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【曲目解説】メシアン/世の終わりのための四重奏曲 Messiaen: Quartet for the End of Time

メシアンが第2次世界大戦の捕虜生活の中で作曲した作品です。20世紀に作られた室内楽曲を代表する作品です。初演は1941年1月に第8-A収容所で行われています。編成がクラリネット,ピアノ,ヴァイオリン,チェロという変則的な形を取っているのは,収容所で書かれたことと関係があります。メシアンと同じ収容所にこれらの奏者が揃っていたことがその理由です。偶然できた編成なのですが,そのことによって不思議な色合いが出てきたとも言えます。

この作品は,旧約聖書の「ヨハネの黙示録」第10章からインスピレーションを得て作られています。この部分は次のとおりです。

わたくしは,一人の強い天使が天からくだるのを見た。かれは雲につつまれ,頭上には虹があった。顔は太陽のようであり,足は火の柱のようであった。右の足を海の上に,左足を地の上に置き,海と地の上に立ち,手を天に向ってあげて,世々限りなく生きるあの方に誓っていった。「時はもはや延びることがない。そして第7の天使のらっぱの日に,神の奥義が成就される。

曲は8つの楽章から出来ています。メシアン自身の言葉によると「7は完全な数である。6日間の天地創造は神の安息日によって聖化された。休息にある第7日はそれ自体を永遠へと延長し,尽きない光と不変の平和の第8日となる」とのことです。8つの楽章にはそれぞれ,フランス語のタイトルが付けられています。聞き手を時空の永遠性に導くような独特の感覚を持った作品でとなっています。

ちなみにこの曲のタイトルの「世の終わり」という言葉は,「世界が滅亡する直前」といったような意味だと思われがちですが,フランス語の原題の"fin du temps"は英語で言うと"End of time"となり「時の終わり」と呼ぶ方が正確なようです。

1.水晶の礼拝
目覚めた鳥たちの歌です。クラリネットのひそやかな響きに続いて,いろいろな楽器によって鳥の鳴き声のような音型が演奏されます。メシアンの得意なツグミ,ナイチンゲールといった鳥の鳴き声が即興的に描かれていきます。全体的に調和に満ちた静寂の世界が広がっています。

2.世の終わりを告げる天使のためのヴォカリーズ
第1曲と第3曲が天使の力を喚起する曲である,とメシアンは語っています。その間にある第2曲は,「天空の微細なハーモニー」を暗示しています。ピアノのダイナミックな和音で始まります。各楽器がそれに応えます。ピアノの音はカリヨンの響きのようでもあります。その後,ヴァイオリンとチェロの単旋聖歌風のレチタティーヴォが弱音で延々と続きます。この2つの楽器はユニゾンで演奏されます。最後はきっぱりとした感じで結ばれます。

3.鳥たちの深淵
クラリネット・ソロの曲です。悲嘆と倦怠を持った深淵を見せてくれます。10分近く延々とクラリネット1本だけで演奏される曲というのは大変珍しいと思います。曲は,深々とゆったりとした音の動きで始まりますが,次第に変化に富んだ表情を見せてきます。非常に強く長い音を出したり,とても速い音の動きになったり,鳥の声が出てきたり,とクラリネットの変化に富んだ響きを堪能できます。

4.間奏曲
スケルツォにあたる楽章で,ピアノはお休みです。とても短い楽章です。弦楽器のユニゾンで鮮烈に始まった後,クラリネットが加わってきてユーモラスに展開していきます。途中少し静かな感じになりますが、また最初の部分が戻ってきます。最後はチェロのピツィカートでさらりと終わります。

5.イエズスの永遠性に対する頌歌
非常に遅いチェロのフレーズが「イエスの永遠性」をたたえる楽章です。荘重であると同時に優しさを感じさせてくれます。「はじめに言葉があった。そして言葉は神のうちにない,言葉は神であった」という言葉にインスピレーションを得て作られています。チェロの息の長いソロとピアノの和音の連続が淡々と続きます。単調さの中にも徐々に感情が高ぶっていくような神秘的な表情を持っています。最後はまた静かな雰囲気に戻って平静な気分の中で楽章が結ばれます。

6.七つのらっぱのための狂乱の踊り
リズム的には全楽章中もっとも複雑な楽章です。恐怖感と焦燥感が一貫して続きます。ユニゾンの4つの楽器がドラとラッパの効果を生んでいます。楽章すべてに渡ってこれだけ徹底してユニゾンという曲も少ないと思います。しばらく同じパターンで曲が進みますが,途中で弱音中心になります。また最初の雰囲気に戻った後,かなりダイナミックな音の動きになります。一息ついた後,恐ろしげな雰囲気のまま曲は終わります。

7.世の終わりを告げる天使のための混乱
第5楽章と似た雰囲気で始まります。チェロがピアノの演奏する和音の上に息の長いメロディを演奏します。続いて,他の楽器が加わって来て,各打楽器が打楽器的活躍する激しい曲想に変わります。これらが交互に出てきた後,目眩くような色彩感豊かな世界になります。最後に前半の激しい部分が再現し,楽章全体が結ばれます。

8.イエズスの不死性に対する頌歌
第5楽章のチェロのソロと対になるように静かにヴァイオリン・ソロが出てきます。ピアノの和音の上がここでも単調に続き,時を刻むように曲は進みます。曲は途中わずかに起伏をもって盛り上がります。曲の最後では,ヴァイオリンの高音が長く延ばされたまま弱くなっていきます。時空の彼方に消え入るように曲は結ばれます。

(カバー写真CD紹介)メシアン:世の終わりのための四重奏曲他/タッシ(RCA BVCC-8899~8900)(サイン:タッシのメンバーでクラリネット奏者,リチャード・ストルツマンさん,2023年9月13日石川県立音楽堂)

(参考)CD「メシアン:世の終わりのための四重奏曲他/タッシ(RCA BVCC-8899~8900)」の解説

執筆:2003年10月26日

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