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いしかわ百万石文化祭2023 音楽堂days : IMAスーパーストリング・アンサンブル特別公演:いしかわミュージックアカデミー25周年記念(2023年11月4日)

2023年11月4日(土)13:30~場所:石川県立音楽堂邦楽ホール

1) クープラン(ポール・バズレール編曲)/コンセールのための5つの小品(チェロと弦楽合奏版)
2) バッハ,J.S/ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調, BWV.1041
3) バッハ,J.S/ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調, BWV.1042
4) ヴィヴァルディ/協奏曲集「四季」~「春」op.8-1
5) ヴィヴァルディ/協奏曲集「四季」~「夏」op.8-2
6) ヴィヴァルディ/協奏曲集「四季」~「秋」op.8-3
7) ヴィヴァルディ/協奏曲集「四季」~「冬」op.8-4
●演奏
原田幸一郎指揮IMAスーパーストリング・アンサンブル(コンサートマスター:林悠介),辻彩奈*2,ヤン・インモ*3,南紫音*4,毛利文香*5,周防亮介*6,チェ・ジュハ*7(ヴァイオリン), 上野通明(チェロ*1)
司会:石川公美

いしかわ百万石文化祭2023の一環で行われた音楽堂3daysの2日目。石川県立音楽堂コンサートホールでIMAスーパーストリング・アンサンブル特別公演を聞いてきました。今年で25周年となるいしかわミュージックアカデミー(IMA)では,弦楽器奏者を中心に多数のプロ演奏家を育ててきましたが,この日はその中から7人の若手奏者をソリストに迎えた豪華顔ぶれによるガラコンサート風の演奏会となりました。

ソリストは世界のコンクールでの上位入賞者ばかりということで,切れ味良く,勢いのある,高レベルの見事な演奏の連続。各奏者ごとの個性の違いも鮮明で,互いに競い合うような迫力を感じました。指揮は当初からIMAの中心的指導者である原田幸一郎さんで,IMAスーパーストリング・アンサンブルには,ソリストたちに劣らないIMA出身者が集結していました。こちらも充実のサウンドを聞かせてくれ,”スーパーストリング”という名前に相応しい,迫力のある音楽を聴かせてくれました。原田さんの下に,同門が再集結したような感じで,同窓会のような雰囲気もある公演でした。

1曲目の前に撮影

前半最初は,チェロの上野通明さんが登場し,クープランのコンセールのための5つの小品(チェロと弦楽合奏用に編曲された版)が演奏されました。文字通り短い5つの曲からなる小協奏曲的な作品で,上野さんのしなやかでよく通る音をたっぷり楽しむことができました。1曲目はゆったりとした音楽。物憂げで切ない音楽が情感豊かに伝わってきました。2曲目は少しテンポアップ。オーケストラとの対話が美しかったですね。第3曲は急速なテンポになり,野性味のあるチェロを楽しむことができました。オーケストラの方も連動して躍動感のある立派が音楽で盛り上げていました。第4曲は静かにまどろむような音楽。ヴィオラとの対話が美しかったですね。第5曲終曲は,輝かしく元気な曲。勝ち誇ったような華やかさで全曲を締めてくれました。

その後,バッハのヴァイオリン協奏曲が2曲演奏されました。実は,8月19日に行われた「IMA2023スペシャル・フェスティバル・コンサート」でもこの2曲が演奏されていたので(MINAMIさんと前田妃奈さんがソリストとして登場),さらに別のソリストとの「聞き比べ」ということになります(個人的には…同じバッハなら今回は2台のヴァイオリンのための協奏曲で良かったのでは…とも思ったりもしました)。

第1番のソリストとして登場したのは,既にオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演にも登場したことのある,辻彩奈さんでした。緑のドレスで登場した辻さんの音はつややかで,くっきりとした演奏。音楽にしっかりと乗りながら,大きく羽ばたくような自由さも感じられました。ソリストとしての貫禄もある堂々とした演奏でした。

第2楽章はしっとりとした憂いが自然に漂う,コクのある演奏。すっきりとしているけれども充実感のあるオーケストラの響きの中から,辻さんの音がスッと浮き上がってくるようでした。第3楽章もオーケストラの輝かしい響きに辻さんのヴァイオリンがしっかりと乗って,勢いのある音楽を作っていました。全曲を通じて,オーソドックスだけれども,新鮮な気分も漂う,自然な迫力を持った演奏でした。

ちなみに今回の公演では,別の曲でソリストとして登場する奏者たちもオーケストラの中(最後列だったと思います)で演奏していました。これもスーパーストリング・オーケストラならではですね。

第2番では,韓流スターのようなスマートな雰囲気を持ったヤン・インモさんがソリストとして登場しました。オーケストラの響きは第1番のとき同様充実感がありましたが,ホ長調になっている分,さらに輝きが増していたように思いました。

ヴァイオリン独奏の方は,ヴィブラートが控えめで古楽奏法を思わせる感じでした。第1楽章から勢いと疾走感があり,オーケストラのメンバーも引っ張られているような感じでした。楽章の後半では,即興的な装飾音も切れ味良く入れており,辻さんの演奏よりも個性的な感じがしました。

第2楽章は物憂げな表情を見せながら,しっかりと自由に歌っていました。何かの物語を語るような詩的な情感に溢れた演奏でした。底光りするような深い音も印象的でした。

孤独な歩みを思わせる第2楽章と対照的に,第3楽章はパッと気分が晴れたような感じで開始。しっかりとした歌に溢れた演奏でした。音楽がどんどん技巧的になっていくような華やかさも感じられました。

