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金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第84回定期演奏会(2024年1月21日)

2024年1月21日(日)15:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ベートーヴェン/「エグモント」序曲, op.84
2) リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲, op.34
3) (追悼演奏)ヘンデル(ハルヴォルセン編曲)/パッサカリア
4) エルガー/交響曲第1番変イ長調, op.55
●演奏
藏野雅彦指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団*1-2, 4

金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第84回定期演奏会が石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので聞いてきました。私にとって金大フィルは,オーケストラ・アンサンブル金沢に次いで「よく聞いているオーケストラ」なのですが,実はコロナ禍の間は演奏を聴いていなかったので,2020年1月以来4年ぶりということになります。

今回のお目当ては,昨年,山田和樹指揮バーミンガム市交響楽団の来日公演で聞いたばかりのエルガーの交響曲第1番でした。その時の演奏があまりにも格好良く,会場が盛り上がったので,今回の定期公演のメインとして選曲したのでは?と勝手に推測しているのですが,それに劣らない聞き応えのある演奏になっていました。

演奏会は,ベートーヴェン「エグモント」序曲で始まりました。この日の金大フィルの楽器の配置は,第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが対向配置,その間に下手側からチェロとヴィオラが並び,下手奥にコントラバス。金大フィルの演奏会で,この配置だったのは…初めてでしょうか?そのせいもあるのか,曲の冒頭から,芯のある立派な音が飛び込んできました。鍛えられているなぁという感じの音でした。テンポは,前半が特にゆっくりめで,その分,ニュアンスの変化がくっきりと実感できました。最初の曲ということで,少々雰囲気が堅いかなという感じはしましたが,コーダでは晴れやかで鮮やかな音楽を聞かせてくれました。

2曲目は,リムスキー=コルサコフスペイン奇想曲でした。打楽器が沢山入る曲ということで,こちらも冒頭からどっしりとした重量感のある演奏。石川県立音楽堂コンサートホールの中にたっぷりと音が広がり,心地よさを感じました。この曲では,ヴァイオリン,クラリネットをはじめとした個人技の見せ場も続きます。今回の演奏会を通じて,コンサートマスターの方が活躍する場面が多かったのですが,この曲では特に鮮やかな技巧を楽しませてくれました。

全体的にじっくりとしたテンポで演奏しており,随所で濃厚なスペイン情緒が漂ってきました。特に静かな雰囲気の中で,色々な楽器のソロがつながっていく「情景とジプシーの歌」の部分での,緊張感と色彩感が共存したような味わいが良いなと思いました。終曲のファンダンゴでは野性的な気分も加わり,エネルギーをしっかり発散した,ダイナミックな雰囲気でビシッと締めてくれました。

後半は,1月1日に起こった令和6年能登半島地震の被災者追悼のための黙祷が行われた後,ヘンデル(ハルヴォルセン編曲)パッサカリアがヴァイオリンとチェロの二重奏で演奏されました。事前に「拍手はお控えください」というアナウンスがあったのですが,思わず拍手をしたくなるような鮮やかさでした。

引き続き,エルガー交響曲第1番が演奏されました。藏野雅彦さん指揮による金大フィルによる演奏には堂々たる風格があり,聴き応え十分。この大曲を仕上げるのは非常に大変だったと思いますが,地道に磨き上げ,積み重ねていったような演奏はエルガーの作風にぴったりだと感じました。

第1楽章は低音楽器を中心に悠揚迫らざる威厳のある雰囲気で開始。英国の王室の伝統を感じさせるようなスケールの大きさを感じました。曲全体のメインテーマとなる重要なメロディを非常に深く印象深く聞かせてくれました。その後は楽章の主部となり,シリアスな気分に変わります。金管楽器の鋭い音が印象的でした。その後に続く,優しく柔らかな部分との対比もメリハリが効いており,彫りの深さを感じました。この楽章全体を通じて,いくつも頂を持った大きな山を眺めるような雄大さを感じました。

第2楽章は行進曲風の楽章。大太鼓など打楽器の上でキビキビとした音楽が続き,元気の良さを感じました。このメロディを聞くと…どうしても映画「スターウォーズ:帝国の逆襲」に出てくる「帝国のマーチ(ダース・ヴェイダーのテーマ)」を思い出してしまいますが,健康的に響くのは,やはりエルガーの人柄でしょうか。コンサートマスターの見事なソロの後,第3楽章に自然につながっていきました。この楽章もまた,エルガーの人柄を思わせるような暖かみのある音楽。音のムード自体は,第1楽章冒頭のメインテーマと似た感じがあります。藏野さんと金大フィルは,この魅力的な音楽を美しく,丁寧に,たっぷりと聞かせてくれました。派手ではないけれども,常に懐かしさと熱さを秘めた音楽は非常に魅力的でした。しばしの間,能登半島地震のことなど忘れ,幸福な音の世界に遊ばせてくれました。

第4楽章は,まずバスクラリネットなど低音楽器の臨場感あふれる音が印象的でした。曲全体のメインテーマが見え隠れする中,徐々に音楽に勢いが出てきて,バーンと力強く呈示されるあたりが格好良いなと思いました。じわじわと音楽の暖かみが増し,高揚していく中,ティンパニが硬質の力強い音でビシッと音楽を引き締めていたのも印象的でした。曲の最後の部分では,ワクワクさせる高揚感と清々しさが混ざった感動が溢れていました。この曲は大きく盛り上がった後,意外にあっさりと終わるのですが,その「潔さ」のある音楽に相応しい演奏だと思いました。

今回の思いもよらぬ大災害で,学生の皆さん自身,新年以降,あれこれ大変だったはずですが,こだわりの曲をメインに持ってきた充実のプログラムを見事に聞かせてくれました。藏野さんの指導の下,日常の練習の成果が見事に結実した演奏会だったのでは,と思いました。

金大フィルメンバーによる弦楽四重奏のプレコンサート

実はこの日,開演時間を1時間間違えてしまい(14:00開始と勘違い),約1時間「暇」に。というわけで,金沢駅~フォーラスを巡ってみました。

金沢駅入口の石川県出身力士の等身大パネル。大の里が加わっていました。
その代わり,広上さんはこちらに引き離されて(?)いました。
能登の観光地の状況も色々と気になります。
石川県立音楽堂前にはコーヒー販売の車が来ていました。
もてなしドームにタペストリーが全くないのも,地震の影響でしょうか。

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