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オーケストラ・アンサンブル金沢小松定期公演 春(2024年6月28日(金))

2024年6月28日(金)19:00~團十郎劇場うらら大ホール(石川県小松市)
1) 徳山美奈子/交響的素描「石川」~「海の男」
2) フィンジ/ヴァイオリン・ソロと小オーケストラのための入祭唱
3) ドヴォルザーク/管楽器のためのセレナーデ二短調, op.44
4) シューベルト(鈴木行一編曲)/歌曲集「冬の旅」,op.89, D.911(抜粋)
●演奏
碇山隆一郎指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング),アビゲイル・ヤング(ヴァイオリン*2),原田勇雅(バリトン*4)

金曜日の夜,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK) 小松定期公演「春」團十郎劇場うらら大ホールで聴いてきました。実は翌日,同様のプログラムが金沢でも教弘クラシックコンサートとして行われたのですが,都合で行けなくなったので,こちらに行くことにしました。お目当ては後半に演奏された,鈴木行一編曲管弦楽版「冬の旅」(抜粋)でした。

「團十郎」の名前が付くようになってから行くのは初めてです。

この版は最晩年のヘルマン・プライ+岩城/OEKの演奏で古くからのOEKファンにはお馴染みですが,今回は原田勇雅さんのバリトン,碇山隆一郎さん指揮。原田さんの声は大変若々しく,失恋した青年の旅という雰囲気にぴったり。等身大のシューベルトという感じでした。今回演奏されたのは11曲(全24曲なので約半分)でしたが,シューベルト風コスプレをした原田さんの「お話」を交えての演奏は聞き応えも十分。演奏前,シューベルトの人生(不器用だけれども友人に愛された人生)とこの曲の由来(30歳の頃,ミュラーの歌詞に出会って作曲)が親しみやすい口調で解説された後,各曲に先だって歌詞の概要が朗読されました。歌曲の演奏会の場合,日本語字幕を読みながら聴くのは,実は結構疲れるので,今回のようなスタイルはとても良いと思いました。集中して若者の「旅」に同行することができました。原田さんの朗読と歌唱が大変スムーズにつながっていたの,原田勇雅版「冬の旅」として再構成されていたように感じました。

まず,第1曲「おやすみ」で開始。この曲は旅のスタートなので,絶対に省略できない曲ですね。まず原田さんのつややかな声に魅了されました。テノール?と思わせるほど輝きのある声で,若者らしいストレートなエネルギーを感じました。

第5曲「菩提樹」は幸せだった時代の思い出を表現した曲。この曲にも瑞々しい輝きがありました。鈴木行一編曲版だと木管楽器が繊細に揺れ動く木の葉を表現するようなイントロで始まります。この雰囲気がとても懐かしかったですね。この曲の雰囲気同様,20年以上前の編曲版初演時のことなどを思い出しました。

第9曲「鬼火」は木管楽器のみによるシンプルな伴奏。それが哀しみを引き立てていました。第11曲「春の夢」も軽やか。原田さんの声は暗すぎないので,モーツァルトの歌曲を聴くような感じでした。まさに夢のようなフルートの音も良いなと思いました。第12曲「孤独」は,第1曲「おやすみ」と似た「歩いている気分」のある曲。「冬の旅」では時々,このタイプの曲が道しるべのように出てきますね。

第13曲「郵便馬車」からは後半。ドイツの郵便と言えば,ポストホルンなのですが,クラリネットで表現しています。「Mein Hertz」(私でも聞き取れます)という歌詞が何回も何回も出てきますが,だんだんと切なく感じるなぁと思いました。

第15曲「からす」からは,不吉で繊細な気分が伝わってきました。第16曲「最後の希望」は鈴木行一さんの編曲だと,「新ウィーン学派」のような点描的な感じで開始。少しずつ狂気が入ってくる感じですね。最後の部分だけは朗々と歌われるので,その対比を楽しむことができました。

第20曲「道しるべ」は,上述の「おやすみ」タイプの「歩く感じ」の曲。似た感じだけれども,より暗く,飾り気が少なくなっていきます。そして,第21曲「宿屋」。この曲は管弦楽版で聴くと,音の起伏が大きい分,全曲中のクライマックスのような感じに聞こえます。諦めムードと明るさが同居する中,最後の輝きを見せるように弦楽合奏が大きく歌う部分がとても印象的です。

そして最後は,第24曲「辻音楽師」。木管+低弦が単純に伴奏する中,加納さんのオーボエがシンプルなフレーズの単調に繰り返していくのですが,このムードがマーラーの「大地の歌」の終曲の気分と似ているなと思います。そして,その後に出てくる原田さんの声の虚無感。音自体は重苦しくないのに,深い情感が漂っていました。

