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奥井紫麻ピアノ・リサイタル2023金沢公演(2023年2月25日)

2023年2月25日(土)14:00~ 北國新聞赤羽ホール

ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第26番「告別」,op.81a
ショパン/ノクターン 嬰ハ短調, op.27-1
ラフマニノフ/ピアノ・ソナタ第2番変ロ長調, op.36
リスト/巡礼の年第2年「イタリア」~「ペトラルカのソネット第123番」
リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調
(アンコール)ラフマニノフ/6つの歌~ひなぎくヘ長調 , op.38-3

●演奏
奥井紫麻(ピアノ)

Review

前日に続き,北國新聞赤羽ホールで行われたピアノリサイタルを聴いてきました。この日は,奥井紫麻さんの演奏会でした。奥井さんについては,金沢の音楽ファンには,「数年前,井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢とモーツァルトのピアノ協奏曲第23番を共演したまだ十代のピアニスト」として知られている方ですが,この日は前半がラフマニノフ,後半がリストという重い2曲のソナタを軸にした,聞き映えのするプログラムを楽しませてくれました。

前半最初に演奏されたのは,ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第26番「告別」でした。白いドレスを来た奥井さんは,クールな雰囲気で登場。少々表情が硬いかなと思いました。さすがに緊張感があったのかもしれません。

第1楽章の序奏部は遅いテンポで開始。それでも重苦しくなることはなく,クリアな音楽を聞かせてくれました。その後,主部に入るとのびやかさが出てくるのですが,全体に少し淡泊な印象でした。私の好みとしては,やはりベートーヴェンには,極端に言うと「暑苦しさ」のようなものが欲しいなという気がしました。端正さのある第2楽章に続いて,軽快な第3楽章へ。ストレートに音楽に切り込んでいくような演奏。最後の強打は胸のすくような音でした。

2曲目はショパンのノクターンop.27-1でした。豊かさと芯のある音を聞かせてくれましたが,どこかテンションが低いかなと感じました。それが,次のラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番の演奏からは,一気に魂が入ったような熱さを感じました。公演チラシでは,ラヴェルの「夜のガスパール」が演奏予定でしたが(実は,この曲がいちばんの目当てでした),このラフマニノフに変更。おそらく,奥井さん自身にとって,現在もっとも自信のある自家薬籠中の曲だったのではと思いました。音の幅が一気に広がり,ラフマニノフの音に浸らせてくれました。

曲目変更の案内掲示。リストがロ「単調」となっているのが…少々残念

第1楽章からピアノの音に膨らみと厚みがあり,ピアノがよく鳴っていました。また音の多彩さを楽しませてくれました。途中,ミステリアスな雰囲気をじっくり聞かせてくれたり,大変聞き応えがありました。

第2楽章はシンプルな歌でしたが,その中に自然な揺らぎや「味」があると思いました。途中,音楽がどんどん巨大化していく感じが良いなぁと思いました。

第3楽章は,いかにもロシア音楽といった,力強く,たくましい音楽でした。音のグルーブ感が素晴らしく,大きなうねりとキラキラとした華やかさを兼ね備えた(ひとことで言うとラフマニノフらしさ)素晴らしい演奏でした。

この日は来るときには雪がちらついていたのですが,止んでくれました。

後半はリストの作品が2曲演奏されました。最初は,「巡礼の年第2年「イタリア」」の中の「ペトラルカのソネット第123番」。柔らかな雰囲気の中に光が差してくるような,落ち着いた平和な空気感がある音楽でした。

そして,この日のメインプログラムと言っても良い,リストのピアノ・ソナタロ短調が演奏されました。冒頭の弱音の後,一気に広がる迫力のあるフォルテ...という感じで,次々と違う景色が出てくるような鮮やかさのある演奏でした。

奥井さんのピアノの音ですが,和音がとてもスッキリ,ストレートに迫ってくるのが素晴らしいと思いました。正攻法で聞かせている清々しさを感じました。途中,嵐に巻き込まれたような「息も着かせぬ」雰囲気になりますが,その部分での打鍵の強靱さも見事でした。整った演奏の中から凄みが伝わってきました。その一方で,弱音部分での,リストの音楽にすっぽりとはまり込んだような表現力や静謐さ。フーガのような感じでヒタヒタと迫ってくる感じ...と山あり谷ありの情景が次々変わっていく曲の面白さを伝えてくれました。

特に最後の方では,何か天使と悪魔が交互に出てくるような凄みを感じました。鬼気迫るような打鍵が出てきたかと思うと,清らかな空気が流れ込んできたり,この曲自身の素晴らしさをストレートに伝えてくれました。

アンコールでは,ラフマニノフの「ひな菊」という曲が演奏されました(当日,掲示されていないと思ったのですが,後日調べてみると案内されていたようです)。どこかミステリアスな感じのする,魅力的な曲でした。

奥井さんの知名度はさすがにまだ高くないので,残念ながらこの日はかなり空席がありましたが,今後,奥井さんは国際的なコンクールに出場したり,さらに活躍の場を広げられていくことでしょう。次回,金沢公演の機会があれば,当初演奏予定だった「夜のガスパール」なども聞いてみたいものです。

PS. この日はプログラムの変更があったのですが,そもそも紙の配布物が全くありませんでした。チラシを見れば良いのですが...ちょっと物足りなかったですね。

PS2. 今年の2月は赤羽ホールでのピアノ・リサイタルの「当たり年」でした。5日藤田真央,24日牛田智大,25日奥井紫麻…と短い2月のうち3回もこのホールに来ました。5月21日には,現役高校生ピアニストの中瀬智哉さんのリサイタルも行われるので,何か「若手ピアニスト」の「聖地」の1つになってきた感じですね。実際,ピアノを聴くのに丁度良いホールだと思います。

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