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オーケストラ・アンサンブル金沢 ありがとうコンサート:日頃のご支援と感謝を込めて(2023年08月31日)

2023年08月31日(木)19:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール
1) アンダーソン/舞踏会の美女
2) アンダーソン/シンコペーテッド・クロック
3) アンダーソン/タイプライター
4) アンダーソン/トランペット吹きの子守唄
5) アンダーソン/フィドルファドル
6) 栗原正巳/マヨネーズ第2番
7) ニューマン/映画「トイストーリー」~「君はともだち」
8) イギリス民謡/川口くんのおすすめトラッド1&2
9) 栗原正巳/小組曲「ピタゴラスイッチ」特別編
10) アンダーソン/リコーダー?吹きの休日
11) アンダーソン/ブルータンゴ
12) アンダーソン/ワルツィング・キャット
13) アンダーソン/忘れられた夢
14)(アンコール) 渡辺俊幸/オペラ「ZEN」~O wonderful
15)(アンコール) アンダーソン/そりすべり
●演奏
広上淳一指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)*1-5,9-15,栗コーダーカルテット*6-10
司会:戸丸彰子

8月最終日の夜,広上淳一さん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による「ありがとうコンサート」を石川県立音楽堂で聴いてきました。「賛助会員はご招待,定期会員は2,000円」ということで,「日頃のご支援への感謝」が趣旨でしたが,会場には若い家族連れも多く,オーケストラ入門的な間口の広さのある公演となっていました。

幅広い客層だったのは,今回のプログラムがルロイ・アンダーソンの親しみやすい曲を中心としたプログラムだったことと,NHK Eテレ「ピタゴラスイッチ」の音楽でお馴染みの栗コーダーカルテットがゲスト出演していたこともあると思います。リラックスしたムードの中から暖かみのある音楽が次々と湧きあがってくるようでした。さらには,休憩時間を30分に延長し,ファンとOEKメンバーとの交流の時間としていました。こちらも大盛況。色々な面で,広上アーティスティック・リーダーらしさの表れた演奏会でした。

OEK創設35周年記念ということで「35」の照明

前半はまず,OEK全メンバーのビデオメッセージの投影から始まりました。さすがに少々長かったかもしれませんが,感謝の言葉がストレートに伝わってきました(余談:ビデオメッセージの背後にメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」の第1楽章がずっと流れていましたが,OEKがCD録音をしていない曲なので,「誰の指揮による音源?」と思ってしまいました。井上道義さん指揮?)

続いて,金沢ではお馴染みのフリーアナウンサー,戸丸彰子さんのとっても明快でスムーズな司会に広上マエストロとのトークを交えて,アンダーソンの作品が5曲演奏されました。

1曲目は「舞踏会の美女」。最初の一音からキラキラ,生き生きした音が弾けていました。たっぷりとよく鳴る響を聴いて,公演の始まりに相応しいゴージャスさも感じました。

この日のOEKメンバーですが,オリジナルデザインのユニフォームで演奏していました。男女共通のデザインの黒地のパンツルックで,弦,木管,金管,打楽器ごとに縁の部分の色分けがされているものでした(ちなみに指揮者用の衣装は、襟・袖それぞれに違う色が入っていました)。あまりにもすっきりと整っているので,ちょっと見た感じ「宇宙船の乗組員」風でもありましたが,今年度,石川県内全市町村で行っている公演ではずっとこの衣装を使っているとのことです。楽器紹介などには便利でし,とても軽い生地を使っているので,機能的で演奏もしやすいようです。

続いては「シンコペーテッド・クロック」「タイプライター」という定番中の定番の2曲が演奏されました。「シンコペーテッド・クロック」は,金沢弁で言うところの「ガッパになって」演奏すると味が出ない曲ですね。広上さん指揮のOEKの演奏には,のんびりとした余裕があり,自然なユーモアが漂っていました。

「タイプライター」では,第1ヴァイオリンの青木さんが広上さんのご指名でソリストに。指揮者前でタイプライターを見事に演奏されていました。タイプライターをカチャカチャカチャカチャ…「演奏」した後,ステージ最後列の2人の打楽器奏者分担して「チーン」「キッ」といった音を出すのですが、そのタイミングがピッタリ。「さすが!」と思いました。