一週間前,金沢で行われた定期公演では「夏の夜」を聴いたばかりなので節操がない(?)のですが,やはりOEKオリジナル「冬の旅」も最高だなぁと思いました。

前半のプログラムもとても充実していました。これは公演チラシには掲載されていなかった曲なのですが,まず最初に今回の能登半島地震の被災者の追悼と復興への祈りこを込めて,徳山美奈子「海の男」が演奏されました。岩城宏之さんが「曲の一部がOEKの公演のアンコールでも使えるように」という意図で委嘱されて作られた交響的素描「石川」の中の第3楽章。追悼の曲というよりは,復興へのエネルギーを感じさせるような曲で,いきなり輪島の御陣乗太鼓の気分で始まります。碇山さんは,OEKとの学校公演ではこの曲をいつも演奏しているとのことですが,民謡の持つ生命力がストレートに感じられる音楽です。そして後半は,どこか演歌っぽい雰囲気に(同じ石川県に住んでいながら知らないのですが,この部分が「七尾まだら」でしょうか?)。何か歌詞をつけて歌いたい気分でした。というわけで,石川県民としては血が騒ぐような曲でした。

そして,今回「小松に来て本当に良かった」と思ったのが,フィンジの「ヴァイオリンソロと小オーケストラのための入祭唱」という曲をアビゲイル・ヤングさんの独奏で聴けたことでした。実は金沢公演では演奏されない曲なのでした。「ヴァイオリン協奏曲の第2楽章」といったムードの曲で,橋爪さんの「ホッ」とさせてくれるような音に続いて,ヤングさんの優しい音が入って来ました。この公演は金曜日の夜だったのですが,「週末は英国の田園気分で過ごしませんか」と誘っているよう。中間部は加納さんのイングリッシュホルンが登場し少し大人っぽい味わいに。少し違った田園風景に変わったようでした。というわけで,暖かく穏やかで祈りの気分もある,素晴らしい作品の素晴らしい演奏に浸ることができました。

前半3曲目に演奏されたドヴォルザークの管楽セレナードも楽しく美しい演奏でした。木管八重奏(ホルンは3名でしたが)+コントラバス,コントラファゴット,チェロといった独特の編成で,第1楽章最初ののんびりした行進曲風の部分から暖かみのある充実した音に包まれました。室内楽にかなり近い編成なのですが,ステージ中央にコントラバスのルビナスさんとコントラファゴットの柳浦さんがドシッと並んでいたこともあり,盤石の安心感と心地よさがありました。ちょっと野暮ったい感じも漂う短調の曲なのですが,音楽全体に親しみやすい雰囲気が溢れていました。指揮者の碇山さんの人柄がにじみ出ているような演奏だなぁと思いました。

第2楽章は,遠藤さんのクラリネットの独奏で開始。途中変拍子のようになる辺りの生き生きした感じが楽しかったですね。第3楽章も伸びやかに歌うクラリネットで開始。各楽器がエコーし合い,何かを訴えかけるかのように,同じフレーズが繰り返し出てくるのが印象的でした。楽章の最後の部分でもとても濃い表情を見せていました。

第4楽章は一転して,とても楽しげで親しみやすい雰囲気になりました。最初のフレーズが何回も繰り返し出てきたのですが...このフレーズは,植木等の「スーダラ節」のイントロと結構似ているのでは思いました。スーダラ節を木管八重奏で演奏したらこんな感じになるのでは,と変なことを考えながら聴いてしまいました。マイルドに沸き立つ感じがとても魅力的な楽章でした。

第4楽章の最後の部分には,第1楽章の主題が戻ってきましたが,このパターンは,チャイコフスキーの弦楽セレナードもドヴォルザークの弦楽セレナードも同様ですね。最後はホルンがファンファーレのようなフレーズを演奏して楽しく終了しました。

というわけで,今回の小松定期公演は,原田さんの歌唱,OEKの演奏に加え碇山さんの選曲も素晴らしかった演奏会でした。

終演後,楽器を搬出中でした。

PS. 考えてみると結構久しぶりにこのホールに来ました(コロナ禍前以来かも)。その間,JR小松駅には北陸新幹線も通るようになったのですが,駅周辺の駐車場も結構変わっており,少々焦りました。ホールのすぐ隣には立体駐車場が出きていましたね。

四角い立方体=おはこ=十八番 ということのようです。
こちらは開演前にに撮影

新幹線小松駅にも興味があったのですが,また別の機会にしたいと思います。ただし,金沢駅から小松駅まで新幹線に乗車というのは乗車時間としては少々短すぎでしょうか。

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