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金澤弦楽四重奏団ベートーヴェン全曲演奏会Vol.4(2024年6月24日)

2024年6月24日(月)19:00~ 金沢市アートホール
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第2番ト長調, op.18-2「挨拶」
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第11番へ短調, op.95「セリオーソ」
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第16番ヘ長調, op.135
●演奏
金澤弦楽四重奏団(青木恵音,若松みなみ(ヴァイオリン),古宮山由里(ヴィオラ),ソンジュン・キム(チェロ)

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK) メンバーによる金澤弦楽四重奏団べート-ヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏シリーズ4回目を聞いてきました。この公演は当初2月に行われる予定でしたが能登半島地震の影響で金沢市アートホールがしばらく使えなくなったため6月に延期となったものです。このシリーズもこれで半分を超えたことになります。

演奏されたのは古典的な美しさのある2番,コンパクトに引き締まった11番「セリオーソ」,軽やかさと深さが共存したような16番。過去3回のような30分以上かかる大曲はなかったのですが,どの曲にも丁寧で瑞々しい世界が広がっていました。

最初に演奏された第2番には「挨拶」というニックネームもあります。その由来になったとおり,第1楽章の最初の方からフレーズとフレーズの間で,気軽に挨拶をし合うような自然な応答がありました。古典派の音楽には,こういう感じの応答は結構よくあるのですが,この曲では特に短めのフレーズでやりとりしている感じがあるので,このニックネームはぴったりかもしれません。金澤弦楽四重奏団の皆さんの息はぴったりで,改めて弦楽四重奏の「肝」は楽器間の対話だなと感じました。

音のバランスも素晴らしく,曲の冒頭から4つの楽器による澄み切った世界が広がりました。特に第1ヴァイオリンの青木さんのくっきりした音が素晴らしいなぁと思いました。第2楽章は静かで落ち着きのある歌。そっとささやくような感じもありました。中間部は対照的に快活でユーモラスな気分。ソンジュン・キムさんのゆったりとしたチェロの見せ場になっていました。

第3楽章は軽妙なスケルツォ。音楽がすっきりと整理されていて,気持ち良い音楽になっていました。第4楽章はチェロを起点とした「挨拶の応酬」といった感じ。スピード感たっぷりの技巧の競い合いであると同時に,楽章全体にユーモアが溢れていました。

2曲目の第11番「セリオーソ」は,中期から後期への推移の時期に書かれた作品で,演奏時間的にはベートーヴェンの弦楽四重奏の全16曲の中ではいちばん短い曲。その分,内容が内容が凝縮されており,第1楽章冒頭の緊迫したユニゾンから全く無駄のない音楽となっています。この日の演奏も速めのテンポで身が締まるようでした。その分第2主題はしっかりと歌われました。突然爆発するような音楽になったり,短い時間の間に色々な表情が詰め込まれていました。

第2楽章は一転して落ち着きのある音楽。途中フガートになるのですが,その辺がとても意味深。独特のミステリアスな気分がありました。第3楽章には「セリオーソ」の由来になった,「Allegro assai vivace ma serioso」という指示が書かれています。この楽章も速めのテンポでピタッと気持ち良く音楽がまとまっていました。中間部で少し穏やかな気分になった後,最後の部分ではテンポが速くなり,緊迫感を増していました。

第4楽章はため息をつくような動機の後,テンポを速め。哀愁を帯びた音楽になります。とてもスムーズな演奏で,しなやかでスッキリとした音の流れの中に悲しみが宿っているようでした。そして曲の最後,一転して軽やかな音楽に。最後だけ「いきなり」という感じですが,それが良いなぁと思いました。胸が空くような,澄んだ響きが気持ち良い演奏でした。

休憩後は第16番が演奏されました。第12番以降の後期の弦楽四重奏曲については,30分以上かかる作品ばかりですが,最後の16番だけは25分程度で4楽章構成。比喩的に言うと,第9交響曲に対する第8交響曲のような位置づけの音楽と言えます。しかし第8交響曲のような明るいユーモア感覚とは違い,どこか謎めいた部分もあるのがこの曲です。弦楽四重奏に限らず,ベートーヴェン自身が完成させた最後の曲だということをついつい考えてしまいました。

第1楽章は軽妙だけれども意味深。薄めの響きでリラックスした感じだけれども,どこか精妙さもある音楽。本心がよく分からないような音楽という感じですね。最後も軽くフッと終了。第2楽章はスケルツォなのですが,プログラム解説に書いてあったとおり(今回も青木恵音さんによる解説は大変充実),ポリリズムによるバラバラな感じの音楽で開始。この自由さはやはり晩年のベートーヴェンですね。ユーモアに加え力強い気分も出てきます。バシッと終了するあたり,この楽章については第8交響曲に通じる感じがあるなぁと思いました。

第3楽章には,落ち着きと透明感を持った後期のベートーヴェンの弦楽四重奏曲独特の味わいがありました。各楽器が精妙にテーマを紡いでいき,変奏曲形式で次第に美しさを増していきました。あくまでも静かだけれども,しっかりとした歌が溢れる音楽でした。

第4楽章は最初の部分が謎めいています。「そうしなければならないのか(Muss es sein?)」の動機とそれを受ける「そうしなければならない(Es muss sei))の動機の応酬で始まります。深刻なのか?実はそんなに深刻でもないのか?落語の「大喜利」のような感じで,一体何をしなければならないのかアイデアを出し合いたくなります。

この部分の後の主部は切れ良く,スムーズに音楽が流れ,身持ち良い音楽が続くので,そんなに深刻な問題では無いのかもしれないですね。途中,少し深厚な表情が出てきますが,最後は落ち着いた気分に戻ります。終盤ピチカートで主題が出てくる辺りのユーモアも良いですね。そして最後は大変シンプルに普通に明るく終了。ベートーヴェンの最後の曲の最後の楽章にしては軽いのですが,この「普通さ」が人生を達観した大作曲家の至った最後の境地なのかもしれません。

演奏終了後は次回公演のアナウンス。12月17日とのことです。全6回中の4回目までは「コンプリート」したので,あと2回なんとしても行きたいと思います。

終演後は「どうぞ撮影して,SNSに上げてください」とのことでした。
残り5曲ですね。どういう割り振りになるかも楽しみです。シリーズの最後は第13番でしょうか?

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