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オーケストラ・アンサンブル金沢第478回定期公演マイスター・シリーズ(2024年3月9日)

2024年3月9日(土) 14:00~石川県立音楽堂コンサートホール
1) フィンジ/弦楽のためのロマンス, op.11
2) ヴォーン・ウィリアムズ/オーボエ協奏曲イ短調
3) (アンコール)グリーンスリーヴス
4) ヴォーン・ウィリアムズ/交響曲第5番ニ長調
5) (アンコール)パーシー・グレンジャー編曲/ロンドンデリーの歌
●演奏
川瀬賢太郎指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)1-2,4-5,吉井瑞穂(オーボエ2-3)

土曜日の午後,川瀬賢太郎シェフによる英国音楽フルコースといった趣きのオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK) 定期公演マイスターシリーズをたっぷり楽しんできました。プログラム全体が英国の曲というのは,OEKとしてはかなり珍しいことです。しかも,演奏されたのが一般的な知名度が低いヴォーン・ウィリアムズとフィンジの曲。川瀬さんがOEKの定期公演に登場する際は常に新しいレパートリーを取り上げ,新鮮な印象を残してくれていますが,今回もそういった公演でした。

開演前,カフェコンチェルトで川瀬さんによる,
プレコンサート・トークを行っていました。
RWVが真に英国的な作曲家と言われていたのが印象的でした。
(エルガーは,結構ドイツ的なところがあるとのこと)


最初に演奏されたのは,近年,密かにファンが増えている(と勝手に思っているのですが),フィンジ弦楽のためのロマンス。隠れた逸品といった作品でした。この日のコンサートマスターは英国出身のアビゲイル・ヤングさんでしたが,冒頭からヤングさんのリードによる澄んだ響きが素晴らしかったですね。曲全体に穏やかな甘さが漂い,ゆったりとした響きに包まれました。弦楽器の響きは次第に厚みを増し,熱い思いが溢れてくるようでした。堂々とした自身にも溢れた演奏でした。

2曲目はマーラー・チェンバー・オーケストラの首席オーボエ奏者として活躍していた,吉井瑞穂さんのオーボエを加えてのヴォーン・ウィリアムズ(RVW)オーボエ協奏曲でした。初めて聞く曲でしたが大変楽しめました。吉井さんは緑をベースとしたドレスで登場しましたが,そのイメージどおりの田園的なイメージを持った作品。OEKが背景に広がる田園風景で吉井さんのオーボエはその中で自在に飛び回る鳥といった趣きがありました。吉井さんの演奏には安定感もあり,多彩な表情をしっかりと楽しませてくれました。それほど長い曲ではなかったのですが,オーボエの出番はとても多く、全曲を通じて吉井さんの安心感のある音をしっかりと楽しむことができました。

第1楽章は、ゆったりとした弦の響きの上に、吉井さんが演奏する豊かでくっきりとした親しみやすいメロディが重なります。民謡的…というかどこか日本的なメロディというのがRWV的なところでしょうか。RWWの作品には、小型のヴァイオリン協奏曲といった趣きのある「揚げひばり」という曲もありますが、この曲にも似た面があると思いました。

第2楽章はメヌエット。人の良さを感じさせる、ユーモラスな気分もある音楽をじっくりと楽しませてくれました。それでいて少し皮肉っぽい感じもありるのが英国的かもしれません。

第3楽章はスケルツォ。キラッと光るような切れ味の良い音の後、田園的な気分を残しつつ、鮮やかで技巧的な音楽が続きました。カデンツァ風の部分での吉井さんのオーボエには、リアルな鳥の声のような味わいやのびのびとした気分がありました。オーケストラの部分はとてもニュアンス豊かで、しっかりと独奏オーボエを引き立てていました。曲の最後は、オーボエの音が静かに舞い上がっていくような感じでした。ほのかに甘い気分が残るような演奏でした。

その後演奏された、アンコールも聞きものでした。この日のOEKのオーボエパートは、橋爪恵梨香さんとイングリッシュホルンを担当していたエキストラの高島美紀さんでしたが、そこに吉井瑞穂さんも加えての三重奏でお馴染みの英国民謡「グリーンスリーヴス」が演奏されました。

この3人は実はドイツのカールスルーエ国立音楽大学の同門(年代は違います)とのことで、今回の共演につながったようです。アンコールがアンサンブルになること自体大変珍しいので、とても新鮮でした。ドローンバス風の音の上に田園的な気分を持った音楽が変奏されていき、とても聴きごたえのあるアンコールとなっていました。終演後のサイン会の時、吉井さんにお尋ねしてみたところ、今回のために特別にアレンジしてもらったものとのことでした。

