連打の上に,悲しげなメロディが品良く漂う感じが魅力的。小粋なバレエ音楽を聴くような感じでした。
第3楽章もキビキビとしたリズムが心地よい,颯爽とした演奏。ここでも大げさな感じはなかったのですが,後半で活躍するシンバルの音が素晴らしかったですね。この楽章になると,最後列の打楽器奏者の皆さんがゾロゾロ動き出すのを見るのが好きだったりします。特にシンバル奏者の方の動作には,この一撃に掛ける「仕事人」といった風情がありました。一発一発,叩き方(というか,鍋蓋の合わせ方)が違っており,シャキッとかシャーンとかいう感じで鮮烈に決めてくれるけれども,無駄な動作は全くない...この感じが実に良かったですね。ついつい注目してしまいました。
# この楽章の後に,「思わず拍手」が入るかどうか…いつも注目しているのですが,今回もパラパラと入りました。
最終楽章は,第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの間でメロディが揺れ動くウェットな感じで始まった後,ここでも美しい音楽が続きました。ホルンの不気味な音に続き,銅鑼の音が静かに入るのですが,あまり重苦しい感じはせず,どちらかというと「人生のはかなさ」のような気分があると思いました。楽章の最後,鼓動のように続くコントラバスの音がとても印象的でしたが,これがパッと消えて終わる感じで,かなりあっさりしていました。
全体を通じると,一般的な「悲愴」のイメージからすると健康的過ぎるのかなという気もしましたが,そこが徳永さん「らしさ」で,新鮮さを感じました。
アンコールでは,チャイコフスキーの「アンダンテ・カンタービレ」が演奏されました。暖かみのある弦楽器の響きが素晴らしかったですね。中間部では,コンサートマスターの三上さんの独奏になっていましたが,曲想の変化がより鮮明に感じられ,これもよい味になっているなと思いました。
このオーケストラ・キャラバン企画のおかげで,この3年間で,大阪交響楽団,セントラル愛知交響楽団,九州交響楽団,そして広島交響楽団の公演を金沢で初めて聴くことができました。安価で楽しめることもあり,是非,これからも続いて欲しいですね(個人的には,札幌とか山形とか,「北の方」に関心があります。)。よろしくお願いします。
PS.6月になって石川県立音楽堂に行くのは初めてでしたが,OEKのグッズが色々登場していました。次々,新しい試みが出てきますね。
この日も広上淳一さん+徳永二男さんによるプレトークがありましたが,指揮をしないのに音楽堂周辺にこまめに出没される広上さんの行動力に改めて感嘆しています。
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