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オーケストラ・アンサンブル金沢定期第480回定期公演マイスター・シリーズ(2024年5月25日)※リハーサルの一部のみ

2024年5月25日(土)14:00~ 石川県立音楽堂 コンサートホール
1) ブラームス/ハンガリー舞曲集(鈴木雅明セレクション)
2) ツェムリンスキー(ハイニッシュ編)/抒情交響曲, op.18(室内オーケストラ版)
●演奏
鈴木雅明指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング),安川みく(ソプラノ*2),加耒徹(バリトン*2)

2024年5月下旬のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演には鈴木雅明さんが指揮者として登場。以前から楽しみにしていた公演だったのですが,家の事情で聞きに行けないことになりました。それでも少しでも良いから聞いてみたいと思い,相談をしてみたところ,リハーサルを見学させたいただけることになりました(定期公演のプログラムもいただけました)。というわけで公演前日の5月24日の午前中に石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。

今回何としても聴いてみたいと思ったのは,バッハの音楽を中心とした古楽のオーソリティといったイメージのある鈴木さんが,後期ロマン派のツェムリンスキーの叙情交響曲というOEKがこれまで取り上げたことのなかった作品を取り上げる意外性がいちばんの理由です。そしてこの曲との組み合わせが,鈴木さんの選曲によるブラームスのハンガリー舞曲集。こちらも意外性のある選曲。「2度と聴けないかも」というプログラムだなぁと思いました。

当日行ってみると,最初は「お客さん」は私一人。ヴァイオリンの原田智子さんがスケジュール的なことを説明後,鈴木さんが登場してリハーサルが始まりました。数日前,鈴木さんは体調を崩していたと伺っていたのですが,とてもお元気そうで安心しました。

まずブラームスのハンガリー舞曲がほぼ通しで演奏されました。今回演奏されたのは次の曲でした。

1~7番,10番,18~21番が演奏されたことになります。鈴木さんは若い頃からこの曲集に親しんでいたそうで,その思いで選曲されたのではないかと思います。

第1番がヤングさんを中心とした弦を中心にゆったりと始まると「おーっ」という気分になりました。何と言ってもお客さんは私一人。いつもよりも残響が長く,つややかなOEKのサウンドを一人だけで楽しむという贅沢。得がたい経験をできました。その後は木管楽器がキラキラとした音で絡み,自然に音楽に生命が息づいているようでした。

この第1番をはじめ,どの曲にも率直さがあり,ストレートに音楽の楽しさが耳に入ってくるようでした。ハンガリー舞曲といえば「緩急自在」というイメージがありますが,そこまで極端なテンポの変化は付けておらず,12曲をひとかたまりとして一気に楽しませてくれる感じの演奏でした。

このハンガリー舞曲集はもともとはピアノ用の曲で,オーケストレーションはブラームス以外の人が行った曲が大半です。18番以降はドヴォルザーク編曲ということで,今回の演奏でも10番の後で一息ついていました。18番以降は,そう思って聴くとドヴォルザークの雰囲気もあるなと思いました。

最後はいちばん有名な第5番で締められました。第21番はキビキビした感じの曲ですが,強い終結感のある曲ではないので,「第5番で締め」ということにされたのだと思います。

その後,いくつかの曲について鈴木さんから「注文」が出され,「微調整」という感じで解釈の確認作業をされていました。マイクは使っていなかったので,指示の詳細な内容まではよく分かりませんでしたが,非常に具体的に指示されていた感じで,指揮者とメンバーが一緒になって職人芸的に音楽を作っている感じがありました。

指示の中では,強い音のニュアンスの付け方について,「最初からボーンと響かせるのではなく,ウァーッという感じに」(この辺ははっきり分かりませんでしたが)という感じで説明されていてなるほどなと思いました。最後に団員から「ここはどうしますか?」という個別の質問。それについて鈴木さんが回答するという感じでブラームスのリハーサルは終了しました。

休憩後,ツェムリンスキーの叙情交響曲のリハーサルがありました。この日の楽器編成ですが前半と後半でかなり移動していました。ブラームスの時は第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に分かれ,コントラバスが下手奥に来る対向配置でしたが,ツェムリンスキーの方は,下手から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ。その後ろにコントラバスという配置。この辺の楽器の配置へのこだわりも鈴木さんらしいところだと思います。

ツェムリンスキーの方は,オリジナルはかなり大編成なので,今回はOEKのサイズにあった室内楽オーケストラ版で演奏されました。女声と男声の歌手が1名ずつソリストで(交互に)登場する点で,マーラーの「大地の歌」と発想が共通します。さらには,歌詞のテキストがインドの詩人タゴールによるもので,非西洋的な味わいがあるという点でも「大地の歌」と共通します。昨年の9月,「大地の歌」についても室内オーケストラ版で聴いたばかりだったので,その第2弾といったところでしょうか。

この曲のリハーサルは,ブラームスの時とは違い,鈴木さんは途中で何回も止めながら指示を出されていました。「ブラームスのペースだと,午前中だけでとりあえずは公演の内容を全部聞けるかな」とも思ったのですが,かなり丁寧に指示をされていたので,午前中(12:30ぐらいかかっていましたが)は,全7楽章中,第2楽章までしか進みませんでした。午後からも聴こうかどうか迷ったのですが,リハーサルを少人数で聴いている(途中で「お客さん」が少し増えました)というのも結構疲れるので,今回は午前中だけで帰ることにしました。

ツェムリンスキーの方ですが,第1楽章はティンパニーのロールで開始。思ったよりも分かりやすい曲で(実は初めて聞く曲でした),映画音楽を思わせるような感じがあるなと思いました。歌詞はステージ奥のパイプオルガンの前のスペースに横書きで表示されており,大変読みやすかったです(パワーポイントで投影している感じ。この字幕のリハーサルでもありましたね)。楽器編成はOEKのフル編成よりもさらに一回り小さい感じで(その点でも「大地の歌」の室内楽版と共通),各楽器や奏者の呼吸が伝わってくるようでした。鈴木さんの指示も管楽器の「飾り」のようなフレーズについての注意を丁寧にされていました。この楽章には,バリトン独唱も加わりますが,加耒徹さんの声も素晴らしかったですね。若々しく,爽やか。オーケストラの編成が小さめだったので,とても見通しの良い音楽になっていると思いました。

第2楽章は連続的に演奏されましたが,こちらにはソプラノの安川みくさんが加わります。安川さんもしっとりとした瑞々しい声。傷が全くないような美しさは,お姫様的なキャラクターにぴったりだと思いました。今回の加耒さんと安川さんの組み合わせは,若い王子,王女の雰囲気にぴったりだったので…やはり本番を観たかったですね。

今回の公演については,非常に珍しい曲だったので,1回しか演奏されないのがもったいないと思いました。この編曲版については,OEKならではのレパートリーとして再演に期待したいと思います。プログラムに掲載されていたタゴールの詩集「園丁」による歌詞もとても魅力的な感じだったので(直感ですが),新たにレコーディングして、文学+音楽が合体した作品として残して欲しい気もしました。

それにしても1人でオケを独占できるリハーサルは贅沢な空間・時間でした。非常に貴重な経験をできました。とはいえ,やはり大勢の人と一緒に楽しむ,本番の方が良いなとも思いました。公演後のXのポストなどを眺めていると鈴木雅明さんも満足の公演になったようですね。

サイン会に参加できなかったのも残念。鈴木雅明さんには,また挑戦的なレパートリーでのOEKとの共演を期待したいと思います。


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