「トランペット吹きの子守歌」では,通常の独奏トランペットの代わりに広上さんがお得意の鍵盤ハーモニカを演奏。オリジナル曲のようなハマり具合でした。すっきりとした感じで演奏したり、ノスタルジックな気分たっぷりにヴィブラートをしっかり入れて演奏をしたり、熟練のハーモニカといった演奏になっていました。ちなみに曲の終盤の一箇所だけは、オリジナルのトランペットが演奏。「トランペットの方が効果的だから」とのことでした。広上さんは、鍵盤ハーモニカを使うようになって「管楽器奏者の気持ちが分かるようになった」とのことですが、独奏楽器として意外に音量もあるので、これからもオーケストラとの「共演」に期待したいと思います。

前半の最後は「フィドル・ファドル」。弦楽器が自在に活躍する楽しい曲ですが、演奏全体にジャズのテイストがあり、格好良かったですね。そして、曲の終盤に見せ場がありました。トランペットとトロンボーンが立ち上がって楽器を左右に振って演奏。往年の山本直純さんがやりそうな演出で,これもまたアンダーソンの音楽にぴったりの楽しさでした(この日トロンボーンパートに参加していた藤原功次郎さんの「X」のメッセージによると、「ニューヨークのクラブのような感じで」という広上さんからのオーダーに応えての演出だったとのことです)。

この日はお客様感謝デーということで,休憩時間は30分となりその間はふれあいタイムとなりました。色紙代わりのOEK絵葉書に「メンバーからサインをもらおう!」という趣向で、私を含め大勢の人が「御朱印集め(?)」気分でメンバーと気軽に接していました。「サイン集め」というきっかけがあれば、会話のきっかけにもなるので、過去の交流会の中でもいちばん盛況だったような気がしました。この企画、大ヒットでしたね。

時間がたつと記憶が薄れ、判読できなくなる可能性があるので、記録しておきます。左上から右下へ(左上のハガキ)Vaグリシンさん、Fg渡邉さん、Vn原田さん、Timp望月さん、Cl木藤さん、Vn松井さん、Ob加納さん、Hrn金星さん/(左下のハガキ)Va丸山さん、Cbルビナスさん、Vnトロイさん、Vc植木さん、Vn江原さん、Va古宮山さん、Ob橋爪さん、Vcキムさん、Vc早川さん、Vn近藤さん、Vn青木さん/(右側のプログラム)広上さん

後半は、ゲストの栗コーダーカルテット単独のステージで始まりました。

栗コーダーカルテットが石川県立音楽堂で演奏を行うのは、ラ・フォル・ジュルネ金沢2016以来だと思います。まず、あいさつ代わりに、オリジナルのリコーダー四重奏曲(関島さんは巨大なリコーダーで低音を担当)、マヨネーズ第2番。繰り返しが心地良い、「いつの時代の曲かわからない」といった、独特の味わいのある作品でした。この曲のタイトルの「マヨネーズ」ですが、「マヨネーズのCM用に作ったから」とのことでした。

続いて映画「トイストーリー」の中の「君はともだち」が演奏されました。ここでは「リコーダーなし」の編成で、次のような楽器を使っていました。
・栗原さん:鍵盤ハーモニカのような形でリコーダーのような音の出る楽器(「調べてみると「アンデス」という楽器でした)
・川口さん:小型のサクソフォン(100年前の楽器とのことでした)
・関島さん:テューバ
・安宅さん:ウクレレ
テューバのどっしりとした音と軽やかなリコーダー風の音の対比が面白く、軽やかにスイングする感じの楽しさがありました。

ステージはこんな感じ。楽器を色々持ち替えての演奏でした

続いては「川口くんのおすすめトラッド1&2」。このカルテットのオリジナル曲は、どれもタイトルが面白いのですが、説明的に書くと「メンバーの川口さんがおすすめする2曲の英国民謡」ということになります。リコーダーで演奏するのにぴったりの「正しい英国民謡」という感じの曲でした。2曲目で軽快にテンポアップするのが楽しかったですね。

