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全国こどもオペラの祭典 モーツァルト オペラ魔笛:いしかわ百万石文化祭2023(2023年10月22日)

2023年10月22日(日)14:00~ 金沢歌劇座
モーツァルト/歌劇「魔笛」(ハイライト,ドイツ語日本語字幕付き)

●キャスト,演奏
指揮・演出:辻博之,石川フィルハーモニー交響楽団,合唱:「魔笛」特別合唱団
ザラストロ:森雅史,タミーノ:糸賀修平,弁者:三戸大久,夜の女王:矢代あすみ,パミーナ:石川公美,侍女1:東園,侍女2:直江学美,侍女3:前澤歌穂,パパゲーナ:鳥木弥生,パパゲーノ:原田勇雅,モノスタトス:近藤洋平,僧侶&武士:古村勇樹,西村朝夫,童子:こどものための創作オペラ劇場児童
ダンサー:Seishiro(振り付け),RUNA, Rin, YUKINA

この日の午後は,石川県立音楽堂で行われた,オーケストラ・アンサンブル金沢も出演する「合唱の祭典」に行くか迷ったのですが...金沢歌劇座で行われたモーツァルトの歌劇「魔笛」 公演の方を観てきました。ハイライト公演
だったのですが,台詞部分をかなり変更していた以外,カットしている曲自体はそれほど多くなく,「ほぼ全曲を観た」という印象を持ちました。

自由席だったこともあり開演前から長蛇の列
いしかわ百万石文化祭2023ののぼりが至る所に出ていました

この公演には「全国こどもオペラの祭典」というタイトルも付いていました。上演のポイントは「こどもが観ても楽しめるオペラ」ということだったと思います。例えば,このオペラを謎めいたものにしている,フリーメーソンの教義に基づく要素をほとんど省略していましたが,そのことにより(正直なところ,大人が見てもよく分らない部分…),いつの時代の誰が観ても楽しめるような内容にリメイクされ,結果として大変完成度の高い仕上がりになっていたと思いました。全体をすっきりさせることで,音楽作品としての「魔笛」の持つ「多くの人を魅了する不思議な力」を改めて感じることができた気がしました。

今回の上演は辻博之さん指揮・演出で,歌の部分はドイツ語(字幕付き),それ以外の台詞は日本語での上演でした。まずこの字幕が大変分りやすかったですね(例えば,最初に登場するタミーノについては「イケメン王子」という字幕)。台詞の方も現代の日常会話的で,コミカルな振り付けも随所に付けられており,ドイツ語上演だったことを忘れるほどの「敷居の低さ」でした。それでいて,上述のとおり「音楽の力」や「人間愛」といった「魔笛」の肝のようなものがしっかり伝わって来ました。大変よく考えられた「ハイライト」でした。

歌手はパミーナの石川公美さん,タミーノの糸賀修平さんをはじめ,楽都音楽祭など石川県内ので演奏会でお馴染みの方々ばかり。皆さんキャラに合った歌を聴かせてくれており,この際,「ガルガン座」とかネーミングを付けても面白いのでは,と思ったりしました。

まず赤い幕が閉まった状態で序曲が開始。私は2階席(B席)で聞いたのですが,ダイレクトに音が飛び込んできて臨場感のある音を楽しむことができました。途中,「魔笛」のトレードマークの「ファンファーレ」が鳴ると幕が上がって,セットが登場。「魔笛」のキーナンバーは「3」ということで,シンメトリカルに構成された幾何学的な秩序を感じさせる舞台を3人のダンサーが動き回っていました。ダンサーが「動くセット」のようになって活躍するというアイデアは他のオペラでも見ることがありますが,ワクワクとさせてくれますね。ちなみに日本語字幕はステージの上方に横書きで表示されていました。2階席からだと特によく見えました。

最初に登場する糸賀さん演じるタミーノは,観る前からぴったりかなと思っていましたが,期待通り,声も姿も端正で素直さのある王子様でした。そこに絡んでくる,東園さん,直江学美さん,前澤歌穂さんによる3人の侍女は迫力の歌。そして押しの強いコメディタッチの演技。オペラの導入の空気を一気に盛り上げてくれました。

続いて登場したのが、原田勇雅さんのパパゲーノ。「魔笛」の登場人物は、誰が主役かわからないぐらい、各キャラクターが活躍しますが、その中でも特にはまっていた(乗っていた)のがパパゲーノだったと思います。緑色の「鳥刺し」の衣装を着て、舞台に登場するたびに何故かスタンドマイクが出てくるのが妙に可笑しく、「人気者」という感じを演出していました。力んだところのない、軽やかな歌声もパパゲーノにぴったりでした。

夜の女王の矢代あすみさんについては,声が少々優しすぎるかなという印象でした。難易度の高いアリアを3人のダンサーが盛り上げていました。ここまでの前半部分は特に丁寧にストーリーやキャラクターを説明しており、初めて見る人にも大変わかりやすかったのではと思いました。

第1幕の中では、(この段階では悪役の)ザラストロに囚われているパミーナとパパゲーノの二重唱が好きな曲です。石川さんと原田さんのお馴染みの2人によるハモリを聴いていると幸せな気分になりますね。

第1幕の後半は、前半も後半も「悪者」という損な(?)役回りの近藤洋平さん演じるモノスタトスも加わってのアンサンブルが続きます。近藤さんは、動きが機敏で、その切れ味の良い歌も一癖ある役柄にぴったりでした。このモノスタトスとパパゲーノがばったり対面する場面で,パパゲーノは一瞬驚くけれども,違いを認める…というちょっとした部分が結構好きです。

