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石川県立音楽堂リサイタル・シリーズ Vol.3「小曽根真!!!」(2024年7月30日(火)19:00~

2024年7月30日(火)19:00~石川県立音楽堂コンサートホール
1) 小曽根真/Gotta Be Happy
2) 小川晋平/Etudade
3) モシュコフスキー/20の小練習曲, op.91-8
4) 小曽根真/Need To Walk
5) 小曽根真/Listen
6) 壷阪健登/こどもの樹
7) 壷阪健登/With Time
8) ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー
9)(アンコール)チャーリー・パーカー/Au Privave
10)(アンコール)オスカー・レヴァント/Blame It On My Youth
●演奏
小曽根真,壷阪健登*6-10(ピアノ)

石川県立音楽堂リサイタル・シリーズとして行われたジャズピアニストの小曽根真さんのリサイタルを聞いてきました。

ただし,リサイタルといいつつ,後半は若手ジャズ/ピアニスト壷阪健登さんとの共演となり,特にメインのラプソディ・イン・ブルーでは即興的なパフォーマンスの応酬が延々と続く,壮麗と言ってもよい雰囲気のある演奏を楽しむことができました。

前半は小曽根さんのソロ・ステージでした。まず小曽根さんは,意表を突いて客席から登場。プログラムの表紙の色とコーディネートされた,えんじ色の衣装で演奏されました(後半は銀色の衣装でした)。

私の座席は3階席。視覚的には遠かったのですが,とても良く音は聞こえました。

最初に演奏したのは,「ガッタ・ビー・ハッピー(Gotta Be Happy)」。小曽根さんがコロナ禍中に「還暦」を記念して作ったアルバム「Ozone60」にも収録されている作品でした。いきなり,とても分かりやすいメロディで始まった後,だんだんとピリッとスパイスが効いてきて,ジャズっぽくなってくる感じの曲。足でリズムをとったり,ちょっとブルーな雰囲気になりつつ,次第にノリの良いグルーヴ感が高まって行きました。自然な音と表情の動きが気持ち良い作品でした。

その後,ちょっと関西風味のある親しみやすいトークを交えてステージは進行。次の曲は,小川晋平(この方は…ベース奏者だったと思います)さん作曲による「エチュダージ(Etudade)」。練習曲という意味でしょうか。小粋なラテン系の雰囲気の中に少し陰りがある音楽が延々と続くといった感じでした。

次の曲は,どこかロシア風の叙情的な音楽。チャイフスキーやラフマニノフの曲かなと思いながら聴いていたのですが,正解はモシュコフスキーの練習曲集の中の8番でした。小曽根さんが先生についてピアノを習っていた頃,ハノンなどの一般的な練習曲集が嫌いだったので,その代わり薦められたのがモシュコフスキーの練習曲集。こちらは大好きになったとのこと。長年弾きこんできた味わいのある素晴らしい演奏でした。ジャズと一緒に弾いても全く違和感ないのが面白かったですね。この曲も上述の「Ozone60」に収録されているということで…だんだんとこのアルバムが欲しくなってきました。

次に演奏された小曽根さん作曲の「ニード・トゥ・ウォーク(Need To Walk)」も「Ozone60」に入っている曲。粋にスイングしつつもしっかりとした足取りで歩みを進めているような雰囲気があり,60代の小曽根さん(相変わらずとても若々しですが)ならではの味わいがある曲だなと思いました。

前半最後はこちらも「Ozone60」に入っている小曽根さん作曲の「耳を澄ませて(Listen…(for Misuzu)」。すっと耳に馴染む美しいメロディの作品。トークの中で「いつか歌詞を付けたい」と小曽根さんは語っていましたが,現時点では小曽根版「無言歌」といった感じでしょうか。何か小曽根さんのピアノは,ジャズとかクラシックといったジャンルを超えた境地になってきているなぁと感じた前半でした。

