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IMA2023スペシャル・フェスティバル・コンサート(2023年8月19日)

2023年8月19日 (土) 18:00~石川県立音楽堂邦楽ホール
第1部
1) イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調, op.27-3「バラード」
2) バッハ,J.S./無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調, BWV.1004~シャコンヌ
3) エネスク/協奏的即興曲
4)サラサーテ/カルメン幻想曲(ピアノ伴奏:三又瑛子)
第2部
5) バッハ/ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調BWV.1041
6) バッハ/ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調BWV.1042
●演奏
原田幸一郎指揮IMAフェスティバル・アンサンブル5-6
MINAMI3-4,5,前田妃奈1-2,6(ヴァイオリン),三又瑛子(ピアノ3-4)

いしかわミュージックアカデミー(IMA)2023スペシャル・フェスティバル・コンサートが石川県立音楽堂邦楽ホールで行われたので聞いてきました。IMAも始まって25年,真夏の金沢の恒例イベントとして定着しました。ただし,2020年以降はコロナ禍の影響を受け,一般向け公演は行っていませんでしたので,受講生以外にとっては,2019年以来4年ぶりの演奏会ということになります。今回は記念事業ということで,昨年度IMA音楽賞を受賞したヴァイオリニスト,MINAMIさんと前田妃奈さんが登場し,独奏曲と協奏曲を楽しませてくれました。2人とも昨年のIMA以降,国際的なコンクールで上位入賞しており,すっかりアーティストとしての貫禄が付いてきた感じです。

第1部はこの2人による「ミニ・リサイタル」のような構成でした。

この日は1階席のみ使用。ステージ真正面のなかなか良い席に座ることができました。

まず,赤のドレスを着た前田妃奈さんが登場し,イザイとバッハの無伴奏曲を演奏しました。イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番は,正攻法で堂々と演奏されました。楽器自体がとてもよく鳴っており,音楽全体に余裕が感じられました。繊細な表現力も素晴らしく,音楽全体が自然なドラマをまとっているようでした。表現の幅がとても広かったので,オーケストラの演奏を聴くような,スケール感を感じました。

次のバッハのシャコンヌでは,さらにスケールの大きな演奏を聴かせてくれました。出だしの部分から,大げさになることはなく,しっかりと引き締まった音楽を聞かせてくれました。私自身,ヴァイオリンの奏法についての知識はないのですが,ヴィブラートを入れたり,入れなかったりすることで,情感が表に出てきたり,虚無的な感じがクローズアップされたり,曲が進むにつれて,徐々に音楽の幅が広がっていくように感じました。特に中間部での静かにしみじみと語るような部分が素晴らしかったですね。「深い」と感じました。変奏曲形式ということで,その後も多彩な音楽が続きますが,大きく音楽が盛り上がった後,再度感動をかみ締めるように優しい表情の歌が出てくると,今度はさらに一段高い世界に上がっていったように感じました。そして最後は,力強く真実味のある音で締めてくれました,

続いて緑色のドレスを着たMINAMIさんが登場し,三又瑛子さんのピアノとの共演で,エネスクとサラサーテの曲を演奏しました。MINAMIさんの音は,もう少しクリーミ―な感じでラテン系の曲にぴったりの気分があると思いました。エネスクの協奏的即興曲を聞くのは初めてでしたが(公演チラシには,パガニーニのカプリースと書かれていましたが,この曲に変更になりました),音楽全体が流れるように息長く続き,艶っぽい音に魅了されました。とても良い曲だと思いました。曲の最後の部分では音楽のテンションが高まりますが,ヒステリックな感じになることなく,あくまでも美しい音楽になっていたのが良いなと思いました。

サラサーテのカルメン幻想曲は,お馴染みの作品。こちらも重苦しい感じになることはなく,多彩な表情を持った音楽が続いていきました。「ハバネラ」の部分では,2種類の音を切り替えて,雄弁で余裕のある音楽を楽しませてくれました。次の部分は,オペラ同様,カルメンが語り歌うような部分。「セギディリア」の部分での凛とした音楽に続いて,最後は「ジプシーの歌」。ギアを一段アップしたように,鮮やかな音楽になりました。次第に熱くテンションが高まっていきましたが,まったく乱れることなくキレの良い安定した音楽を聞かせてくれたのが素晴らしかったですね。ピアノの三又さんの刻むリズムも非常にノリが良いと同時に安定感があり,MINAMIさんと一体となってパワフルな音楽を作っていました。

第2部はバッハのヴァイオリン協奏曲第1番と第2番が,IMA全体のディレクターでもある原田幸一郎さん指揮のIMA卒業生+受講生による弦楽アンサンブルとの共演で演奏されました。「同門によるアンサンブル」ということで,独奏者の2人とのアンサンブルもぴったりでした。

オーケストラといっても,今回はこれ↑ぐらいの人数

今回前半のシャコンヌに続いて協奏曲を2曲を聴いて,現在のバッハ演奏については,現代の楽器で,古楽的な奏法も取り入れて演奏するという形が普通になってきているのだなぁと感じました。ノン・ヴィブラートによるスッキリした感じと,豊かな表情をもった濃い歌の絶妙のバランスを楽しむことができました。

MINAMIさんの演奏した第1番は,キビキビとした軽やかな第1楽章で開始。最初はオーケストラの中に溶け込んでいたのが,パッとソロが浮かびあがり,その後,段々と装飾音も増えて違った表情を見せるといった感じでした。

第2楽章は淡々とした感じの楽章。MINAMIさんの透明感のあるヴァイオリンの音が美しかったですね。オーケストラともども,瑞々しいけれども翳りのある表情が次第に深まっていく感じで,別世界へと連れて行ってくれるようでした。第3楽章は,切れ味良く,速目のテンポで進むダンサブルな音楽。そして楽章の最後の方に,結構長大なカデンツァが入っていて本領発揮という感じになっていました。

第2番では,独奏ヴァイオリンの前田妃奈さんの醸し出す明るいキャラクターがオーケストラ全体にも広がっていく感じが良かったですね。第1楽章は明るく弾むよう。ところどころクレッシェンドするフレーズが出てくるのですが,その変化がとても鮮やかでした。前田さんの演奏には,音楽自体に最初から備わっているような自然な表情の変化があり,生命力が感じられたのが素晴らしいと思いました。

第2楽章はメランコリックな楽章。前田さんのヴァイオリンを中心に,思いがしっかりと詰まった静かな歩みと,暖かみのある深い音が印象的でした。前田さんのヴァイオリンは,熟練のヴァイオリンといった感じでした。

第3楽章は優雅さのある明るい楽章。リトルネッロ形式ということで,前田さんの技巧的なソロをはさんで,最初のトゥッティのメロディが何回も何回も出てくるのですが,その生き生きとした交代を聴くだけで嬉しくなるような,喜びにあふれた演奏でした。前田さんはとても嬉しそうな表情で演奏されていましたが,そのとおりの暖かさの溢れた演奏でした。

最後,MINAMIさんと前田さんのお2人が再度登場して,公演は終了しました。個人的には…最後に「アンコール」として,2人の独奏を交えて,2台のヴァイオリンのための協奏曲の2楽章ぐらいを演奏してもらっても記念事業としては面白かったかも…と密かに思いました。

IMAの方は,今年は25周年ということで,11月4日には,卒業生が結集する特別公演が行われます。IMAスーパーストリング・アンサンブルという,すごい名前ですが,参加者の名前を見ると「確かにそのとおり」というメンバー。聞き逃せない公演ですね。

25周年記念Tシャツを1000円で販売していました。


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