オーケストラ・アンサンブル金沢第462回定期公演フィルハーモニー・シリーズ:ニューイヤーコンサート (2023年1月7日)
Review
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2023年最初の公演は,石川県立音楽堂コンサートホールで行われた,OEKパーマネント・コンダクターの川瀬賢太郎さんの指揮,宮田大さんのチェロ独奏による定期公演ニューイヤーコンサートでした。ベートーヴェンの交響曲第8番がメインというやや地味目のプログラムでしたが,2人の旬のアーティストとOEKが作る,完成度の高い音楽には新年に相応しい瑞々しさがありました。
前半最初の新年最初の曲は,リゲティのルーマニア協奏曲という,私自身実演でもCD録音でも,聞いたことのない作品でした(リゲティは今年が生誕百年とのことです)。これが大変面白い作品でした。リゲティといえば,映画「2001年宇宙の旅」で使われているような,メロディのない前衛的な作品のイメージを持っていたのですが,初期の作品ということで,ハンガリー出身のリゲティの持つ東欧的な感性や民族音楽的な伝統への指向を感じさせる「わかりやすい」作品となっていました。具体的には,エネスコのルーマニア狂詩曲,バルトークのルーマニア民族舞曲集などと同様のローカルな楽しさが溢れる作品でした。
曲は4つの楽章から成っており,大まかに言うと,緩ー急ー緩ー急という構成でした。文字通り緩急自在の音楽でした。
第1楽章は弦楽器のユニゾンで開始。懐かしさとしっとり感を伴った響きが美しかったですね。その後,チェロ,フルート,クラリネット...と色々なパートがソリスティック活躍。この曲の「協奏曲」というタイトルの意図が分かった気がしました。
急速なテンポの第2楽章は上述のとおりの躍動感のある楽章。ピッコロなどが加わると,ますますバルトークという感じになります。キレ味の良さに加え,柔軟性とユーモアも感じられ,後半に演奏された,ベートーヴェンの交響曲第8番にも通じる気分もあるのではと思いました。そして,この部分ではコンサートマスターのアビゲイル・ヤングさんのソロがパワフルでした。今年も絶好調ですね。
第3楽章は,曲の中で,もっともオリジナリティのある楽章でした。ホルンの金星さんがアルプホルンを思わせるメロディを静かに演奏すると,舞台裏からエコーのように別のホルンが応答(上手側のドアが開けられていました)。舞台裏で演奏していたのは,アンジェラ・フィオリーニさんだと演奏後に判明しましたが,この掛け合いは視覚的にも楽しめました。マーラーの交響曲などにも通じる雰囲気もあるなと思いました。
最後の第4楽章は,まず,うごめくような弦楽合奏の響きが面白かったですね。不気味さとのどかさが共存した感じがやはりバルトーク的でした。木管楽器の生き生きとした動きが出てくると,どこか日本の祭り囃子風にも聞こえました。ひたひた迫ってくる弱音とヤングさんのソロの掛け合いもスリリング。そして最後の部分で,第3楽章のホルンの掛け合いが再現された後,大きな間があり,人を食ったような感じで「ジャン!」と終了。
この曲は,楽器編成的にもOEK向きだったので,今後OEKの定番レパトリーに加えていっても良いのではと思いました。
2曲目は宮田大さんのチェロ独奏による,チャイコフスキーのロココ変奏曲。OEKが過去何回も演奏してきた作品ですが,どこを取ってもお見事!という素晴らしい演奏でした。ニュアンスたっぷりだけれども重苦しくなることのない短い序奏に続いて,宮田さんのチェロがくっきりと美しく主題を演奏。柔らかさと前向きな気分とが合わさったような素晴らしい音で主役が鮮やかに登場した感じでした。
その後,色々な変奏が続きます。川瀬さん指揮OEKと宮田さんとが一体になって,鮮やかに各変奏が描き分けられていました。その中で特に印象だったのが,第3変奏アンダンテ・ソステヌートでした。この日のプレトークの時,川瀬さんが語っていたとおり,オペラのアリアのように歌われていました。その誠実な歌い方には宮田さんのキャラクターがそのまま出ていると思いました。
そして,フルートなど木管楽器との絡みが出てくると,今度はチャイコフスキーお得意のバレエ音楽のアダージョのような感じに。OEKと宮田さんによる,たっぷりとした「パ・ド・ドゥ」といったムードは聴き応え十分でした。この変奏の最後の部分では,ゾクゾクするような精緻な超高音を見事に聞かせてくれました。