というわけで…終演後,サイン会も行われるということで,休憩時間中に例の「Ozone60」を買うことにしました。2枚組(4400円)だったのが想定外でしたが,クラシック音楽と歌心に溢れた曲を組み合わせた作品集は,小曽根さんの現在を味わうにはぴったりのアルバムだと思います。ちなみに「Ozone60」にはもう1つスタンダードナンバーを集めたアルバムもありました。こちらも加えればコンプリート。会場でこれだけCDが次々売れている光景を見たのは初めてかもしれません。「実演販売」の威力ですね。

後半は,若手ピアニストの壷阪健登さんのピアノを加えてのステージ。2人のピアニストが,がっぷり四つに組んでのデュオ・リサイタルでした。小曽根さんは,壷阪さんがトリオの中で演奏をしているのを聴いて,ソロでの演奏を薦め,今年ソロCDもリリースされました。今回のリサイタルには,そ才能に惚れた小曽根さんの「若いピアニストを売り込んでやろう」というプロデューサー的な意図もあったのではと思いました。

まず後半,この壺坂さんの曲が2曲,2台のピアノで演奏されました。小曽根さんが「作曲家としても素晴らしい」と紹介されていたとおり,どちらも瑞々しい美しさや自在さのある作品でした。「こどもの樹」は,青山学院大学の近くにある岡本太郎作の彫刻のタイトル。これにインスパイアされて作った曲です。小曽根さんの曲よりはもっとクールで,クラシックの現代音楽などに通じる切れ味の良さがあるような作品でしたが,小曽根さんのピアノが乱入(?)してくることで,ライブならではのスリリングさや熱気が加わっていました。小曽根さんは,プロコフィエフやショスタコーヴィチを思わせる曲を弾いていた気がしますが,妙にマッチしていました。聴いていて楽しかったですね。

次の「With Time」はもともと弦楽器のために作った曲。一転して印象派の音楽を思わせるような静けさのある音楽。その一方で,一定のリズムで音を刻んでいる感じもあり,その辺が「Time」というタイトルにつながっているのだと思います。この瑞々しい音楽は,クラシック音楽として聴いても楽しめそうと思いました。小曽根さんは「ライブの中で口にすると実現することが多い。OEKが演奏しても良いかも」といったことを語っていましがが,是非実現して欲しいものです。オリジナルの室内楽編成でも良いと思います。

そして最後にガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」が演奏されました。2台のピアノによる演奏といえば…1980年代大人気だったラベック姉妹による,お洒落な雰囲気のある自由闊達な演奏を思い出します。今回の演奏は,粋な感じとヤンチャが感じとが融合したようなエネルギーの大きさを感じました。

どういう楽譜を見て演奏していたのか気になったのですが,「1人がピアノパート,もう1人がオーケストラパート」という分け方ではなく,2人ともピアノパートもオーケストラパートも演奏していました。それぞれに「アドリブの時間」があったので,「なかなか先に進まない(美しいメロディが出てくる第2部になかなか入りそうで入らない感じ)」といったところはありましたが,やはりこの別世界に遊ぶようなアドリブ部分が楽しかったですね。たっぷり歌ったかと思うと粋に弾んだり,「今この瞬間」にしか聞けないラプソディでした。

曲の最後の部分はちょっとラテン音楽を思わせるような躍動感と盛り上がりがありました。2台のピアノで熱く燃え上がる壮麗なエンディングが素晴らしかったですね。一瞬も目を離せない,圧倒的な吸引力を持った演奏を楽しむことができました。

アンコールでは,チャーリー・パーカー作曲の軽快なグルーブ感のあるブルースと,美しいメロディが2人で演奏することで甘さが倍増したようなオスカー・レバント(映画俳優としてもミュージカル映画などに登場していた人ですね)の作品が演奏されました。

アンコール以降はステージ撮影可となり,パイプオルガン方面のカメラに向かっての記念撮影。そして,終演後はサイン会。小曽根さんならではのサービス精神にも触れられた楽しい公演となりました。

「ラプソディ」以外の演奏曲目は当日発表でした。

PS. サイン会は大盛況。実はきっとサイン会があるだろうと予想し,壷阪さんの新譜の方は購入済。後半演奏された2曲も含まれていたので,よい記念になりました。

こうやって並べると,小曽根さんのアルバムと色合いが似ているので,「お揃い」という感じです。壺坂さんの丁寧な筆跡も印象的でした。


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