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石川フィルハーモニー交響楽団第34回定期演奏会:トヨタコミュニティコンサート(2024年9月8日)

2024年9月8日(日)14:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール
ゲーゼ/スコットランド序曲「高地にて」op.7
シベリウス/交響曲第5番変ホ長調, op.82
ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調, op.95「新世界から」
(アンコール)シベリウス/組曲「カレリア」~行進曲風に
●演奏
花本康二指揮石川フィルハーモニー交響楽団

石川県立音楽堂で行われた石川フィルハーモニー交響楽団第34回定期演奏会を聴いてきました。今回はアマチュアオーケストラ活動を支援するトヨタコミュニティコンサートとして行われたこともあり入場料無料。いつもにも増して,大勢のお客さんが入っていたようです。

今回のプログラムの特徴は,超名曲のドヴォルザークの「新世界」に加え、金沢では実演で聞く機会が非常に少ないシベリウスの交響曲第5番も演奏された点でした。アマチュアオーケストラがシベリウスの交響曲を演奏する場合,2番(次は1番でしょうか)が多いと思うのですが、今回は5番。一度実演で聞いてみたい曲だったので、今回はこの曲を目当てに聞きにいきました。指揮は常任指揮者の花本康二さんでした。

この日はステージ両サイドの電光掲示板に
各楽章の簡単な解説などが表示されていました。

最初にデンマークの作曲家ゲーゼスコットランド序曲「高地にて」が演奏されました。プログラム解説にあったとおり,同時代のメンデルスゾーンを思わせるような雰囲気たっぷり,かつ折り目正しさのある気持ちの良い作品でした。曲の最初,穏やかな雰囲気の中でクラリネットの音が聞こえてくるのもメンデルスゾーン的。「スコットランドのおいしい空気」とラベルを貼りたくなる感じでした。その後金管楽器も加わって華やかに盛り上がって行きますが(テューバやピッコロも加わる,結構ダイナミックレンジの広い音楽),基本的にはとても健全な音楽で,気持ち良い世界に浸ることができました。こういう知られざる一品を取り上げてくれるのは嬉しいですね。

2曲目はシベリウスの交響曲第5番でした。私自身,過去CDや放送で聞いたことはありますが,実演で聞くのは今回が初めてでした。何と言っても曲の最後の「人を喰ったような終わり方」が印象的な曲です(逆に言うと,ほとんどこの部分しか覚えていない曲でした)。

第1楽章はホルンの和音の後,フルートが登場。これだけで北欧気分になります。弦楽器のほぼ暗く繊細な音も素晴らしいと思いました。途中,ファゴットが結構長いソロを演奏していたのも印象的でした。モゴモゴと何かを訴えている感じも独特な味がありました。シベリウスの交響曲といえばトランペットがパッと入って来て,鮮やかな印象を残すパターンもありますが,この楽章でも気持ち良く歌っているのが印象的でした。

その後スケルツォ的な部分になります。この交響曲は何回か改訂された後,最終的には3楽章形式になったのですが,この第1楽章の後半はオリジナル版では第2楽章だった部分です。疾走する感じが続いた後,音楽が大きく盛り上がり,最後ハシッと決まるところが実に爽快でした。

第2楽章は指揮者の花本さんのプレトークで説明があったとおり,弦楽器のピツィカートが印象的な音楽。少々捉えどころのない感じもしたのですが,軽妙な味わいがありました。途中出てくるホルンの強奏も印象的でした。

第3楽章は弦楽器のトレモロの後,ホルンが「白鳥のテーマ」を演奏しました。「16羽の白鳥が飛んでいるイメージ(この16という数字にどういう意味があるのか少々気になります)」ということで,雄大な情景が視覚的に浮かぶようでした。その後,弦楽器による細かい音の動きが続くのですが,こういった部分での,ざわざわ&延々と精緻な音の動きが続く面白さは実演でないと味わえないかもしれませんね。ミニマルミュージックを聴くように,繰り返しが段々と心地良くなってくる感じでした。曲の最後では,壮大に「白鳥のテーマ」が再現し大きく盛り上がっていきます。この「白鳥が戻って来た」感が良かったですね。金管楽器の響きは,ちょっと雑然とした感じかなという気はしましたが,最後の最後の印象的な「ジャン×6回」の部分は,緊迫感たっぷりにビシッと決まり,心の中で「ブラボー」と叫んでいました。

