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大木麻理オルガンコンサート with 上野耕平(2022年11月30日)

2022年11月30日(水)19:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール

1) バッハ,J.S./前奏曲とフーガ ハ長調 BWV.531
2) バッハ,J.S./来たれ,異邦人の救い主よ, BWV.659
3) バッハ,J.S./ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ ト短調, BWV.1029
4) バッハ,J.S./幻想曲とフーガ ト短調, BWV.542
5) リンク/「きらきら星」のテーマによる序奏と変奏,フーガ, op.90
6) サン=サーンス(メルニコヴァ編)/「動物の謝肉祭」~序奏とライオンの行進,めんどりとおんどり,ラバ,象,白鳥,フィナーレ
7) ボザ/アリア
8) ベダール/アルト・サクソフォンとオルガンのためのソナタ第1番
9) (アンコール)バッハ, J.S./管弦楽組曲第3番~エア
●演奏
大木麻理(オルガン),上野耕平(サクソフォン*3,7-9)

Review

大木麻理オルガンコンサートwith上野耕平と題された公演を石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。メインは大木麻理さんのオルガンでしたが,前半の1曲,後半の2曲は上野耕平さんのサクソフォンとの共演で,オルガン単独によるリサイタルとはひと味違った,変化に富んだ内容となっていました。

プログラムは前半がバッハの作品4曲,後半はサン=サーンスの「動物の謝肉祭」(オルガン独奏版)の抜粋やサクソフォンとオルガンによるオリジナル作品を交えた,多彩な音色に溢れたステージとなっていました。公演全体を通じ,大木麻理さんと上野耕平さんというスター性と実力を兼ね備えた2人の若手奏者による,生き生きとした鮮やかな演奏を存分に楽しむことができました。

前半演奏された4つのバッハ作品は,それぞれ作曲時代が異なるもので,曲の性格もバラエティに富んでいました。

最初に演奏された,前奏曲とフーガ ハ長調 BWV.531は,10代の頃の作品とのことでした。冒頭から力強く自在に動く,足鍵盤の音が印象的でした。曲後半のフーガにも明るく率直な感じがありました。どこか戯れるような気分もある,バッハの若さが溢れたような作品。鮮やかな赤の衣装で颯爽と登場した大木さんの雰囲気にもマッチした演奏でした。曲の長さも比較的コンパクトでしたので,演奏会の「序曲」にもぴったりでした。

次の「来たれ,異邦人の救い主よ」は,対照的にバッハ最晩年の作品。ライプツィヒ・コラール集の中の1曲で,クリスマス前の約4週間の待降節(アドヴェント)に演奏された曲ということで,まさにこの時期に聞くのにぴったりの作品でした。この曲はピアノ独奏でも聞いたこともありますが,オルガンで聴くと,人間の内面にぐっと入り込んでくるような,くぐもった感じの音とそれに続いて出てくるヴィブラートのかかったくっきりとした音の対比が鮮やかに感じられました。聴いていて,ウルウルとした感じになってくるのも,やはりオルガンならではの表現力だなと思いました。

その後,サクソフォンの上野さんが登場し,ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタが演奏されました。この曲は3楽章からなる作品で,1楽章と2楽章はテナー・サックス,3楽章はソプラノ・サックスを使っての演奏。通常チェンバロが演奏するパートはオルガンが演奏しました。

第1楽章はノリの良い演奏。どこかブランデンブルク協奏曲(何番でしょうか)を思わせるようなリズム感が楽しい楽章でした。上野さんのまろやかで艶っぽい音も魅力的でした。第2楽章では息の長い歌を楽しませてくれました。しっとりとした落ち着きのある世界に浸らせてくれました。第3楽章は速めのテンポによる,流れるような軽快な演奏。ソプラノ・サックスは,ちょっとオーボエを思わせるような音がしますが,より肉付きが良く,リラックスした気分が溢れていました。

前半最後は,幻想曲とフーガ ト短調, BWV.542。バッハのト短調といえば,「小フーガ」を思い出しますが,こちらはより規模の大きな作品で,「大フーガ」と呼ばれることもあります。

前半の幻想曲の部分は,気力溢れる充実した音で開始。音色が変わるたびに,スケールが大きくなっていくようでした。後半のフーガでは,よりがっちりとした気分に。ずっしりと内容が詰まっているようでした。それでいて重苦しい感じはなく,曲の最後の部分では,陶酔的で輝きのある世界へと入っていきました。

