クリスマス・メサイア公演(2022年12月11日)
Review
12月恒例,北陸聖歌合唱団とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)によるクリスマス・メサイア公演を聴いてきました。今年の指揮は,この公演ではおなじみの栁澤寿男さんでした。プログラムに書かれていたデータによると4回目の登場ということになります。例年,抜粋で演奏されることが多いのですが,今年は,第3部の曲が多かったのが特徴で,過去あまり演奏されてこなかった曲も多かった印象です。
第1部最初の序曲は,がっちりとした雰囲気で開始。その後,すっきりとすがすがしい感じのフーガになりました。まず,この序曲のテンポ設定を聴いて,「しっくりくるなぁ」と感じました。この日は,私としては珍しく1階席で聴いたのですが,低弦の音が2階席以上で聴くよりもしっかりと響いており,「メサイアを体感したな」という気分になりました。
序曲に続いてテノールの一声が出てくると,一気に年末気分が高まります(これは私だけの感覚かもしれませんが)。この日の独唱の岸浪さんのまっすぐな声には,軽やかな透明感がありました。清々しい幕開けという感じでした。
今年の4人の独唱者は,金沢のクリスマス・メサイア公演に登場するのが初めての,二期会所属の若手ばかりでした。4人とも声に清潔感があり,宗教音楽にぴったりの声質だと思いました。未来のスターが揃っていたのではと思いました。
合唱団は,コロナ対応用に特製マスクを着用しての歌唱でした。女声パートと男声パートの人数のバランスがかなり偏っていましたが(テノールもバスも10人以下でしたが,ソプラノは30人ぐらいいました),どの曲でも,まろやかで柔らかな人間味を感じさせるような声を聴かせてくれました。
5曲目のバリトンの曲での又吉さんの新鮮で力強い声に続き,6曲目のメゾ・ソプラノのアリアではOEKのスピード感のある演奏と一体になった杉山さんの瑞々しい声が印象的でした。
12曲目の「ワンダフル」の合唱は,やはりクリスマスには欠かすことのできない曲です。イエスの誕生を控えめだけれども,暖かく喜ぶような感じでした。
田園交響曲の後は,ソプラノの盛田さんの出番が続きます。盛田さんの声は軽やかさの中に豊かな表情があり,クリスマスの物語が生き生きと伝わってくるようでした。17曲の「Glory to God」も欠かせない曲。1階席で聴くと,この曲の時だけ,オルガンステージに登場していたトランペットの音が上方からキラキラと降ってくるようでした。そして第1部の締めはソプラノ独唱による「Rejoice...」。この喜ばしい曲で毎年毎年,元気をいただいています。盛田さんの歌唱は特に生き生きとしていました。
今年は第1部の数曲をカットしていましたので,ここで休憩にはならず,第2部にそのまま続きました。第23曲の「He was despised」では杉山さんによる抑制された声の美しさが素晴らしいと思いました。
前半最後は第26曲の合唱曲「All we like sheep...」。前半の軽く弾む感じと,締めの部分のしみじみとした情感の対比が素晴らしいと思いました。
後半は,第27曲のテノールのアリアから開始。第29-30曲もテノール独唱でしたので,例年よりも出番が多かったかもしれないですね。岸浪さんのリリカルで息の長い声をしっかりと楽しむことができました。
第2部では,第40曲のバリトンのアリア「Why do the nations」での朗々とした豊かさ,輝きとスピード感を兼ね備えた又吉さんの歌唱が素晴らしかったですね。この曲は聞くたびに「ヘンデルらしいなぁ」と思います。ただし...個人的にはこの曲の後に,第41曲の合唱(今回は省略されていました)が続かないと「何となくさびしい」と感じます。
テノールの輝きのある声による第42-43曲に続いて,お待ちかねの「ハレルヤ・コーラス」に。声を力強く張り上げるような感じではなく,じんわりと暖かさに包まれているような歌でした。ストレートで率直な歌唱が段々と熱を帯びてくるのが良いなと思いました。ここで拍手が入った後,そのまま第3部になりました。
第3部は,例年よりも沢山の曲が抜粋されていましたが...第45曲のソプラノの曲(ホッと一息つく感じの曲)がカットされていたのは少々残念でした。第47-48曲「The trumpet shall sound」は,バリトンとトランペットの聴かせどころ。又吉さんの声はここでも威力十分。トランペットと競い合うような輝きのある声を聴かせてくれました。
49-50曲は,「メサイア」には珍しい二重唱の曲。これまであまり抜粋では聴いたことのなかった曲かもしれません。メゾ・ソプラノとテノールの掛け合いとハモリによるのんびりした感じの曲でした。
52曲のソプラノのアリアでは,コンサートマスターのサイモン・ブレンディスさん(ブレンディスさんが登場するのは本当に久しぶり)の落ち着きのあるヴァイオリンがしっかりとソプラノに寄り添っていました。盛田さんの声は憂いを帯び,しっとりとした情感が溢れていました。
そして全曲を締める「アーメン・コーラス」になります。この曲でも,大げさになり過ぎることはなく,落ち着きを感じました。それでも十分に壮麗な音楽を聴かせてくれました。アーメンの部分ではしみじみとした情感が少しずつ高まり,じわじわと輝きを増していました。最後の部分も,全曲を懐かしく振り返るように,じっくりと噛みしめるように締められていたのが印象的でした。
毎年,この公演が終わると,金沢の年末も一段進んだ気分になります。個人的には年内にOEK(全体)を聞くのはこれが最後。アンコールの「きよしこの夜」には例年に増してしみじみとした情感が溢れており,色々大変だったけれども何とか年を越せそうだなという気分になってきました。ありがとうございました。
PS. クリスマスシーズンらしい写真をいくつか撮影してみました。
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