今回もメッセージボードが出ていました。

後半では、私自身(恐らく大半のお客さんも)実演で聞くのは、今回初だったRVWの交響曲5番が演奏されました。OEKが演奏するのも今回が初めてでした(この演奏が金沢初演だったかも?)。オーボエ協奏曲同様、第2次世界大戦中に作曲された作品で、RWVの平和を希求する気持ちが穏やかでありながら、しっかりと表現された美しい作品でした。

第1楽章冒頭は,遠くから聞こえるようなホルン2本の響きとそれを受けるヴァイオリンの瑞々しい響きの立体的な応答を聞くだけで英国の風景を見るようでした。この曲自体、OEKのフル編成+トロンボーン3本で演奏できる比較的コンパクトな編成ということで、緻密ですっきりとしたバランスの良さがありました。オーケストラの色々な楽器の音の重なり合いにも透明感があり、品の良い色彩感を持った、透明水彩の風景画を眺めるようでした。第2主題になるとパッと空気管が変わり、違った景色が広がるようでした。その後も,不穏な空気になったり、華やかに盛り上がる部分があったり、穏やかだけれども変化に富んだ音楽が続きました。楽章の最後の方では、最初のホルンが再現しましたが、さらに遠くから聞こえてくるにじんだ感じに。RWVの緻密な音世界を美しく聞かせてくれるような演奏でした。

第2楽章は、ちょっとひねくれた感じの奇妙なリズムのスケルツォでした。こういった気分は、ホルストの「惑星」の中の「土星」あたりにも通じる、一筋縄ではいかない「純正英国風」なのかもしれません。途中、トロンボーンのしみじみとした響きが出てきたり、木管楽器が絡み合って主張し合う感じになったり、変化に富んだ世界でした。

第3楽章には最初の和音から異次元の美しさが漂っていました。高貴でどこか宗教的な気分も漂わせた導入でした。その後、イングリッシュホルンが主役のように登場し、落ち着いた気分を持った美しいメロディを演奏しました。その後、オーボエとの二重奏もありましたが、全曲を通じて木管楽器が大活躍していました。弦楽器も大変雄弁で、楽章が進むにつれて静かな感動が広がっていくよう。途中、パッと浮き上がって聞こえてきた、コンサートマスターのヤングさんのソロも印象的でした。

第4楽章パッサカリアには全曲を締める明るさがありました。主題はチェロに出てきましたが、その後は対旋律がヴァイオリンやフルートなどに出てくるなど、音の絡み合いも聞きものでした。トロンボーンに晴れやかなコラール風のフレーズが出てきたり、第1楽章のメロディが再現してきたり、音楽の終結感が高まった後、最後は平和を祈るような静かな美しさのある音楽になりました。一日の仕事を終えた後、充実感がしっかりと残るような静かなエンディングでした。

全曲を通じて、美しい瞬間が沢山あったのと同時に第二次世界大戦中の気分を反映しているような不穏な空気感もありました。ウクライナや中東で戦争が継続している2024年の今にもそのまま通じる、平穏な日常を希求するような思いに溢れた作品だなと思いました。川瀬さんの指揮には、誠実さがあり,音楽自体の持つエネルギーがしっかりと伝わってきました。

この曲の後のアンコールでは、おなじみのロンドンデリーの歌が演奏されました。

中低音の弦楽合奏がたっぷりと演奏する美しくゴージャスな雰囲気に包まれた後、ヴァイオリンの繊細な響きに包まれ、最後はホルンの響きも加わっていました。終演後のサイン会の時に川瀬さんに確認したところ、パーシー・グレンジャーの編曲とのこと。これもまた英国音楽の古典といっても良いアレンジですね。英国フルコースの最後に特製デザートが出てきたようなうれしさがありました。

というわけで、期待通り「やはりOEKによる英国音楽は素晴らしいな」という思いを新たにした演奏会でした。今年のガルガンチュア音楽祭のテーマにも英国音楽が含まれているので、こちらへの期待も高まりました。

PS. 終演後は川瀬さんと吉井さんのサイン会がありました。川瀬さんにはプログラムの表紙にサインをいただきました。

吉井さんには曲名の隣にいただきました。

PS. この日の金沢は朝方は雪が降っていたりしたのですが,午後は結構良い天気になりました。この辺の天候の「不安定さ」も英国的かもと思いました。

PS. 吉井さんはマーラー・チェンバー・オーケストラの首席オーボエ奏者だったのですが,その一員として2回,石川県立音楽堂で公演を行っています。そのうちの2003年の金沢公演の時のパンフレットが出てきましたので,ご紹介しましょう。

2003年9月14日(日)Dプログラム
オーボエのところに吉井さんのお名前が見えます。
ベートーヴェンの「英雄」と「運命」というプログラム。
「英雄」の2楽章では,しっかりと吉井さんの音を聴いていたはずですね。
この時の指揮者,ダニエル・ハーディングのサインも入っていました。

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