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オーケストラ・アンサンブル金沢第470回定期公演フィルハーモニー・シリーズ(2023年7月13日)

2023年7月13日(木)19:00~ 石川県立音楽堂 コンサートホール
1) モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲, K.527
2) シューマン/ピアノ協奏曲イ短調, op.54
3)(アンコール)シューマン/トロイメライ
4)(アンコール)ショパン/革命のエチュード
4) ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調, op.67
5)(アンコール)シュトラウス,R./歌劇「ナクソス島のアリアドネ」~ダンス
●演奏
マルク・ルロワ=カラタユー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)*1-2,4-5,辻井伸行(ピアノ*2-4)

Review

2022/23シーズンの最終公演となるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK) 定期公演フィルハーモニーシリーズを石川県立音楽堂で聴いてきました。指揮は,OEKを初めて指揮するマルク・ルロワ=カタラユーさん,ピアノはおなじみの辻井伸行さんでした。やはり辻井さんの人気は絶大で会場は満席。シーズンを締めるに相応しい熱気に包まれた公演になりりました。

完売御礼の案内が出ていました

最初にまず,モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」序曲が演奏されました。実は,この曲をOEKの演奏で聴くのは,今年3回目になります。4月は井上道義指揮(軽井沢公演),5月は沖澤のどか指揮(楽都音楽祭でのハイライト版)でも聞いていますが,この日の演奏は,特に音の透明感が素晴らしいと思いました。

冒頭の和音からすっきりとしたクリアな響き。それだからこそ,強弱やニュアンスの変化が鮮明に分かるのだなと思いました。テンポもスマートで軽快で,このまま幕が開いて欲しいと思わせるような演奏でした。ルロワ=カタラユーさんは,マルク・ミンコフスキのアシスタントとして,オペラを沢山指揮されていることがプログラムのプロフィールに書かれていましたが,そのことを彷彿とさせるような序曲でした。

ステージ前方にピアノがセットされると,お待ちかねの辻井伸行さんが,ルロワ=カタラユーさんに手を取られて登場。辻井さんは,過去,OEKと色々な協奏曲を共演してきましたが,今回演奏したのは,辻井さん自身演奏するのが初となるシューマンのピアノ協奏曲でした。

第1楽章冒頭の和音から,力んだ感じはなく,全曲を通じて,遅めのテンポで,じっくりと真面目にこの曲に向き合っているような演奏でした。大げさなことをしない,正統的な感じの演奏で,辻井さんらしくクリアかつ豊かな音を楽しむことができましたが,どこか真面目過ぎる,というか「ときめき」が少ない印象を持ちました。個人的には,内面が熱く燃えているような,揺らぎがある演奏が好きなので,少々物足りなさを感じました。

OEKの演奏には,遠藤さんのクラリネット,加納さんのオーボエの独奏をはじめファンタジーの気分が溢れる流動感が感じられたので,対照的な感じでした。今回,辻井さんとOEKは,この日の公演後,同じプログラムで日本各地で7回公演を行いましたので,だんだんと変化していった可能性もあるかなとも思いました。

第2楽章も,丁寧で追いつきのある演奏でした。純真さのある辻井さんのピアノの音を透明感のあるチェロやヴィオラがロマンティックな歌で支えている感じでした。

第3楽章も優雅な感じで開始。辻井さんのピアノは速いパッセージでも崩れることはなく,堂々とした音楽を聴かせてくれました。特に曲の終結部付近,速いパッセージが延々と続く部分を軽々と演奏する鮮やかさは見事で,陶然として聴いていました。

その後,アンコールが2曲演奏されました。オーケストラの定期公演で,ソリストがアンコールを2曲演奏するのは...やはり辻井さん人気ならではだと思います。シューマンの協奏曲を受けての「トロイメライ」は,協奏曲同様,どっしりとした感じの演奏。ショパンの「革命」のエチュードは全く迷いのない自信に溢れた演奏でした。

休憩時間中,辻井さんがカフェコンチェルトに登場。
一気にお客さんがカフェに移動し始めたのには驚きました。

後半は,ベートーヴェンの交響曲第5番が演奏されました。過去,OEKが何回も演奏してきた曲ですが,大変新鮮さのある演奏でした。語呂合わせで言うと「ベトつかないベートーヴェン」といったところでしょうか。梅雨末期に聴くのにぴったりだと思いました。

第1楽章冒頭から速目のテンポでどこかリズミカル。ジャジャジャジャーンというよりは,パパパパーンといった軽快さがありました。その後もこの動機が,OEKの各パート間を鮮やかに飛び交っていくのが楽しかったですね。再現部前のオーボエの橋爪さんによるカデンツァの部分だけは多少情緒的になり,変化を付けていましたが,楽章を通じてキレの良い音が積み重なり,次第に凄みが増していく面白さがありました。

2楽章冒頭もヴィオラやチェロを中心に美しく歌っているのですが,どこか弾んだ感じがあり,深刻さはありませんでした。トランペットがスカッと入ってきて,バロックティンパニが加わり,行進曲風になる部分も重苦しさはありませんでした。ルロワ=カタラユーさんの指揮だと,フランス革命の時代の音楽だなぁという感じがしました。終結部での金田さんのファゴットも軽快で,素晴らしい存在感を発揮していました。

第3楽章も重苦しい感じはしませんでした。冒頭のコントラバスには,サラッとしたニヒルさがあり,ホルンもすっきりとした響きでした。フガートになる部分は非常に速いテンポでした。それでいて透明感のある美しさが出ていたのは,さすがヤングさんのリードするOEKだなぁと思いました。

第4楽章への移行部は,ティンパニの音がカラッとしていたので,ここでもフランス革命の時代を想起させるようでした。神妙だけれども美しい弱音が続いた後,第4楽章はストレートな開放感で開始。梅雨明け宣言といった感じでした。この楽章も音が美しく整っており,新鮮さを感じました。この楽章からトロンボーンやピッコロが加わるのですが,第2主題あたりから彩りが変わり,華やかさが一段アップするような”グラデーション”があったのも面白いと思いました。ちなみに,呈示部の繰り返しは行っていました。

終結部も爽快な雰囲気。フルートやピッコロのキビキビとした音が活躍し,とても率直かつ気持ちよく締めてくれました。最初に書いたとおり,特に弦楽器の音に透明感があったので薄味でもとてもニュアンス豊かな音楽になっており,音が明るく飛び込んでくる美しい演奏になっていたと思いました。

その後,ルロワ=カタラユーさんのフランス語と日本語のアナウンスに続いて,アンコールとして,Rシュトラウスの歌劇「ナクソス島のアリアドネ」の中のダンス音楽という意表を突く曲が演奏されました。これが見事な演奏。ルロワ=カタラユーさんの「十八番」といった感じの生き生きとした気分に溢れていました。このオペラは,シュトラウスのオペラは小編成でも上演できるはずなので,是非,全曲演奏をルロワ=カタラユーさん指揮OEKで聞いてみたいものです。

この日のポストコンサートトークは,ファゴットの渡邉聖子さんと打楽器の渡邉昭夫さん。聖子さんの方は,「ノブ君と誕生日が一緒」とのこと。8月29日に金沢市アートホールで行う,ファゴットのコンサートのPRもされていました。

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