後半は,リンクという作曲家の「きらきら星」のテーマによる序奏と変奏,フーガから開始。ただし...「きらきら星」といってもモーツァルトの有名な変奏曲とは違い,意表を突くように重々しい音で開始。これぞオルガンという音でびっくりさせてくれました。ただし,途中からはムードが一変。メルヘン的で親しみやすい音色で,おなじみの「あのメロディ」が出てきました。その後もドキッとするような刺激的な音が出てきたり,とても綺麗な弱音が出てきたり,変化に富んでいました。曲の最後のフーガの部分はくっきりと演奏されていました。最後の方はのびのびとした開放感が広がり,無数の星がきらめく宇宙へと旅立っていくような感じだなぁと思いながら聞いていました。

次に演奏された,メルニコヴァ編曲による,オルガン独奏版サン=サーンスの「動物の謝肉祭」は,この日いちばんの聞き物だったのではと思いました。オルガンは多彩な音色を出せるので,「一人オーケストラ」とも呼ばれるそうですが,その本領発揮といった演奏でした。全曲ではありませんでしたが,「特徴的な音の出てくる曲を選んだ」ということで,音の動物園といった楽しさのある演奏となっていました。

最初に演奏された「序奏とライオンの行進」は,原曲の雰囲気をリアルに再現したような演奏でした。遅いテンポで堂々と演奏していたので,オーケストラ版を上回る迫力だったかもしれません。途中,トランペットのような音が出てきたのも「いかにもライオン」でした。

その後の「めんどりとおんどり」はユーモラスな雰囲気。「ラバ」はオリジナルではピアノのみで演奏される,音階を上下するような曲でしたが,オルガンで聞くと,どこかバッハのオルガン曲中の速いパッセージのように聞こえてくるのが面白いと思いました。「象」はとても大げさな感じのワルツ。オリジナルのコントラバス演奏よりもさらにリアルな重さのある象になっていたと思いました。

そして有名な「白鳥」。通常チェロで演奏される名主旋律には,少しハスキーな渋さがありました。静かな水面を動いていくような落ち着きの感じられる演奏でした。。締めの「フィナーレ」は一転して率直で明快な演奏。大木さんは,難なく演奏されていましたが,実はとても技巧的に難しいのではと思いました。途中,組曲の前半に出てきたようなメロディが別の音色で飛び込んでくる感じも楽しかったですね。

というわけで,この曲はオルガンにぴったりの曲だと思いました。この演奏を聞きながら,ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」のオルガン版などがあれば,是非聞いてみたいものだと思いました(さらに難易度が高いでしょうか)。

後半の最後の2曲は,再度,サックスの上野さんとの共演になりました。ボザの「アリア」は,サックスの定番曲とのことですが,オルガンとのコラボで聞いても素晴らしいと思いました。もともとサクソフォンは,パイプオルガンからパイプを1本抜いてきたような感じの楽器なので(非常に雑に説明するとですが...),音色的にもぴったりでした。上野さんのサックスの音は甘く,しっとりと音楽が流れ,タイトルどおり,人間の声による「アリア」を聞くようでした。オルガンの音とサックスの音の溶け合い方が抜群で,一体となって作り出す,異次元の美しさを持った世界に遊ばせてもらいました。

最後のベダールの曲は,サックスとオルガンのためのオリジナル作品でした。この曲もとても親しみやすい作品で,楽章ごとに全く違う世界が広がっていました。

第1楽章は活発で元気な雰囲気。サックスの艶っぽい音が魅力的で,華麗に聞かせてくれました。第2楽章はオルガンの伴奏の音型が,フォーレのレクイエムにでも出てきそうな雰囲気で,心地よく流れるような音楽が続きました。第3楽章はHumoresuqueの指示どおり,ユーモラスでポップな感じ。こちらはプーランクの曲にありそうな楽しい音楽でした。ユーモアでおしゃれな感じとちょっとメランコリックな気分とが詰め込まれた楽章で,この2つの楽器で演奏するのにぴったりの魅力を感じました。

拍手に応えてアンコールで演奏されたのは,再度,バッハ。上野さんのソプラノ・サックスと大木さんのオルガンの共演による「G線上のアリア」でした。ここでも音の溶け合いが素晴らしかったですね。,スムーズで速めのテンポによる,甘いけれどもどこかはかなげな感じの演奏。すっと溶けてしまう初雪といったところでしょうか。それがまた魅力的でした。

大木さんはトークの中で「サックスとの共演だと遠慮なく音を出せる(サックスも音量の大きな楽器なので)」と語っていましたが,「確かに。なるほど」と思いました。そして,改めて相性抜群だと思いました。このサックス&オルガン企画は,石川県の地元のアーティストの皆さんにも期待したいですね。

PS.

 大木さんが石川県立音楽堂コンサートホールのオルガンを演奏するのは5年ぶりとのことです。その時は聞けなかったのですが,1月の大雪の時だったようです。演奏された曲を調べてみると,打楽器との共演による「ボレロ」!。これも聴いてみたかったですね。

PS2.

 この公演は「イベント割」対象。せっかくなのでこの割引を使って少し安く購入してみました。



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