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2023年クリスマスメサイア公演(2023年12月23日(土)北陸学院栄光館グロリアチャペル)

2023年12月23日(土)16:00~ 北陸学院栄光館グロリアチャペル
1) ヘンデル/オラトリオ「メサイア」(抜粋,1-23,29,31-32,36,38,40,42-48,53)
2) (アンコール)きよしこの夜
●演演
辻秀幸指揮メサイア・アンサンブル2023(松浦真沙(ピアノ),大野由加(チェンバロ),春日朋子(オルガン),曽我部清典(トランペット),田嶋翠(ティンパニ))*1,春日朋子(オルガン*2)
朝倉あづさ(ソプラノ*1),前澤歌穂(メゾソプラノ*1),栗原光太郎(テノール*2),押川浩士(バリトン*3),北陸聖歌合唱団

この日の前日,石川県内は「今年は暖冬」との予報を裏切るような積雪になり,金沢でも30cmほどの雪が積もりました。というわけで,日中の「雪かき疲れ」の中,北陸聖歌合唱団の2023年クリスマス・メサイア公演北陸学院栄光館グロリアチャペルで聴いてきました。ここ数年,オーケストラ・アンサンブル金沢との共演で行われてきた公演ですが,今年は辻秀幸さん指揮によるメサイア・アンサンブル2023(ピアノ,オルガン,チェンバロ,トランペット,ティンパニによるアンサンブル)との共演となりました。

北陸聖歌合唱団は70年以上,金沢で「メサイア」を歌ってきた合唱団ですが,この公演は,丁度100回目のステージとのことでした(すごい数字です)。オーケストラとの共演でなかったのは残念ではありましたが,この公演が始まった場,北陸学院栄光館での公演というのは,原点に戻るようで,記念の公演には相応しかったのかもしれません。

北陸学院の校舎。1階が「下駄箱」です。

ちなみにこの日の会場の栄光館グロリアチャペルですが,北陸学院の校舎の3階にあります。北陸学院が改装される前の旧栄光館には数回入ったことがあるのですが(確か外から直接入ることのできる建物だったはず),新しくなってから校舎に入ることは初めてのことでした。約60名編成の合唱団の人数にぴったりの大きさで,まさに「本拠地で聴くメサイア」というぴったり感と充実感がありました。広すぎないステージと大きすぎないパイプオルガンがある空間に入っただけで,敬虔な気分にさせてくれました。

この日はクリスマス・イブのイブということで,キリストの降誕を描いた第1部は全曲が演奏され,第2部と第3部は主要曲が抜粋されて演奏されました。今回の特徴は,オーケストラとの共演ではなく,ピアノ,チェンバロ,オルガンを中心とした小編成アンサンブルとの共演ということでした。全曲を通じて,オーケストラのパートはピアノが中心になって演奏しており,チェンバロやオルガンが通奏低音的に支えたり,音色や質感に変化を出していたり…とい感じだったと思います。さらにクライマックス的な曲では,トランペットやティパニが加わって祝祭感を加えていました。

第1部の第1曲「序曲」はピアノとチェンバロのみで演奏されていたのですが,ピアノの堂々とした音で聞くと,バロック時代の鍵盤楽器による組曲の1曲目に来る,フランス風序曲のスタイルで書かれたプレリュードを聞くような感じでした。同じフレーズが繰り返され,2回目は音量が少し小さくなると,チェンバロの音も聞こえてくる,という感じも面白いと思いました。

第2曲でテノール独唱になるのですが,その前にパイプオルガンの音が出てきました。序曲の方はシリアスな感じの曲なので,パッと空気が柔らかになるような変化があり,「「メサイア」の本編開始」という気分になりますね。

テノールの栗原光太郎さんの声は,少々生々し過ぎる(?)感じがしました。私がこの第1曲に持っているイメージだと,もう少し声の天上の世界から降ってくるような印象だったので少し違和感を感じました。その分,ぐいっと迫ってくるような迫力がありました。

第5曲では,バスの押川浩士さんの力感と輝きにあふれた声にシビれました。「Shake…」という単語が私でも聞き取れる曲ですが,まさに空気がビリビリと震えるような迫力がありました。続く第6曲では,メサイア公演初登場の金沢出身のアルトの前澤歌穂さんが登場。北陸新人登竜門コンサートでOEKと共演後,ガル祭などここ数年色々な公演で前澤さんの歌を聴いてきましたが,その瑞々しい声は宗教曲にもぴったりだと思いました。とても清潔感があり,どこか少年のような声にも聞こえたので,オペラのいわゆる「ズボン役」も聞いてみたいなと思いました。

曲が進んで行き,第8~9曲の中の「Zion(ザイオン)」という音を聞くと,個人的には「クリスマスだな」という気分になります。前澤さんの重すぎない声は,「喜びを待つ」感じにぴったりで,「アドヴェント開始」という感じになります。これを最後は合唱団の皆さんが暖かく受ける感じも良いですね。

第12曲の「Wonderful」という単語が出てくる合唱曲もクリスマスには欠かせない曲。第10~11曲のバスの独唱曲がとてもミステリアスな感じなので,それと対照的にキビキビと動き,晴れやかに弾ける感じが特に強く印象的づけられます。

第13曲「田園交響曲」は,パイプオルガンの独奏で演奏されました。この日,春日朋子さんは,基本的にはステージ下の小型のオルガンを演奏していましたが,この曲の時は栄光館に備え付けられたパイプオルガンを演奏。その音色の変化が新鮮で,じんわりと心に染みました。

