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いしかわミュージックアカデミー・ライジングスターコンサート2024(2024年8月18日)

2024年8月18日(日)18:00~石川県立音楽堂交流ホール
1) バッハ,J.S./無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番ト短調,BWV.1001 
2) ブラームス/パガニーニの主題による変奏曲, op.35~第2巻
3) イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調, op.27-3「バラード」
4) ヴィエニャフスキ/スケルツォ・タランテラ ト短調, op.16
5) ドヴォルザーク/チェロ協奏曲ロ短調, op.104(ピアノ伴奏版)~第3楽章
6) ヴィエニャフスキ/創作主題による華麗なる変奏曲イ長調, op.15
●演奏
杉谷歩の佳*1,山本遙花*3-4,チェ・ジュハ*6(ヴァイオリン),佐伯涼真(ピアノ*2),島宗楽(チェロ*5)
三又瑛子,加藤麻理,ウンジョン・カン(ピアノ)

毎年お盆が過ぎると,金沢ではいしかわミュージックアカデミー(IMA)のシーズンになります 。恒例のライジングスター・コンサートが行われたので石川県立音楽堂交流ホールで聴いてきました。登場したのは,IMA2023音楽賞を受賞した,杉谷歩の佳さん,山本遙花さん,チェ・ジュハさん (以上ヴァイオリン),佐伯涼真さん(ピアノ),島宗楽 さん(チェロ)の5人の若手アーティストでした。

今回は奏者から5m以内ぐらいの至近距離で鑑賞したので,あまり冷静に聞けなかったのですが,各奏者の音が降ってくる感じ(特にチェロについては目の前に「音がある」といった感じ)で,磨かれた音と技の見事さに圧倒され通しでした。順番に紹介しましょう。

これくらいの至近距離

杉谷歩の佳(ヴァイオリン)
杉谷さんは現在高校2年。今回登場した5人の中でいちばん若い方でした(杉谷さんの「歩の佳」のお名前,どこかで見覚えがあります。思い出せないのですが…)。演奏したのは,バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタの第1番。6曲の中ではいちばん短い曲なので,このライジング・コンサートでも以前聞いたことがあります。

第1楽章から落ち着きのある演奏。浮つかずにしっかり,しっとりと聴かせてくれました。音も素晴らしく,磨かれて選び抜かれた音で弾いているなぁという感じがしました。第2楽章のフーガは,多声部がしっかり描きわけられており,1本のヴァイオリンから多彩な世界が広がる楽しさが伝わってきました。第3楽章は全4楽章中,ちょっと一息付いている感じの楽章。その軽さが良かったですね。第4楽章も大変スムーズ。全くストレスなく,鮮やかで瑞々しい音楽が流れていくのが素晴らしいと思いました。

最初の演奏者とうことで,演奏前は結構緊張しているように見えましたが(客席には講師陣もずらっと並んでいるし…),その緊張感が集中力になっていたのが素晴らしいと思いました。

佐伯涼真(ピアノ)
佐伯さんは5人中,唯一のピアノ奏者。ブラームスのピアノ曲については「渋い」という先入観を持っていたのですが,その音には明るく凜とした感じがあり,とても心地良く楽しめました。「パガニーニ…」という名前に釣られて聴いているせいもあるかもしれませんが,歌心もあるなぁと思いました。全曲を通じて硬質なタッチによるきちんとした佇まいがありましたが,ダイナミックに盛り上がる曲では豪快に音を鳴らし,若さの魅力にあふれた演奏になっていると思いました。

山本遙花(ヴァイオリン)
山本さんは小柄な方だったので,中学生ぐらいに見えてしまったのですが…凄い演奏でした。山本さんが演奏した,イザイのバラードは今回の公演の中で特に印象的でした。音自体に詩的な気分と熱さが漂っているようでした。重音で演奏していたこともあると思うのですが,ただ綺麗というのとは違うお客さんを引き付ける魅力のようなものを感じました。自然な迫力とドラマにあふれた,素晴らしい演奏でした。

山本さんはもう1曲,ヴィエニャフスキの曲も演奏しました。キレ良く,テンションの高い,勢いのある演奏で有無を言わさぬ迫力がありました。中間部でのしっかりとした歌との対比も鮮やかでした。ただし,こういった曲を演奏会などで聴く分には,「そこまで真剣でなくても良いかも」というところはあるかもしれませんね。

島宗楽(チェロ)
島宗さんはこの日の5人の中で唯一のチェロ。上述のとおり,音の出る位置がヴァイオリンよりも低いので,本当に間近で音が鳴っている感じでした。演奏したのはドヴォルザークのチェロ協奏曲の第3楽章。演奏全体に緊迫感はあるけれども音に柔らかさと軽さがあり,重苦しくなり過ぎることなく楽しむことができました。もともとは,オーケストラだけの演奏部分も多い曲なので,ピアノも大活躍でした。終盤オーケストラ版だとコンサートマスターと独奏チェロが重奏のようになり,ヴァイオリンの方が目立ってしまうような部分がありますが,今回のピアノ版だとチェロがしっかりと浮き上がっていて,これが結構新鮮でした。

チェ・ジュハ(ヴァイオリン)
赤のドレスで登場したチェさんは,その音自体が強靱で,押しが強いと思いました。音の発声がしっかりしており,曲の輪郭がとてもくっきりしていると感じました。ヴィエニャフスキの「華麗な変奏曲」の名前に相応しいゴージャスな演奏で,自在な語り口に魅せられました。曲のイメージをぐっと拡大して聴かせてくれる感じの演奏で,「唖然」とさせるような演奏でした。

というわけで,例年どおりの水寿の高い演奏の連続。今回登場した5人の方は,これから色々なコンクールなどで名前を見かけることになるのは必至。これからの成長と活躍を見守りたいと思います。


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