そして、この部分では、やはりタミーノが授かった魔法の笛、パパゲーノが授かった魔法の鈴(正確にはグロッケンシュピールでしょうか)の力でピンチを脱出する部分が、素朴だけれどもいつも感動してしまいます。パパゲーノが魔法の鈴を振ると、モノスタトスの手下の奴隷たちが、浮かれて踊り出すという設定。奴隷役の大勢の子供たちが楽しそうに踊る姿を見ると、いつも泣けてきます。モーツァルトの曲のすばらしさを実感すると同時に、いまだに紛争が続く現代世界の現実などと対比して考えてしまいました。

第1幕の最後は弁者が登場して,実は夜の女王が悪で,ザラストロの方が善であるとの説明。この辺から善悪が逆転するのですが,三戸大久さんの落ち着いた声で聞くと,「納得」という感じになります。引き続いて地元の皆さんを中心とした合唱団がステージに登場。堂々とした歌唱をそのまま絵にしたような荘重さを感じさせるシンメトリーの配置でザラストロを讃え,第1幕は終了しました。

第2幕の最初の方は,オリジナルではザラストロなど関係者が集まって,タミーノとパパゲーノの今後の扱いについて検討(?)する儀式のような感じで,この日の公演でもシリアスなムードはありましたが,かなり簡素化されていました。個人的にはこれぐらいの感じでちょうど良いかなと思いました。森雅史さんのザラストロのしみじみとした味わいを中心に,若者に対する温かみを感じさせる場面になっていました。

その後,タミーノとパパゲーノが色々な試練を受ける場になりますが,その前に有名な「夜の女王」のアリアが入ります。個人的には,この曲の前に入っているはずのモノスタトスのアリアも聞きたかったのですが,これがカットされていたのは残念でした。矢代さんの「夜の女王」は孤高の存在というよりは,娘との関係に悩む母親といった感じがしました。この「夜の女王」の有名なアリアの前,子供たちが「複雑なので事情を説明しましょう」と説明をしていたのですが…結構早口だったので,ちょっと聞き取りにくかったかもしれません。ザラストロと夜の女王は夫婦だったという設定ということでしょうか。

それにしても,この夜の女王の超高音とザラストロの超低音の対比というのは面白いですね。やはり落ち着きのある低音の方が説得力があるのかなと思わせるところがありました。

この辺でこれまで全く出番のなかった,パパゲーナ役の鳥木弥生さんが老婆に扮して一瞬登場。「七尾出身」「石川県の方言を話す」というキャラクターを少しずつ披露していく辺り,巧い伏線となっていました。

試練の場面では,沈黙の試練中のタミーノに無視されたと落胆する,パミーナのアリア「愛の喜びは露と消え」が素晴らしかったですね。石川公美さんの声がホールいっぱいに染み渡っていました。

そしてパパゲーノによる有名なアリア「恋人か女房か」。この曲が気持ちよく歌われた後,老婆姿だった鳥木さん演じるパパゲーナが一瞬若い娘の姿になって衝撃的に登場。文字通りショッキング・ピンクの衣装が鮮烈で,さらに期待を高めてくれました。

この試練の部分では,登場人物がスローモーションみたいな感じで動くなど(歌舞伎で言うところの「だんまり」みたいな感じでしょうか),言葉で説明するというよりはモーツァルトの作った「音」で感じさせるという風になっていたのが良いなぁと思いました。このオペラ中,意外なことにタミーノとパミーナが一緒に歌う場面は…ない?…のですが,魔法の笛(フルート)の音が静かに流れる中,2人で試練を乗り越える部分は,不思議な魅力を感じさせてくれます。

そして,終盤の見せ場が,パパゲーノとパパゲーナによる「パ,パ,パ・・・」の二重唱です。パパゲーナを失ったと思ったパパゲーナが自殺しようとするのですが,3人(今回は4人)の童子がちょっと待ったと声を掛け,魔法の鈴を振るという流れ。この部分は,なぜかは良く分らないのですが,何回聞いても感動します。

そしてパパゲーノ役の鳥木さんが満を持してピンクの衣装で登場。パパゲーノの原田さんが緑の衣装で例のスタンドマイクが真ん中に立っていましたので,昭和時代からの夫婦漫才といった趣きでした(ピンクのイメージから,林家ペー&パー子を思い出してしまいました)。その後は,子供たちが続々登場して,さらに雰囲気を盛り上げてくれました。

オペラ全体のエンディングは全員が登場し,シンメトリカルに配置して,オシリスとイリスの神々を讃える合唱。多彩な色合いの衣装を着た,全登場人物がステージ上にぎっしりと詰まっている感じが非常に豪華でした。さらに,最後の方では,全員がミュージカルを思わせる感じの振り付けで手を動かしていました。これが遠くから見ていてとても格好良く,楽しかったですね。改めて,誰もが活躍できるオペラだなと思いました。そして忘れてならないのが石川フィルの演奏。ハイライトとはいえ長丁場のオペラをしっかちと支えていました

カーテンコールに応え,この最後の終結部がアンコールで演奏されるのは,オペラとしては異例でしたが,手拍子も加わってさらに盛り上がりました。多くのお客さんが「魔笛」を楽しんだことを実感できました。

PS.コロナが5類に移行した今年,コロナ禍前,金沢市内で行われていた秋のイベントが戻ってきました。この日は工芸関係のイベントをしいのき緑地で行っていました。特

金沢歌劇座に隣接する金沢21世紀美術館も盛況

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