第14曲からはクリスマスの物語となり,久し振りに「メサイア」公演に登場したソプラノの朝倉あづささんが活躍しました。私自身,約25回「メサイア」を実演で聴いているのですが(この日のプログラムに全公演記録が載っていたので数を数えてみました),その大半が朝倉さんがソプラノでした。朝倉さんでないと聴いた気にならない...とまでは言いませんが,金沢のメサイアの「顔」ですね。以前と全く変わることのない清潔な声が見事で,「いよいよ今年もクリスマスが来たなぁ」という気分になりました。この辺の曲では,ピアノとチェンバロが合わさってキラキラした感じを表現したり,曽我部清典さんのトランペット(ピッコロトランペットだったと思います)が加わって祝祭感を出したり,聞いていて「気分が上がり」感じになります。

そして,第18曲(「Rejoice」で始まる曲)での軽やかな歓喜,アルトで始まって,ソプラノが暖かく受ける第19~20曲での安らぎ。この辺の曲を全部聴いて「クリスマス完了」という感じになりま。例年,石川県立音楽堂コンサートホールで聞いていますが,第1部全曲をチャペルで聴くと,徐々にクリスマス気分に盛り上がっていく感じ(文字通りのアドヴェント気分)がさらに強く体感できると思いました。そして,名曲揃いだなと改めて思いました。

ステージとオルガンはこんな感じでした。

ここで休憩が入った後,第2部が始まりました。第22曲の合唱曲からして,第1部とは全く違った重苦しい気分になります。こうやって聞くと,この第1部の最初の序曲とこの第22曲が対応しているのではと感じました。

第23曲のアルトのアリアは,第2部を象徴する「受難」の曲。前澤さんの声は重苦しくなることはなく,ストレートに暗い情感が伝わってきました。途中から,切迫した感じのリズムが続くのですが,ピアノ+チェンバロだと,オーケストラ版とはひと味違った,切れ味の良さがあるなと思いました。

第2部後半の第40曲のバスのアリアは,ここでも押川さんの声の輝きが素晴らしいと思いました。後半大きく歌い上げており,宗教音楽ではありますが,「ブラーヴォ」とか声を掛けたくなる感じでした。第2部最後の第44曲「ハレルヤ・コーラス」では,北陸聖歌合唱団の皆さんはストレートで力強い歌を聞かせてくれました。トランペットとティンパニが満を持して加わり(まさに鳴り物入りという感じ),何かチャペル全体に熱いエネルギーが溢れているような感じになりました。

ここで拍手が入った後,第3部になりました。第3部最初のソプラノの第45曲のソプラノのアリアと続く第46曲の合唱曲で気分を落ち着けた後,第47~48曲で再度,押川さんと曽我部さんのトランペットの「見せ場」になりました。何かトランペット2本が掛け合いをしているような輝きと自信に溢れた演奏でした。

最後の第53曲「アーメン・コーラス」もトランペットとティンパニ入り。長年「メサイア」を歌い続けている合唱団の皆さんだけあって,この曲については言葉が特に良く聞こえるなと思いました(「力,富,知恵…」とかキーワードがビシッと出てくる感じの部分がありますね)。後半は4人の独唱者も加わってのアーメン。フーガの部分はビシッと締まっていました。しみじみと味わい深い感じで始まるフーガの部分を聞きながら,「この時間,ずっと続いて欲しいな」と感じました。これもまたチャペルで聞く効果なのではと感じました。

以上のとおり,100回記念の公演は,北陸聖歌合唱団が原点に立ち返ったような,聴き応えのある内容になっていまいました。この公演の定番のアンコールとして,「きよしこの夜」が春日さんのオルガン伴奏で歌われましたが,こちらも「正調賛美歌」という感じでした。そういえば,公演の開催日も例年(12月の第1日曜日が多かったですね)よりはかなり遅く,クリスマス・イブのイブに行われましたが,これも良かったですね。「正しいクリスマス公演」だったと思いました。終演後は真っ暗(大雪で忘れていましたが,前日22日が冬至でしたね)。この「雪の夜のクリスマス」感も良いムードでした。

本物のステンドグラスっぽく見えますが,恐らく手作りだと思います。終演後は…
外から見ると,こんな感じでクリスマス気分を一層盛り上げていました。

この日の行き帰りは,山あり谷ありの徒歩(片道約30分)にしたので少々疲れたのですが,それも含めて,しっかりと記憶に残る公演になりました。

PS. 演奏が始まる前,春日朋子さんによる「ウェルカム演奏」があり,次の3曲が演奏されました。
バッハ,J.S.:主よ人の望みの喜びよ
バッハ,J.S.:パストラーレ~第1楽章
ダカン:ノエル第10番

PS. せっかくなのでこの日の行き帰りの「雪道」の写真を紹介しましょう。

田井菅原神社
椿原神社の横の天神坂を上りました。
この時間だと流石にきれいに除雪されていました。
石引通りへ。歩道はずっとこんな感じの「一車線」。途中2,3回,対抗者と道を譲りあい。
右側が辰巳用水です。
金沢くらしの博物館。一昔前の印刷に関する展示をやっており,
とても興味深かったのですが…この日はパス。
いよいよ終点間近。「飛梅」の地名が見えてきました。
到着
以下は終演後です。北陸学院の対面にある教会もとてもきれいでした。
歩道の状況は行きと同様です。
金沢大学附属病院です。こういう景色はなかなか見られないかもしれません。綺麗でした。

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