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カルミナ・ブラーナ:音楽文化国際交流2024(2024年7月14日)

2024年7月14日(日)14:00~ 金沢歌劇座
1) 杉本竜一/ビリーブ
2) ふるさと
3) オルフ/カルミナ・ブラーナ
●演奏
辻博之指揮石川フィルハーモニー交響楽団
石川公美(ソプラノ*3),ロベルト・ディ・カンディド(テノール*3),原田勇雅(バリトン*3)
石川県合唱協会合唱団*3, 金沢児童合唱団,いしかわジュニアオペラアカデミー,高松少年少女合唱団

梅雨末期(多分)の雨の中,辻博之さん指揮石川フィルハーモニー交響楽団,石川県合唱協会合唱団等による,石川県音楽文化協会主催のオルフの「カルミナ・ブラーナ」公演を金沢歌劇座で聞いてきました。音文協といえば,年末年始の「第九公演」「荘厳ミサ公演」が定番ですが,「カルミナ・ブラーナ」についても,かなり前に一度聞いた記憶があります。金沢では滅多に演奏されない大編成の曲ということで聞きに行くことにしました。

この曲は冒頭部(と最後に再現)が特に有名ですが,この部分から妥協を許さないテンポと気迫で,合唱とオーケストラが一体となった引き締まった響きがグイグイと迫ってきました。

まず「カルミナ・ブラーナ」に先立って,能登半島地震の被災地に思いを寄せる形で,児童合唱とオーケストラによる演奏で2曲演奏されました。まっすぐな飾り気のない声が心にしみました。「ビリーブ」はストレートな応援歌ですが,音楽に乗って歌われるととても力強いメッセージとなって響いていました。

開演前のステージ

続いて「カルミナ・ブラーナ」が演奏されました。打楽器(多数),ピアノ(2台)なども加わる大編成で,大人の合唱団も入ってくると,金沢歌劇座のステージは200名ぐらいの人でいっぱいになりました。曲は「序 全世界の支配者なる運命の女神」の後,「第1部 初春に」「第2部 酒場にて」「第3部 愛の誘い」の3つの部分が続きます。ソリストは金沢ではおなじみのソプラノ石川公美さん,バリトンの原田勇雅さん,テノールのロベルト・ディ・カンディドさんが登場しましたが,各歌手はそれぞれ自分の出番の時だけステージに登場し,指揮者の前で歌うというスタイルでした。

まず「序」ですが,上述のとおり速目のテンポで演奏されました。オルフらしく一定のリズムがずっと続く中,段々と曲が盛り上がり,シンバルや大太鼓も加わってさらに熱気が増すといった感じでした。まずこの部分がバシッと決まったので一気に気分が上がりました。

第1部「初春に」では,第4曲「万物を太陽は整えおさめる」でバリトンの原田さんのソロが入りました。6月にオーケストラ・アンサンブル金沢の小松定期公演で「冬の旅(抜粋)」を聞いたばかりでしたが,今回もとても瑞々しい声を聞かせてくれました。第1部は,この曲を含め,全曲の中ではいちばん古風な雰囲気のある部分で,ヨーロッパ中世の吟遊詩人が歌った歌の素朴で世俗的な気分が伝わってきました。第6曲はオーケストラのみの演奏による舞曲ですが,コンサートマスターのソロを中心に,生き生きとした演奏を聞かせてくれました。変拍子になったり,鈴や鐘のような音が入ったり,オルフならではのオーケストレーションも楽しめました。第1部の最後は,どっしりとした味わいのある第9曲「円舞曲」に続き,トランペットのファンファーレで始まる10曲「たとえこの世界がみな」で景気よく終了。合唱も加えてのフル編成のダイナミックな響きが心地良かったですね。

続く第2部「酒場にて」は,4曲だけですが曲者揃いの曲が並んでいる感じでした。何と言っても第12曲「昔は湖に住まっていた」が強いインパクトを残しました。テノールのカンディドさんはこの曲だけに登場したのですが,本当に頑張ってギリギリのところで高音を出している感じがスリリングでした。カウンターテノールが歌うこともあるのですが,カンディッドさんは普通のテノールで,無茶ぶりに応えてファルセットで歌っているといった感じのリアルな声が(聞いている方も少々疲れましたが)大変印象的でした。この曲では,序奏部でのファゴットもユーモラスな味わいがありました。

第2部ではバリトンの原田さんと男声合唱も大活躍。女声に比べると男声の人数は少なめでしたが,第13曲「おれは僧院長さまだぞ」や第14曲「酒場にいるときは」でのオルフの書いた奇妙なフレーズの連続にしっかりと食らいついていました。こちらも酒場の混沌がリアルに伝わってくるようでした。まさに酔っ払って目が回りそうな感じでした。

第3部「愛の誘い」は一転して静かな雰囲気。第15曲「愛の神はどこもかしこも飛び回る」はオーケストラの優しい響きの後,児童合唱で開始。何か救いの声という感じでした。そしてソプラノの石川さんが登場。「待ってました」という感じのまろやかな声で,ホッと一息つけました。

第16曲「昼も夜も,何もかもが」はバリトン独唱なのですが,テノールのような音域のような大変高い音。反対に第18曲「私の胸をめぐっては」は,堂々とした声。原田さんは見事に聞かせてくれました。第19曲「もし若者が乙女と一緒に」は,無伴奏曲の男声合唱曲。何か呪文を唱えているような不思議なインパクトがありました。

第20曲「おいで,おいで,さあ来ておくれ」はピアノ伴奏のみの合唱曲。オーケストラ曲の中に入っているととても新鮮に感じる曲です。スピード感のある演奏が爽快でした。第21曲「天秤棒に心をかけて」ではソプラノの石川さんが落ち着いたトーンで染みるような歌を聴かせてくれました。

第22曲「今こそ愉悦の季節」は,合唱に加え,ソプラノ独唱,バリトン独唱,児童合唱も加わる曲で,全曲中いちばん楽しい曲だと思います。カスタネットが合いの手を入れるのも良いですね。曲の語感もどこか日本語的な感じで,童謡を皆で歌っているような雰囲気があります。そして,その後を受けるのが第23曲「とてもいとしいお方」でのソプラノ独唱。短い曲なのですが,美しい高音で第3部を締めてくれました。

そして,美の女神を讃える第24曲「ああ,こよなく美しいものよ」での伸びやかな合唱に続き,第25曲で第1曲が再現。この辺での「戻るぞ,戻るぞ」感はいつ聞いてもゾクゾクします。第25曲では第1曲以上に熱気が加わった演奏で,約1時間の大曲をビシッと締めてくれました。

今回久しぶりにこの曲を実演で聞いて,第1部,第2部,第3部がそれぞれに違った味を持っているのがとても面白いと思いました。辻博之さんの指揮の下,各曲の雰囲気が鮮やかに描き分けられているなぁと思いました。変拍子の多い合唱曲も大変だと思いましたが,各ソリストの曲について,通常の音域を無視したような曲が多く,ソリストたちにとっても難曲揃い(その分,歌い甲斐がある)なのではと思いました。皆様,お疲れ様でした。

終演後のステージ



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