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ガルガンチュア音楽祭2024:オープニングコンサート(2024年4月29日)

ガル祭2024オープニングコンサートでは今年のテーマに合わせて,前半はイギリス,後半はアメリカの音楽中心に演奏されました。ミュージカルやジャズ系の曲も色々と演奏され,今年の音楽祭のダイジェスト的な内容となっていました。会場の反応も素晴らしく,もしかしたらガル祭史上最高に盛り上がった開幕公演だったかもしれません。生の声の力,合唱の力の素晴らしさを実感しました。指揮は広上淳一さんと天沼裕子さんの2人でした。最初の最後が広上さんで,それ以外の大半は天沼さんが指揮されていました。

鼓門前から音楽堂へ
黄色のフラッグに沿って
タペストリー
石川県立音楽堂に到着
入口ではガルちゃんがお出迎え

【OP】オープニングコンサート 石川県立音楽堂コンサートホール
2024年4月29日 13:45 ~ 
1) アルフォード/行進曲「ボギー大佐」
2) 池辺晋一郎/祈り,そして光:能登半島地震犠牲者の鎮魂として(初演)
3) エルガー/行進曲「威風堂々」第1番(一部)
4) 英国民謡/アメージンググレイス
5) レノン=マッカートニー/ヘイ・ジュード
6) ロイド・ウェバー/ミュージカル「オペラ座の怪人」~「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」
7) ホーナー/映画「タイタニック」~「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」
8) バーンスタイン/ミュージカル「キャンディード」序曲
9) ガーシュウィン/歌劇「ポギーとベス」~「サマー・タイム」
10) アンダーソン/ブルー・タンゴ
11) ロジャース/ミュージカル「王様と私」~「シャル・ウィ・ダンス?」
12) シャイマン編曲/映画「天使にラブソングを」~「ヘイル・ホーリー・クイーン」
13) (アンコール)シェーンベルク, C.-M./ミュージカル「レ・ミゼラブル」~「民衆の歌」
14) (アンコール)スーザ/行進曲「星条旗よ永遠なれ」
●演奏
広上 淳一*1-2,12-14, 天沼 裕子*3-11,14指揮オーケストラ・アンサンブル金沢, ガルガン・アンサンブル(コンサートマスタ-:アビゲイル・ヤング)
由水 南*5,11,13,飯田洋輔*6,13,CHIKO*7,9,13(歌)
ロディー・マクドナルド少佐(バグパイプ*4),黒瀬恵(オルガン*6)
ダンスドライブ・ゼロ unit(ダンス*10),VOX OF JOY, 金沢オペラ合唱団(合唱・ゴスペル*12-13)
司会:由水南,飯田洋輔

まず行進曲に合せて,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)とガルガン・アンサンブルのメンバーが入場。このスタイルは1年前と全く同じで,照明が落とされた舞台上で小太鼓の渡邊さんとピッコロの満丸さんが「ボギー大佐」の最初の部分を繰り返し演奏しているうちに,続々とメンバーが手を振りながら客席から入場。最後に指揮者の広上さんが登場し,指揮台に立ってトロンボーン,テューバ方面を向いて一振りすると,力強いメロディ(Bメロと呼べば良いのでしょうか)がバーンと飛び込んで来て全体で演奏。この感じには痺れます。昨年のフチークの「剣士の入場」もこれと同じパターンだったのですが,うまくタイミングが合うものだなぁと感心します。

今年の司会は石川県出身の由水南さんと福井県出身の飯田洋輔さん。ブロードウェイと劇団四季で活躍されていた,北陸出身の二人のミュージカル歌手が歌だけでなく,進行も担当しました。

その後,この日から役職名が音楽堂のExective Music Direcotorになった池辺晋一郎さん作曲による能登半島地震犠牲者のための鎮魂曲「祈り,そして光」が初演されました。曲の最初と最後,鈴の音が印象的に使われていたのですが,これは今回多大な被害を受けた,珠洲市と掛けたとのことでした。この効果は素晴らしく,会場全体が神秘的なムードに包まれました。その後フルートが続き,哀愁に満ちた気分になった後,途中,弦楽器が叫ぶような感じのフレーズを演奏。最後はほんの少し明るくなり,高く持ち上げられた鈴の音で終了。池辺さんの思いが大げさに成り過ぎずに伝わってくる作品であると同時に,音によるドラマを感じました。

この曲の後は「拍手なし」で,続いてエルガー「威風堂々」第1番の中間部が弦楽合奏で演奏される中,バグパイプロディ・マクドナルドさんが客席から登場。ステージ上で由水さんが楽器のことなどについて英語でインタビューした後,アメイジング・グレイスが演奏されました。金沢でバグパイプの音を生で聴く機会は非常に少ないのですが,その音の息の長さは邦楽器の笙や篳篥などに結構似ていると思いました。ちょっと無遠慮な感じはあるけれども,力強く後押しをしてくれる,そんな感じの音だなと思いました。マクドマルドさんは,25年前にも金沢に来たことがあるそうですが,駅前が変わっていて驚いたといったことを語っていました。「少佐」ということで,演奏後の動作などは大変キビキビとしていました。