その後の変奏も大変雄弁。宮田さんのチェロは,すべての音が美しいと思いました。カデンツァ風の部分は情熱的になりましたが,それでも音楽が崩れることはありません。第6変奏アンダンテもまたチャイコフスキーお得意のエレジー風の音楽ですが,この部分でのぐっと沈み込む感じもお見事。最終変奏のアレグロ・ヴィーヴォの部分とのコントラストが鮮やかでした。最後は,OEKと一体となって,力強く,生き生きと駆け抜けていきました。聞きどころ満載の,生き生きとした演奏でした。
その後,宮田さんの独奏で,「ジュリー・オ」という曲がアンコールで演奏されました。ピチカートのみで,ラテン系の曲?という感じで始まった後,重音が出てきたり,楽器を叩いたり...宮田大さんならではの高度な技がふんだんに盛り込まれた楽しい演奏でした。
後半のベートーヴェンの交響曲第8番は,慌てることないテンポで,強弱のメリハリをくっきり付けた演奏。古典的な端正さと,上機嫌で若々しい伸びやかさとが融合しており,川瀬さん+OEKならではの演奏だったと思いました。
第1楽章の冒頭は,鋭くなり過ぎない,大らかな気分。川瀬さんの指揮の動作もふんわりとした感じでした。これをバロック・ティンパニのカラッとした芯のある音が支えていました。常に余裕を感じさせながら,ニュアンスの変化をくっきりと示す音楽作りが素晴らしいと思いました。展開部での,ゴツゴツとした強弱のコントラストを聞かせながら,エネルギーをためていく感じは,いかにもベートーヴェンという感じでした。
第2楽章は軽快に弾むけれども,どこか品の良い落ち着きのある演奏。ここでも強弱やニュアンスの変化が鮮やかで,本当に素直に音楽を楽しんでいるなぁという感じが伝わってきました。第3楽章のメヌエットも慌てず穏やかに開始。トリオの部分では,この日のエキストラだったクラリネットの濱崎由紀さんのよく通る音が特に印象的でした。
第4楽章も速すぎるテンポではなく,その分,クリアでメリハリの効いた音楽を効かせてくれました。ティンパニを中心としたパンチ力のある部分と伸びやかに歌わせる部分の対比が鮮やかでした。ファゴットも活躍する楽章ですが,ティンパニと一体になった軽快な感じが良かったですね。楽章の最後も慌てることなく,力強くバシッと締めてくれました。
この日のプログラムは,やや演奏時間が短かめだったので,その後は「ニューイヤーお年玉」といった感じで,アンコールが2曲。そして,OEK特製どら焼きのプレゼントがありました。
アンコール1曲目は新年風味を加えての,シュトラウス兄弟合作によるピツィカートポルカでした。緩急自在の楽しい演奏で,途中,川瀬さんがけれん味たっぷりに指揮の動作を止めると,全員がストップモーションに。この時の川瀬さんの顔芸(?)もお見事でした。
アンコール2曲目は,「ポルカの後はワルツも聞きたいですね?ただし,本日は予算の関係で(?),チャイコフスキーのワルツ。これも素敵な曲ですよ」ということで,おなじみチャイコフスキーの弦楽セレナードの中のワルツが大変滑らかに演奏されました。「終演後,どら焼きのプレゼントあります」というトークの後でしたので,滑らかなこし餡といった風に聞こえてしまいました。
演奏会の後は,昨年9月以降,恒例になっている,アフターコンサート・トークが行われ,ホルン奏者のお2人が登場しました。
リゲティとベートーヴェンでの裏話,苦労話などを聞けました。リゲティの時はキーを使わずに「昔風」に演奏していたというアンジェラさんのお話。8番の8を横にすると∞になるが,この曲には無限のイメージがあるという金星さんのお話。どちらも面白かったですね。そして,最後に,待ちきれずに川瀬さんも登場。リハーサルを含め,毎回違うアプローチをしているというお話を聞いて,一瞬,「明日の小杉公演にも行ってみたいな」と思いました(実施はしなかったのですが)。
というわけで本年の演奏会通いも本格的にスタートしたいと思います。まず,1~2月は雪が降り過ぎないことを願っています。
PS.
このコンサートですが,石川県では1月22日(日)に北陸朝日放送で放送されます。お楽しみに。
PS2.
この日は音楽堂近くのホテルでは成人の日のイベントを色々を行っていました。成人年齢が18歳になったので,「二十歳のつどい」となっていますね。
PS3.
OEKどら焼きは,帰宅後夕食後にじっくりと味わいました。普通のあんこかと思っていたら…今年は抹茶味でした。
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