その後はお待ちかね、OEKと栗コーダーカルテットの共演となりました。オーケストラと共演する機会は初めてということで、皆さん結構緊張されている様子でしたが、とてもうまく行っていたのではと思いました。演奏したのは、NHK Eテレ「ピタゴラスイッチ」用の音楽(といってもかなり短い曲ばかり)をメドレーにした小組曲。栗コーダーカルテットとOEKが交互に演奏した後、最後は一緒に、という趣向でした。いつもの4人編成の音楽が、巨大化したり元に戻ったりするのが楽しかったですね。

次の「リコーダー?吹きの休日」は、この日いちばんの聞き物だったと思います。通常は3本のトランペットで演奏する部分を3本のリコーダーに置き換えての演奏で、3人の奏者たちはとても真面目に演奏していました。OEKの方は多少控えめの音量で演奏していたようですが、オリジナル曲のようにこなれた、非常に軽快な演奏でした。当然のことながら、この曲の時は,原曲では大活躍のはずのトランペット奏者はお休み。これが正真正銘「トランペット吹きの休日」なのでは,と思いました。

その後は再度、アンダーソンの曲に戻りました。「ブルータンゴ」は,文字通りちょっとブルーで流麗なメロディが美しい、アメリカ風タンゴ。最初の方で第1ヴァイオリンが全員起立で演奏する場面もありましたが、これもまた山本直純さんがやりそうな演出。個人的にこういう見せる演出は大好きです。タンゴのリズムに豪快さがあり、オーケストラで演奏するシンフォニックな気分も最高でした。

「ワルツィング・キャット」は、じっくり、かつリラックスした演奏。猫の雰囲気を生き生きと感じさせるリアルさもありました。実はこの曲、最後の最後に「吠える犬」が出てきて、一気に主役が猫から犬に代わってしまうのですが、この日の鳴き声は打楽器パートが担当。特に渡邉さん鳴き声は、演奏後、広上さんから「最高!」と絶賛されていました。

アンダーソン特集の最後の曲は、「忘れられた夢」。一般的にはあまり知られていませんが、その甘酸っぱい感じのひっそりとしたメロディを聞くと、誰もが好きになってしまうような曲です。楽しかった時間が過ぎ去った後を振り返るのにはぴったりの曲でした。ちなみにこの曲は本来はピアノが主旋律を演奏するはずですが、この日はフルートが演奏していました。一度、ピアノ版でも聞いてみたい曲です。

休憩時間が長かったこともあり、終演は21:00過ぎになりましたが、アンコールは2曲演奏されました。1曲目は渡辺俊幸作曲のオペラ「ZEN」の中に出てくるテーマ曲的存在の「O Wonderful」をオーケストラ演奏用に編曲したもの。実はこの日、休憩時間中に渡辺さんの姿をお見かけしたので、「何かあるな?」と思っていたのですが、アンコールでの登場でした。このオペラは、今年の秋に再演をする予定ですので、絶好のPRとなっていました。親しみやすい愛唱歌風の曲なので、今後もOEKの公演のアンコールピースとして定着していって欲しいですね。

粗さがしではありませんが…よく見ると「禅」の字が…

アンコール2曲目は、アンダーソン特集の締め。今回、8曲も演奏されたのですが、まだまだ名曲はあります。本割で演奏されなかった曲で最も有名な曲、「そりすべり」が演奏されました。12月になるといたるところで聞く曲ですね。こうやって聞くと、アンダーソンの曲は、打楽器が効果音的に活躍し、最後に「オチ」とか「ヒネリ」が入る曲が多いですね。この曲では、ムチやら鈴やらが登場し、最後は馬が高らかにいなないておしまいでした。

これでほぼ「アンダーソン・ベスト」という感じになりましたが、その他「サンドペーパー・バレエ」も欠かせない曲。OEKもよく演奏している「プリンク・プランク・プルンク」(この曲、日本語表記にすると色々とバリエーションがありますね)や「ジャズ・ピチカート」「ジャズ・レガート」など、続編もできそうですね。

広上さんがリーダーに就任して約1年。お客さん重視のポリシーがしっかりと現れた楽しいコンサートでした

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