書き忘れていましたが,「アメイジング・グレイス」からは,指揮者は天沼裕子さんに交代し,その後は,「いわゆるクラシック音楽」以外の曲が続きました。

まず,由水南さんの歌で,ビートルズの「ヘイ・ジュード」が歌われました。アレンジは結構オリジナルに忠実で,最初はピアノ伴奏のみ,その後タンバリンやドラムスが少しずつ加わっていくという展開は,やはり「譲れない」ところがありますね。私自身,リアルタイムでビートルズを知っている世代ではありませんが,聴いていて懐かしくなりました。歌詞の方は「Don’t make it bad…」ということで,応援歌なのだなと改めて思いました。由水さんの歌にはジャズ風のテイストがあり,リラックスした気分で楽しませてくれました。ちなみにこの曲の後半では「Da,da,da,dadadada…」というフレーズが延々と続きますが,オリジナルでもオーケストラがシンプルなフレーズを延々と繰り返すので,オーケストラが演奏するには応しい選曲だと思いました。

続いて,もう一人の司会者の飯田洋輔さんの歌で,ミュージカル「オペラ座の怪人」から「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」が歌われました。このミュージカルについては,序曲で流れるパイプオルガンの音の部分ぐらいしか知らなかったのですが...その期待どおり音楽堂のパイプオルガンの音が鳴り響き(お馴染み黒瀬恵さんが担当),「こうでなくては」と思いました。その後,飯田さんの静かだけれども輝きのある声がホールに染み渡っていました。

由水さんは石川県出身,飯田さんが福井出身ということで,バランス的に「次は富山?」というタイミングで登場したのが,CHIKAさんでした。CHIKAさんは富山を中心に活動している歌手で,お父さんの母国のコンゴ民主共和国に伝わる民謡などをベースとしてアフリカ音楽を中心に活動をされている方です。まず,映画「タイタニック」から「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」が歌われました。曲の最初に出てくるフルート(というか民族楽器の笛でしょうか?)の懐かしさを感じさせるような音の後,CHIKAさんの余裕のある伸びやかな声が続きました。声がしっかりとコントロールされたスケールの大きな歌唱で,「こんなすごいDivaが富山県で活躍していたのか」と感動しました。

その後、オーケストラのみの演奏で、バーンスタイン「キャンディード」序曲が演奏されました。この曲はミュージカルの序曲ですが、今ではすっかりクラシック音楽のレパートリーに入っていますね。4月21日に行われた「市民オーケストラの祭典」で聞いたばかりの曲でしたが、冒頭のティンパニの一撃から各楽器の音がどんどん飛び込んでくる、沸き立つような演奏でしっかりと楽しませてくれました。

天沼さんはバーンスタインの「コレペティトゥア」(この表記には色々あるようですが、ピアノを弾きながらオペラ歌手を指導するような仕事といった意味です)を担当されていたことがあり、その当時(バーンスタインの晩年だと思います)の思い出などが紹介されました。「(明るそうに見えるけれども)結構孤独な人だったかも」と語っていました...インタビュアの方は何ともフォローしにくかったかもしれませんね。

続いて再度、CHIKAさんの歌で、ガーシュインの歌劇「ポーギーとベス」から「サマー・タイム」が歌われました。この曲はソプラノ歌手がクラシカルに歌っても素晴らしい曲ですが、今回はジャズ風に歌われました。CHIKAさんはアドリブなども交えて、余裕たっぷりに歌っており、声の感じからしても、往年の名ジャズ・ヴォーカル、エラ・フィッツジェラルドの歌唱を彷彿とさせてくれました。

その後、ルロイ・アンダーソン「ブルー・タンゴ」が、ダンス・ドライブ・ゼロ unitの皆さんによるスマートなダンス付きで演奏されました。「ブルー」なのに、鮮やかな赤の衣装というのが大胆でしたが、タンゴのイメージにはぴったり。華やかで心地よいステージでした。

演奏会も終盤、ソロの曲の最後は由水さんによるミュージカル「王様と私」から「シャル・ウィ・ダンス?」でした。由水さんはブロードウェイでこのミュージカルを渡辺謙さんと共演したということで、十八番の曲と言えます。語りかけるような親しみやすさと、古き良き華やかさが合わさったような余裕たっぷりの歌でした。

演奏会の最後は、VOX OF JOY金沢オペラ合唱団を加えてのゴスペルで締められました。合唱団のメンバーはここまでずっと出番がなかったので、満を持しての登場という感じでした。歌われた曲は映画「天使でラブソング」から「ヘイル・ホーリー・クィーン」。曲名だけだとピンと来なかったのですが、音楽を聞くと「ああ、この曲か」という曲でした。「オー、マリーアー」と暖かな声で始まった後、パッとテンポが変わり、合唱団が急に立ち上がり、手拍子が始まり...というのはこの映画の雰囲気そのもの。目が覚めるような明るい声が素晴らしかったですね。バシッと揃った振り付けが入ると、音楽がさらに生き生きとした感じになり、会場のムードが一気に明るくなりました。

当然アンコールということで、ミュージカル「レ・ミゼラブル」から「民衆の歌」が全員で演奏されました。合唱団のメンバーが客席の通路にも降り,ホール中が歌に包まれての歌唱...感動しました。地震からの復興に向けての力強い応援になった気がしました。

さらにアンコールがもう1曲。広上さんと天沼さんのどちらが指揮しているのか分からない状態になりましたが、スーザの行進曲「星条旗よ永遠なれ」が賑やかに演奏されました。中間部では広上さんは得意の鍵盤ハーモニカを演奏、天沼さんもピアノで演奏に加わっていました。こういった曲での広上さんの指揮を見ていると、何か往年の山本直純さんと似ているなと感じることがあります。大きな指揮の動作は大変分かりやすく、大人数でもピタリとまとまるなぁと思いました。

PS.開演に先立って,例年通り音楽祭のオープニング・セレモニーが行われ,昨年同様、池辺実行委員長,馳石川県知事,村山金沢市長から挨拶がありました。

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