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オーケストラ・アンサンブル金沢第475回定期公演フィルハーモニー・シリーズ(2024年4月17日)

2024年4月17日(水)19:00~石川県立音楽堂
1) ヘンデル/序曲変ロ長調 HWV 336
2) レオ/4つのヴァイオリンのための協奏曲ニ長調
3) ヘンデル/「水上の音楽」第2組曲,第3組曲
4) モーツァルト/3つのドイツ舞曲, K.605
5) モーツァルト/交響曲ニ長調, K.250(248b)
6) (アンコール)モーツァルト/交響曲第41番ハ長調,K.551「ジュピター」~第4楽章
●演奏
エンリコ・オノフリ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:水谷晃)
エンリコ・オノフリ,水谷晃,江原千絵,ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン)*2

1月1日に発生した能登半島地震の影響で延期になっていたエンリコ・オノフリさん指揮によるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK) 定期公演フィルハーモニー・シリーズを聴いてきました。

実は,1月に予定されていた公演自体もオノフリさん登場するだった2022年1月の定期公演がコロナ禍のため延期になったものでしたので,2回目の延期ということになります。というわけで、この日の公演は疫病と地震を乗り越えてようやく実現した,待望の公演でした。プログラムの方は1月のものから変更は無く,ヘンデルとモーツァルトの音楽を中心とした個性的なプログラムを生き生きとした演奏で楽しませてくれました。

1月8日は「ニューイヤーコンサート」として開催予定でした。
延期をお知らせするハガキ

今回のプログラムの一番のポイントは,やはり最後に演奏されたのは,モーツァルトの「交響曲」でした。この曲は「ハフナー」として知られる全8楽章からなるセレナードから5つの楽章を抜粋したもの。この形での演奏機会は非常に少ないのではないかと思います。前半最後に演奏された,ヘンデルの「水上の音楽」の方も,第2,3組曲だけを自由に並び替えたスペシャル版で,「抜き出して組み直す」という点で共通性がありました。以前,北谷直樹さんが客演した際,自分または他人の作品を寄せ集めて新しい作品を作る「パスティッチョ」的な定期公演を行ったことがありますが,それに通じる発想だと思いました。

前半はヘンデル変ロ長調序曲で始まりました。ステージに登場した,オノフリさんは,ひげ面になっていました(OEKのアーティスティック・リーダーの広上淳一さんも能登半島地震の後,ひげを伸ばしていることを思い出しました。偶然の一致でしょうか?)。この曲はオノフリさんの弾き振りによる演奏で,冒頭ズシッと来る響きを聞かせた後,付点リズムの浮遊感のある音楽を楽しませてくれました。アーティキュレーションも自在で,生き生きとした輝きのある音楽が続きまし。途中,オノフリさんの鮮やかなソロも登場。楽しげな協奏曲風の爽快な導入となっていました。

続いてレオという作曲家による4つのヴァイオリンのための協奏曲ニ長調が演奏されました。ソリストとして登場したのは,オノフリさんに加え,この日のコンサートマスターだった水谷晃さん,首席第2ヴァイオリン奏者の江原千絵さん,そしてヴォーン・ヒューズさん。4人もヴァイオリン奏者がソリストとして登場するのは,見ているだけで楽しめました。楽器の配置も独特で,弦楽オーケストラが2つに分かれて交互に演奏するような感じもありました。

第1楽章は,荘重さと弾むような感じとが同居したような感じで始まりました。オノフリ+水谷チームと江原+ヒューズチームが交互にハモったり絡んだりして,楽しく進んでいきました。第2楽章はフーガでしたが,重苦しい感じはなく,どこか楽しげでした。オノフリさんは演奏する姿自体が軽やかで,演奏全体に優雅な香りを振りかけているようでした。

第3楽章は憂いのある楽章でしたが,ここでも暗い感じはなく,4人のヴァイオリンのしっとりとした対話を楽しむことができました。最終楽章の第4楽章は動きのある楽章。ここでも生き生きとした4人のソリストたちによる絡み合いを楽しむことができました。ヴィヴァルディの協奏曲に通じるようなムードも感じましたが,どこかおっとりしたアットホームな気分が魅力的な美しく楽しい音楽でした。