後半は4人のソリストによるヴィヴァルディの「四季」全曲が演奏されました。数年前のIMAのスペシャルコンサートでも,同様のスタイルで演奏されたことがありましたが,もちろんソリストは変わっており,今回は南紫音さん,毛利文香さん,周防亮介さん,チェ・ジュハさんが各季節を担当しました。

「春」を担当したのは,紺のドレスを着た南紫音さんでした。南さんは,過去,IMAの講師による演奏会で講師と一緒に演奏するのを聴いたことがありますが,その後,ソリストとしても幅広く活躍しており,OEKとも共演しています。

「春」は第1楽章からキビキビとしていなら落ち着き付きのある感じで開始。そこにパッと南さんの音が加わると,音楽のニュアンスが一気に豊かになりました。楽譜に書かれたソネットのフレーズどおり,情景がくっきりと描き分けられていました。特に嵐の部分でのバリバリと弾きまくるような迫力が見事でした。この日のコンサートマスターは初期のIMAを受講されていた林悠介さんでしたが,この曲では第2のソリストのように活躍し,南さんと見事な掛け合いを聴かせてくれました。

第2楽章は,独奏ヴァイオリンの弱音で虚無的な音が印象的でした。対照的に犬の鳴き声担当のヴィオラは力強い音で存在感を発揮していました。第3楽章はしなやかで優雅な演奏。オーケストラの流れるような演奏の上で,南さんも大きく歌っていました。陽光あふれる「春」をたっぷり,美しく締めてくれました。この曲では,通奏低音も大活躍しますが,この日,チェロのトップには新倉瞳さんが加わっており,他の季節も通じて,しっかりと音楽を支えつつも,時折ソリスティックな存在感をアピールしていました。

ちなみに,今回はソリスト4人でしたので,協奏曲×4という形で演奏され,季節ごとにしっかり拍手が入りました。

「夏」のソリストは,青のドレスを着た毛利文香さんでした。毛利さんもIMAではお馴染みの方ですね。実は,かなり若い頃から参加されていたのを保護者のような感じで(?)客席から見守っていました。立派に成長されたなぁと思います。

第1楽章は透明感のある弦楽合奏の音でじっくりと開始。その後,毛利さんのソロが切れ良くスリムな音で切り込んできました。この知的で精緻な感じが素晴らしいと思いました。オーケストラの方は名手集団ということで,大変ダイナミックな演奏。「夏」は,特に激しい部分が多いので本領発揮という感じでした。

第2楽章はクールで清潔な感じがあり,どこか古楽風の趣き。装飾音もかなり入っていました。第3楽章は第1楽章同様,怒濤の迫力。毛利さんのソロもそれに負けない,力強い演奏。オーケストラのうねるような響きと毛利さんの鮮やかな技巧とが競い合うように進んでいきました。ビシッとした後味の残る演奏でした。

「秋」は,スパンコールの入った黒のパンツルックの周防亮介さんの独奏。第1楽章は落ち着きのあるテンポで開始。「夏」とは対照的に,膨らみを感じさせる音楽になっていました。周防さんのソロも力強さと同時にしなやかさのある堂々と演奏でした。伸びやかさのある演奏が大変気持ちよかったですね。中間部でのヴィブラートを抑え,少し装飾音を加えた静かな雰囲気も絶品でした。

第2楽章はチェンバロと弱音器を付けた弦楽器とが絡み合う美の世界。ゆっくりとした時の流れを感じつつ,つい「うとうと」したくなる音楽でした。第3楽章はどっしりと整然とした落ち着きのある音楽になっていました。周防さんのソロはここでも堂々としており,品格の高さのようなものを感じました。この曲もまた,聴き応えのある音楽となっていました。

「冬」は,ピンクのドレスを着たチェ・ジュハさんのソロ。第1楽章は軋むような不協和音で始まりますが,これが何とも言えず格好良かったですね。チェ・ジュハさんの独奏もしなやかで鮮やか。暖かみのある音楽になったり,意欲的な雰囲気になったり,ニュアンスの変化も豊かでした。スピード感たっぷりで,ノリ良くビシッと揃ったオーケストラと一体になってダイナミックな音楽を作っていました。

第2楽章はとても速いテンポで,美しく歌っていました。背後のピツィカートの音も美しかったですね。チェ・ジュハさんのソロは,即興的な音も加えて,ここでもニュアンス豊かな音楽を聴かせてくれました。全曲を締める第3楽章はチェ・ジュハさんのしなやかな音で開始。繊細な音から力強い音まで,変化に富んだ音楽を鮮やかに聴かせてくれました。曲の最後は急速なテンポで,凄みのある響きで締めてくれました。

全曲の演奏が終わった後,ソリスト全員が再登場しましたが,まさに壮観でした。かつて暑い暑い夏休みの真っ最中に,金沢で研鑽を積んでいた皆さんの今後の活躍を祈りたいと思います。

PS. この日はソプラノ歌手の石川公美さんが聞き手となって,ソリストたちへのインタビューコーナーがありました。その中で辻彩奈さんについては,ご家族が金沢に縁のあるといった話が出ました。こういった話題を聞くとさらに親近感が増しますね。

PS. IMAは25周年ではありますが,ガル祭に較べると,まだまだ地元の一般市民レベルにまで定着しているとはいえません。この日も素晴らしい演奏の連続だったにも関わらず,かなり空席があり残念でした。未来に向けて「見せ方」を考えていくことも大切なのかなと感じました。

PS. その一方,邦楽ホールの「山月記・名人伝」公演の方はチケット完売。こちらにも関心があり,ハシゴも考えたのですが...時間的な余裕や体力を考えて,本日は行きませんでした。読書の秋ということで,久し振りに自力で読んでみようかなと思っているところです。

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