ふだん着ティータイムコンサート Vol.26(2023年5月28日)
前日の定期公演に続き,日曜日の午後,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーによる「ふだん着ティータイムコンサート」を金沢市民芸術村で聴いてきました。コロナ禍等の影響もあり,私自身行くのは久しぶりでしたが,例年どおり幅広い層のお客さんが沢山集まっており,オープンスペースは大盛況。みなさんOEKメンバーの演奏を間近で,リラックスした気分で楽しんでいました。
前半は,こどものためのコンサートがオープンスペースで行われました。以前,このコンサートの司会は,ずっとファゴットの柳浦さんが担当されていましたが,今年はコンサートマスターの松井直さんが担当。とてもスムーズな進行でした。
最初に定番のアニメ「となりのトトロ」の中の「さんぽ」が演奏された後,弦楽器から順番に楽器紹介が行われ,弦楽器,管楽器,打楽器にちなんだ曲が演奏されました。弦楽合奏の曲としてはレスピーギ,管楽器が活躍する曲としては,クラリネット・ポルカが演奏されました。遠藤さんと木藤さんがステージの両端に立って,掛け合いをするのは,このコンサートの定番。そして,シンバルと大太鼓で雷鳴と稲妻を表現する,ヨハン・シュトラウスのポルカ「雷鳴と稲妻」が演奏されました。この曲も定番ですね。
メンバー紹介では,4月から新しくOEKに加わった,オーボエの橋爪恵梨香さんとティンパニの望月岳彦さんが自己紹介。橋爪さんは大阪出身,望月さんは千葉出身とのこと。千葉県は梨の生産量が多いことを初めて知りました。
その後は,恒例の指揮者体験コーナー。今年はブラームスのハンガリー舞曲第5番が課題曲で,「指揮のお手本」として望月さんが予告なしでご指名を受けていました…が,緩急自在の見事な指揮でした。登場した子どもたちの方は,皆さんとても遅いテンポになっていましたが,振り方を遠慮すると,どんどんオーケストラの方にパワーに引きずられてしまうのかなと思いました。
大人用の課題曲は,ベートーヴェンの「運命」の冒頭。誰もが知っている曲ですが,非常に指揮しづらい曲ですね。ジャジャジャ・ジャーンと4回振りたくなりますが,楽譜上は休符から始まるので1回振り下ろしてもすぐに音は鳴らず,持ち上げた瞬間にジャジャジャと鳴り,2回目に振り下ろした瞬間にジャーンとなるような感じですね。
続いては「おもちゃの交響曲」の第1楽章。基本的にヴィオラ以外の弦楽器のみで演奏する曲なので,ヴィオラと管楽器,打楽器のメンバーが「おもちゃ」の担当。皆さん,楽譜をしっかり見ながら,まじめにおもちゃを演奏する感じが,見ていても楽しめる曲ですね。
このコーナーの最後は,金沢市民芸術村所蔵の各種鳴り物を子供たちに配布して,みんなで一緒に「さんぽ」を演奏してお開きという趣向。
マラカス,タンバリン,シェイカーなど以外に見慣れない感じの楽器もあり...これはちょっと参加してみたかったですね。
休憩後は,ミュージック工房での室内楽コンサートとなりました。こちらも大盛況でした。例年,メンバーこだわりの曲が演奏されますが,今年は「ファゴットの年」という感じで,ファゴットの金田さんと渡邉さんが特に大活躍でした。
最初に演奏された,哀しげで美しいメロディのドゥヴィエンヌの曲がまず魅力的でした。モーツァルトの曲と言われても気づかないような感じの作品。金田さんのファゴットの甘い音が素晴らしかったですね。
2曲目のゴードン・ジェイコブの曲は,渡邉さんが登場。こちらは抜粋での演奏でしたが,ゆっくりしたテンポの楽章とスケルツォ風の楽章の対比を楽しむことができました。人の声のような音色,どこかとぼけた味わい(「魔法使いの弟子」のような感じ)など,ファゴットらしさをしっかり楽しめました。
この室内楽コンサートでは,メンバーのトークも楽しみです。渡邉さんは,金田さんのことを「ファゴット界の大谷選手」と紹介されていましたが...大谷選手が使っているバットの素材とファゴットの素材は同じという面白いネタを教えてもらいました。両方ともメープルとのこと。メープルのバットは打音が良いのだそうです。というわけで...ファゴットを打楽器として使っても良い音が出るのでは?と変なことを思いつきましたが...そんなバチ当たりなことはできないですね。金田さんのトークはとても短かったのですが,せっかくなので,6月の小松定期公演でソリストとして登場することなどを紹介しても良かったのに,と思いました。
3曲目は,ファゴットの金田さんとチェロの早川さんによる,モーツァルトの二重奏曲。似た音域&キャラの楽器の二重奏ということで,ほのぼのとした雰囲気が漂うような曲・演奏でした。ちなみにこの曲,伊丹十三監督の「タンポポ」という映画で使われており,聴いているといつも料理のBGMのように感じてしまいます。というわけで,ファゴット好きにはたまらない前半でした。私自身,「ファゴット沼」にはまりそうな気分になりました。
ここで休憩が入った後,後半はOEKメンバーから構成されている,金沢弦楽四重奏団による,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番の第3楽章がじっくりと演奏されました。この曲の肝になる楽章で,大病明けのベートーヴェンが生み出した,透明で深い境地がバランス良く伝わってきました。静かな雰囲気が続いた後,途中,凜として立ち上がるような感じになるのが感動的でした。というわけで,6月に行う公演に向けての,絶好のPRになっていました。
最後は木管八重奏によるモーツァルトのオペラ名曲集。いわゆる「ハルモニー・ムジーク」と呼ばれるジャンルで,この編成にアレンジされたものは当時流行していたようですね。各曲ともまず,心地よく流れるメロディが美しかったのですが,細かくリズムを刻むタンギングも心地よかったですね。今年はOEK創立35周年で,石川県内の全市町村を回るそうですが,このチームは能登地方で演奏を行うとのこと。ちょっと追っかけをしたい気分にもなりました。
というわけで,コロナ禍の前と同様,OEKメンバーを身近に感じつつ,のんびり過ごした午後でした。
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