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金澤弦楽四重奏団 ベートーヴェン全曲演奏会Vol.3(2023年6月20日)

2023年6月20日(火)19:00~金沢市アートホール
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第7番へ長調,op.59-1「ラズモフスキー第1番」
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第15番イ短調, op.132
●演奏
金澤弦楽四重奏団(青木恵音,若松みなみ(ヴァイオリン),古宮山由里(ヴィオラ),ソンジュン・キム(チェロ))

Review

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーによる弦楽四重奏団,金澤弦楽四重奏団ベートーヴェン全曲演奏シリーズの第3回を金沢市アートホールで聴いてきました。今回演奏されたのは第7番(ラズモフスキー第1番)と第15番という40分前後の大曲2曲。過去2回同様,真摯で気持ちの良い充実の演奏をたっぷりと楽しんできました。

ラズモフスキー第1番の方は中期の作品で,交響曲で言うところの「英雄」に当たる作品。変化に富んだ曲想を緻密かつ若々しく聞かせてくれました。

第1楽章冒頭は,リズムに乗って,キムさんのチェロが駆け足をするような感じで颯爽とスタート。青木さんのヴァオリンの凜とした美しさも印象的でした。心地よい緊張感を保ちながら,均整の取れた美しさのある演奏でした。

第2楽章は,各楽器がお互いにひっそりと探りを入れ合うような感じで開始。しっかり歌う部分と,キビキビと弾む部分のメリハリの効いたスケルツォ楽章でした。色々なアイデアが次々と湧き上がってくるような終結部も良かったですね。

第3楽章は,4人が心を合わせたような豊かな歌が連綿と続きました。静かで精妙な雰囲気は聞きごたえ十分でした。それでいて情におぼれった感じはなく,しっかりとコントロールされた深い音楽を作っていました。

第4楽章はチェロによる元気の良いフレーズで開始。モチーフが積み重っていくうちに,段々と立派な音楽になっていくような面白さがありました。特に緊迫感に溢れた中間部からフガートになって,さらに立体感を増していくコーダにかけての変化に富んだ展開が良いなぁと思いました。

全曲を通じて,とても真面目だけれども,力みすぎるところはなく,軽やかさもあるのも良いと思いました。

後半に演奏された第15番の方は,5月末に行われた「ふだん着ティータイムコンサート」で第3楽章を聴いたのですが,やはり全曲を通して聴くとさらに聴き応えがありました。この3楽章を中心にシンメトリカルに出来た曲だということがはっきりと分かりました。

第1楽章の序奏部は,チェロによる4つの音のモチーフで開始(この辺は,青木さんによるプログラムノートを見ながら書いているのですが,今回も,大変詳細で充実した内容でした)。どこか怪しげな雰囲気があり,「現代の曲?いつの時代?」という感じでしたが,主部に入ると,親しみやすいメロディによる対話が始まり,折り目正しい古典的な感じに。この気分の転換が面白いと思いました。

第2楽章は柔らかで優雅なスケルツォ的楽章。ここでも楽器間の気持ちの良い対話が続いていきました。中間部はヴァイオリン2本による繊細な味が独特でした。表情が次々と変わり,まじめに戯れているという感じでした。

この前も聴いた第3楽章は,やはり別格の楽章。二長調の楽章ですが,リディア旋法というモードで書かれていることもあり,ステージ全体の空気が変わり,透明感が増したような感じになりました。永遠に続くようなゆったりとしたテンポですが,重苦しい感じはせず,どんどん透明度が増していくようでした。

ベートーヴェン自身,重病からの回復の心境を描いた曲ということで(そのことが楽譜にも書かれています),この部分に続いて,吹っ切れたような前向きさのある音楽も出てきます。そしてさらに澄んだ世界へと音楽が大きく広がっていく感じが素晴らしいと思いました。ベートーヴェンの晩年の音楽の真骨頂を聴くようでした。

第4楽章は一転して行進曲風になり,現実に戻った感じになります。が,その音楽にはしなやかさがあり,現実世界の方も心地よい世界に変わっていたという感じでした。

レチタティーヴォ風の音楽に続いて,第5楽章に入ると,哀愁に満ちた3拍子のロンドに。美しく音楽が流れていき,どこかロマンの香りも漂うよう。揺れ動く音楽が大変美しかったですね。楽章の最後は全曲を締めくくる音楽。色々な要素がきっちりと詰め込まれた後,悟ったような軽みのある音楽で締めてくれました。

ベートーヴェンの音楽は,やはり論理的で楽器間でのまじめな対話を聴いている感じがあるのですが,堅苦しいだけでなく,その中に詩情が漂うのが魅力だなと今回の演奏を聴きながら思いました。

このシリーズは,メンバーが勉強しながら進行...ということで,半年に1回ぐらいのペースで進んでいます。今回で8曲まで来たので,数的には半分終了したことになります。演奏会の開催ペースに合わせって,じっくりとベートーヴェンの室内楽を楽しんでみたいという金沢の聴衆の気持ちをしっかりとつかんできていると思います。充実した音楽,志の高い音楽を奏者を身近に感じながら楽しめるこのシリーズ。ずっと続いて欲しいですね。

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