前半最後は,ヘンデルの「水上の音楽」から第2組曲と第3組曲が演奏されましたが、上述のとおり、自由に演奏順が組み替えられていました。第2組曲は、トランペットやホルンがが活躍する曲,第3組曲の方は木管楽器が活躍する曲が中心なので、この2つの組曲を混ぜることで,さらに変化に富んだ楽しさ溢れる音楽に再構成されていました。聞いた印象では、特にホルンとトランペットにとっては演奏するのがハードな曲が多かったので、休息をとる時間を取るという狙いもあったのではと思いました。自由でありながら、奏者のことを考えた合理性もある配列だと思いました。

この曲以降では、オノフリさんは指揮に専念されていましたが、袖から登場する時はいつも小走り。オノフリさんの姿を見ていると、音楽が好きでたまらないという感じが伝わってきますね。以下、プログラムに書かれていたた曲番号で紹介しましょう。

第11曲(第2組曲)「序曲」は、トランペットの祝祭的な響きで開始、それを受けるホルンとの掛け合いが楽しめました。ニュアンスや強弱の変化も鮮やかでした。第12曲(第2組曲)は「アラ・ホーンパイプ」。この組曲でいちばん有名な曲ですね。この曲でもトランペットとホルンの掛け合いを楽しめました。実演で聞くとより遠近感が感じられます。弦楽器の滑らかな歌わせ方やアーティキュレーションの変化も面白かったですね。

続いては第16曲(第3組曲)「メヌエット」。フルートが加わっての軽やかなメヌエット。柔らかな優しい響きが最初の2曲と対照的でした。第17~18曲(第3組曲)「ブーレI・II」は、速いテンポでキビキビと駆け抜けていく感じの音楽。テンポが変化して、ワチャワチャとした感じになっているのが楽しかったですね。

第14曲(第2組曲)「ラントマン」は、優雅でのんびりとした3拍子系の曲。第15曲(第2組曲)「ブーレ」は、第17~18番と似た感じで、その再現といった感じでした。第19~20曲(第3組曲)は、哀愁のメヌエットいった趣きの音楽。途中ピッコロの音がソリスティックに加わってきて、可憐な音楽になっていくのが何とも魅力的でした。

第21~22曲(第3組曲)「カントリーダンスI・II」もキビキビとした音楽。ダイナミックな迫力がありました。その名のとおり、英国の田舎風の音楽といった感じでした。最後は第13曲(第2組曲)は、トランペットとホルンが入る「メヌエット」。どこかスマートな軽やかさもあり、優雅な雰囲気でこのコーナーを締めてくれました。

後半はモーツァルト晩年の3つのドイツ舞曲で始まりました。ブルーノ・ワルター指揮ウィーン・フィルによる大昔の演奏の録音などを聴いたことがありますが(今は亡き音楽評論家・宇野功芳さん絶賛の演奏)、実演で聞くのは意外に珍しいかもしれません。第1曲はすっきりとした力強さのある演奏。この日はバロック・ティンパニを使用し、渡邉さんが担当。ドイツ風のゴツゴツした感じが伝わってきました。第2曲はエネルギッシュな音楽。中間部で少しテンポを落とし、田舎風の感じになっていました。

3人の鈴奏者は上手側で演奏(演奏前に撮影)

そして「そりすべり」として有名な第3曲。これも楽しい音楽でしたね。実は、この舞曲にはヴィオラは編成に入っておらず、この曲の中間部では3人のヴィオラ奏者が満を持して「鈴奏者」として参加していました。このアイデアはお見事でした。ステージ最前列に「この3人」がソリストのようにず~っと座っていたのですが、いっこうに出番はなし。どこか「罰ゲーム」みたいな感じもありましたが,ようやく出てきた出番では見事に鈴の音が響き,盛大な拍手を受けていました。この日の首席ヴィオラは日本を代表する奏者、川本嘉子さんでしたが、恐らく鈴を演奏というのは滅多にないことだったのではと思いました。

この鈴の部分では、ファゴットの渡邉さんも対旋律をソリスティックに演奏して大活躍。さらには金星さんによるポストホルンの独特の音も気分を盛り上げていました。ピッコロの音も加わると、どこか歌劇「魔笛」にも通じる、ファンタジーな雰囲気にもなっていました。