後半は,めったに演奏されないシベリウスの5番とバランスを取るようにドヴォルザークの「新世界」交響曲が演奏されました。金沢でも今年の7月に川瀬賢太郎さん指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢の定期公演で演奏されたばかりです。

石川フィルの定期公演では花本さんによるプレトークが行われるのが恒例ですが,今回は「出番が少ない2人(テューバとシンバル)」にインタビューするという、長年石川フィルを指揮されている花本さんならではのプレトークがありました。出番が少ないからこそ,この名曲を特徴づける楽器になっているなぁと改めて思いました。

第1楽章は,とてもスムーズで落ち着いた出だし。そしてティンパニの立派な音。ホルンの勇壮な響き。どの楽器も音が整っており,安定感抜群の出だしでした。対照的にフルートに出てくる主題などはとてもデリケートでした。ちなみに主題呈示部の繰り返しも行っていました。展開部以降も堂々とした歩み。どんどん音の厚みが増していく感じでした。楽章最後はトランペットがファンファーレのような音を吹く部分をいつも注目しているのですが,突き抜けてくるような爽快な音でした。

第2楽章は,プレトークに登場したテューバを含む和音で始まります。上述の7月のOEK定期では川瀬さんの判断で「テューバなし」で演奏されましたが,この日のプレトークでのお話だとテューバはバストロンボーンと同じ音を演奏しているとのこと。音を重ねて厚みを出すのが「新世界」の2楽章と思っていたので,ドヴォルザークの真意を知りたいところです。

その後,お馴染みの「家路」のメロディをイングリッシュ・ホルンが演奏します。すっきりとしているけれどもしみじみと聞かせる素晴らしい演奏でした。楽章全体としても重すぎない感じでした。中間部のフルートとオーボエによる悲しげな音も魅力的でした。弦楽器の最前列の奏者たちによる室内楽的な部分の後,最初と同じ和音が戻ってきますが,コントラバスの音もしっかりと響いていて良いなぁと思いました。

第3楽章は余裕のあるテンポで開始。ここでもティンパニのパンチ力のある音がビシッと締めていました。管楽器も活躍する楽章ですが,ホルンの音が良いなぁと思いました。第4楽章はどっしりとした感じで開始。ここでもホルンがガッチリと聞かせてくれました。トランペットの音は個人的には少々派手すぎるかなと感じました。そして…プレトークでも紹介された一発だけのシンバルがシャーンと存在感のある音を聞かせてくれました。この音の後,クラリネットが出てきて,楽章の空気感がパッと変わるのが,何回聞いても良いですね。

ちなみにプレトークの時,花本さんが「子供の頃,東芝日曜劇場の「ああ新世界」というドラマが強く印象に残っている」と紹介されていましたが,このドラマは私も見た覚えがあります。主演のフランキー堺が一発だけのシンバルを叩き忘れるという,ストーリーでした。ただし…それ以外の部分は全く覚えていないので,リメイクでも良いので再放送して欲しいですね。私にとっての「新世界」の原体験でした。

楽章の後半,ホルンが超高音を聞かせる部分がありますが,この音も素晴らしいと思いました。全曲の最後の部分も充実の音でした。ただし,個人的に最後の音はもう少し長~く溜めて欲しいかなと思いました。

演奏後,花本さんは各パートを順番に立たせてねぎらっていましたが,いつも以上にテューバとシンバルの時に拍手が大きかったのが見ていて嬉しかったですね。

アンコールでは,シベリウスの組曲「カレリア」から「行進曲風に」が演奏されました。前半の北欧気分に戻る,絶妙の選曲だと思いました。明るい行進曲なのだけれども,どこか哀愁が漂う感じが大好きな曲です。控えめに流れて行く感じが美しい演奏でした。

挑戦的な曲と名曲を組み合わせた、聞きごたえ十分の定期演奏会。今後,どういった曲に挑戦していってくれるのか楽しみますます楽しみになりました。

PS. シベリウスの交響曲については,今回の5番を加えると,1,2,5~7番(クレルヴォ交響曲は除く)を実演で聞いたことになります。そう考えるとシベリウスの3番,4番を期待したいところですが…特に4番は渋すぎて冒険的過ぎるかもしれないですね。

9月から始まった,音楽堂マルシェ。この日も営業していました。
ホール入口付近も結構賑わっていました。

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