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オーケストラ・アンサンブル金沢第469回定期公演マイスター・シリーズ(2023年7月1日)

2023年7月1日(土)14:00~石川県立音楽堂 コンサートホール
1) エルガー弦楽のためのセレナード
2) ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調, op.26
3)(アンコール) パーキンソン/ルイジアナ・ブルース
4) ベートーヴェン/交響曲第6番ヘ長調, op.68「田園」※未聴
●演奏
カーチュン・ウォン指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)*1-2,4,ランドル・グーズビー(ヴァイオリン*2-3)

Review

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の7月のマイスター定期公演には,OEKを初めて指揮するカーチュン・ウォンさんと今回の来日が日本デビューとなったアメリカ出身の注目の若手ヴァイオリニスト,ランドル・グーズビーさんが登場しました。ということで,「聞き逃せない」公演だったのですが...個人的な急用が入ってしまい,途中で退出せざるを得なくなってしまいました。前半だけでも「ものすごく素晴らしい」公演だったので,非常に残念だったのですが,仕方がありません。今回は,この前半についてだけ紹介しましょう。

この公演ですが,当初,英国出身の指揮者,ライアン・ウィグルワースさんが登場予定でしたが,家庭の事情により,カーチュン・ウォンさんに交替になりました。ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番とベートーヴェンの「田園」交響曲はそのまま予定どおり演奏されたのですが,1曲目に予定されていた,ジュリアン・アンダーソンという現代英国の作曲家による「過去の讃歌」についてはさすがに変更せざるを得ず,エルガーの弦楽セレナードが演奏されました。

この演奏ですが,素晴らしく明快な演奏で,ウォンさんの指揮にすっかり魅了されてしまいました。過去何回か実演でも聴いたことのある曲で,それほど長くない作品なのですが,ゆっくりめのテンポで,じっくりと演奏されていましたので,「極上の音楽」といった感じになっていました。

ウォンさんの指揮には自信が溢れ,「この棒だったらこう演奏するしかない」といった説得力がありました。OEKの音には,寒色系の落ち着きがあり,コントラバスが3人に増強されていたこともあり,ゴージャスさを感じました。所々で出てくる,コンサートマスターのヤングさんのソロもいつもながらの見事さでした。

第2楽章は静かなカンタービレ。ここでも落ち着きはらった美しさが印象的でした。第3楽章も動きはあるけれども,焦った感じのない高級感が漂っていました。この曲は,OEKならば指揮者なしでも十分演奏可能な曲だと思いますが,ウォンさんの指揮により,演奏全体に一本しっかりとした芯が通ったような音楽になっていました。

続いて,ランダル・グーズビーさんが颯爽と登場。白い服がまぶしかったですね。日本デビューの新鮮さが視覚的にも伝わってきました。そして,聴衆をぐっと引きつける,何とも言えないオーラがあると感じました。

ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番の第1楽章はティンパニのドロドロドロ,木管楽器の重奏に続いて,独奏ヴァイオリンがすぐに登場。聞いた瞬間,耳がすっきりとするような美しい音がホールいっぱいに広がりました。この一音で,お客さんはグーズビーさんの世界に巻き込まれた感じでした。続いて,独奏ヴァイオリンが重音で主題を演奏しますが,力むことなく,くっきりとした音楽が続きました。若く健康的なエネルギーが溢れていましたが,しっかりコントロールされており,第2主題になると,今度は熱く思い焦がれるような音楽に。鮮やかに気分が切り替わっていました。その後,オーケストラが演奏する部分ではスピードが上がるのですが,グーズビーさんのヴァイオリンに触発されたように,テンションが上がっていました。

第2楽章もまた「生きた音楽」になっていました。甘くなり過ぎることのない,情熱を秘めた歌は聴き応え十分。情感がだんだんと高まっていく部分での鮮烈さ,ボリューム感のある引き締まった音がしっかりと鳴る心地よさに浸ることができました。ずっとずっと続いて欲しいと思わせる緩徐楽章でした。

第3楽章も力とエネルギーに溢れた音楽。しかも余裕もありました。ここでも,グーズビーさんの音に触発されたように,OEKの音もティンパニの望月さんの音を中心に一緒になって燃え上がっているようでした。熱いだけでなく,グーズビーさんの美しくストレートな歌を聴いていると,せつない気分にもさせってくれます。終結部では,テンポをどんどん上げて行き,思い切り良くスカッと締めてくれました。

グーズビーさんはこの曲のレコーディングを既に行っていますが,どこを取っても表現がしっかりと完成している感じで,特に変わったことをしているわけではないのに,音に込められた情感が誠実かつストレートに伝わってきました。この辺が大変気持ちの良い演奏でした。

この演奏に対して,盛大な拍手が続きました。グーズビーさんが大きな声で「ルイジアナ・ブルース」と曲名を告げて,アンコールが演奏されました。軽快なカントリー音楽のような作品で,自在でノリの良い演奏。グーズビーさんは,名ヴァイオリニスト,イツァーク・パールマンの弟子とのことですが,この音楽を聴きながら,この明るい雰囲気は,師匠と共通するなぁ(真似できるものではないのですが)と思いました。

というわけで,まさに鮮烈な日本デビューといった感じのヴァイオリンでした。

演奏会の最後は,OEKが何回も演奏してきた,ベートーヴェンの「田園」交響曲。今回,OEKを初めて指揮したカーチュン・ウォンさんが,どういう「田園」を聞かせてくれたのか?聞けなかったのは心残りでしたが,今後,ウォンさんが選んだプログラムで再登場する可能性は高いと思います。今回,キャンセルになってしまった,ウィグルワースさんともども,再登場に期待をしたいと思います。

PS. プログラムの情報によると,ルドヴィート・カンタさんの後,空席になっていた,首席チェロ奏者が,植木昭雄さんになったとのことです。ポストコンサートトークには,植木さんが登場されたようですが…こちらも残念ながら聞けませんでした。

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