演奏会の最後は、モーツァルト「ハフナー」セレナードからの抜粋による交響曲でした(演奏前、前曲で鈴を演奏していたヴィオラ3人が加わり拍手)。OEKは「ハフナー」交響曲を十八番としていますが、こうやって聞くと、この交響曲は「第2ハフナー」と呼んで良いような充実感のある音楽だなと思いました。

1楽章は冒頭から渡邉さんのティンパニがビシっと切り込む、強弱の変化がとても鮮やかな個性的なサウンド。音のアタックが強く、主部に入ってからも結構やんちゃな感じのするスリリングで生き生きとした音楽が続きました。続いて出てくる優雅な第2主題と鮮やかなコントラストを作っていました。楽章の中間部は激しさと静けさが交錯するような、「嵐」を思わせる音楽。ティンパニの強打が雷のように聞こえました。

その後、第3楽章「アンダンテ」をはさんで、第2楽章と第4楽章がメヌエットになっているのは交響曲としては独特で、「セレナード」の名残がある、一種「両生類」的な感じになっているのが面白かったですね。

第2楽章のメヌエットには第1楽章とは対照的な優雅さがありました。弦楽器のノン・ヴィブラートの滑らかさ、橋爪さんのオーボエの透き通るような美しさ、中間部でのメランコリックな味わいなど、大変魅力的でした。穏やかな気分のある第3楽章に続いて、第4楽章のメヌエットの方はよりダイナミックな感じ。中間部でのフルートの滑らかな歌が魅力的でした。どの楽章も、美しさと同時に、何が出てくるか分からない楽しさを感じました。

最後の第5楽章は、深い思いがこもったような序奏部の後、弦楽器の生き生きとした刻みが心地よい主部に。充実した響きと同時に、どこか優雅な感じもあり、変化に富んだ音楽が続きました。曲の最後は少し間を置いた後、びっくりして一気にテンポアップしたような感じで終了。この辺のユーモラスな感覚もオノフリさんならではだと思いました。

この日はアンコールがあったのですが、そこで演奏されたのが…モーツァルトの「ジュピター」交響曲の最終楽章。この選曲にもびっくりしました。

「ハフナー」だけだとやや軽めかな、という感じもあったのですが、別の交響曲の最終楽章をアンコールで加えるというのは、大胆な発想だと思いました。隠しておいたとっておきの曲をパッと披露するような感じもしました。

この「ジュピター」の第4楽章ですが、ノン・ヴィブラート風の軽い浮遊感のある弦楽器で始まった後、じっくり,しっかりと堂々と演奏されました。提示部の主題の繰り返しまで行っており、何かアンコールを超えたような,確信犯的主張の強さを感じました。「ジュピター」は本来フルート1本のはずですが2本で演奏していたり,2人のオーボエ奏者がマーラーの交響曲のようにベルアップしたり,オノフリさんならではの仕掛けが色々とされていました。

上述のとおり,1月から待っていた待望の演奏会でしたが,期待通りの充実感とオノフリさんならではのオリジナリティを味わうことができました。オノフリさんには、是非また大胆な発想のプログラムでの再登場を期待したいと思います。

PS.終演後のサイン会は、4人のソリスト+オノフリさんによる豪華版でした。オノフリさんからは,オノフリさん指揮による,ヨーゼフ&ミヒャエル・ハイドンの交響曲のCDにいただいたのですが…1回目はペンの色が薄く失敗。申し訳ない,ということで

もう1回サインをしていただきました。「この曲,OEKと演奏したことがある」といったことをおっしゃっていたので調べてみると,ハイドンの96番「奇跡」は,4楽章のみアンコールで演奏していました。交響曲の4楽章だけアンコールというのは,オノフリさんのお好みなのかもと思いました。

江原さんとヒューズさんには,「レオのヴァイオリン協奏曲」のページにいただきました。

そして水谷さんには…今回サイン会があるかな?と思い持ち込んだCDにいただきました。数年前に購入したもので,TSUKEMENのヴァイオリン奏者としてもお馴染みのTAIRIKさんとのデュオの録音です。

実は亡き母親がTSUKEMENのファン。今年の夏,TAIRIKさんとOEKが長野公演で共演するようなので,聞いてみたいなという気分になってきました。

PS. 音楽堂の「前」も「横」も音楽祭モードに変わっていました。


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