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オーケストラ・アンサンブル金沢第463回定期公演マイスター・シリーズ(2023年1月28日)

2023年1月28日(土) 14:00~ 石川県立音楽堂 コンサートホール

メニュ/アン・レゾナンス,op.44
ラヴェル/マ・メール・ロワ(バレエ全曲版)
プーランク/シンフォニエッタ
(アンコール)ビゼー/「アルルの女」第1組曲~アダージェット

●演奏
ピエール・デュムソー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)

Review

金沢市内にも雪がしっかりと残る中,ピエール・デュムソーさん指揮によるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演を聞いてきました。石川県立音楽堂に到着するまでに,かなり難儀しましたが(この日は徒歩で45分かけて出かけてきました),その分,ホール内は快適そのもの。デュムソーさんの作る,緻密かつ色彩的で,自信に溢れたフランス音楽を楽しんできました。

同じ時間帯,野村萬斎さんと市川猿之助さんも同じ石川県立音楽堂内で公演を行っていました。

デュムソーさんがOEKを指揮するのは2019年以来,2回目です(前回OEKを指揮された時は,「ドゥモソー」という日本語表記でしたが,「デュムソー」に変わったようです)。OEK芸術監督だったマルク・ミンコフスキさんからの信頼の厚い指揮者で,2018年にミンコフスキ指揮OEKで金沢でも上演されたドビュッシーの歌劇「ペレアスとメリザンド」の時と同様の歌手によってスタジオ録音されたCDでは,デュムソーさんが指揮をしています。前回は,ルーセルのバレエ音楽「蜘蛛の饗宴」などを取り上げましたが,今回もラヴェルとプーランクの作品など,すべてフランス音楽のプログラムによるプログラムでした。

前半最初に演奏された,メニュという作曲家による「アン・レゾナンス」は,2013年に作曲されたメロディのない作品。いわゆる「現代音楽」ですが,曲自体が「音のパレット」になったような感じで,この日客演されていた吉田誠さんの演奏するクラリネットをはじめとしたオーケストラの各楽器の多彩な音とその絶妙のブレンドを楽しめました。

全体的に暖かさと同時に繊細さを感じました。これは石川県立音楽堂コンサートホールの音響の良さにもよると思います。不協和音でも心地よく感じてしまうのは,デュムソーさんの音作りの力なのかもしれません。ホルンやファゴットの音もどこかフランス風,松木さんの演奏するフルートの清々しさも心地よかったですね。曲の最後は,管楽器奏者たちが「スーッ」という感じで息だけを出していましたが,それもまた詩的に感じました。

2曲目はラヴェル「マ・メール・ロワ」。OEKも結構頻繁に演奏している曲ですが,その中でも特に素晴らしい演奏だったと思います。アフタートークで首席第2ヴァイオリン奏者の江原千絵さんが語っていたとおり,デュムソーさんの頭の中にはきっちりと曲の完成形が出来ておりそれをOEKメンバーと一緒になって再現したような完成度の高さを感じました。

そして,この「マ・メール・ロワ」については,組曲版よりも今回演奏されたバレエ全曲版の方がずっと聴きごたえがあることを再認識しました。特に「つなぎ」の音楽に美しい瞬間が多く,約30分別世界に連れ出してくれるようでした。

曲の最初の前奏曲は,フルート2本のハモリで開始。それを受けてホルン2本が遠くから絡んでくる立体感。さらにはピッコロが加わり...この部分での生き生きとした鮮やかさを聞くだけでワクワクとしました。そして,室内オーケストラならではの緻密さも聴き応え十分でした。

その後,6つの場が続きます。第1場「紡ぎ車の踊りと情景」は,軽妙かつ念入りな演奏。淡く柔らかな音色が素晴らしく,メルヘンの気分に満たされました。

第2場「眠れる森の美女のパヴァーヌ」はフルートのしっとりとした音で開始後,色々な楽器に引き継がれていきますが,表現がしっかりと徹底しており,聴き応えがありました。

ここで,バレエ全曲版だと「つなぎ」の音楽が入ります。弦楽器のカタカタといった音(コルレーニョでしょうか)やキューンと音が滑り落ちるよう音。そして,アビゲイル・ヤングさんの見事なソロ。この一連の流れが素晴らしいと思いました。

第3場「美女と野獣の対話」は,クラリネットによるワルツ風の音楽でしっとりと開始。これを受ける「野獣」役が柳浦さん担当のコントラ・ファゴット。この音を聞くと「ラヴェルだな」と思います。どぎつくなり過ぎることなく,ズシッと決めてくれました。最後の方でハープやヴァイオリンによる陶酔的な音楽が続いたのですが,この部分で王子に変身したのでしょうか。生き生きとストーリーが伝わるような演奏でした。

この後にも「つなぎ」の音楽が入った後,第4場「親指小僧」に。意味深な気分を持ったヴァイオリンの弱音に続いて,オーボエのソロ。じっくりと抑制されつつも,十分な熱量を持った音楽が美しいと思いました。この部分の最後では,ヴァイオリン,フルート,クラリネットなどによる鳥の鳴き声が入ります。「メルヘン的な怖さ」が伝わってくる感じでした。

その後の「つなぎ」の音楽ではハープ,チェレスタなどによる「微妙な音」の変化が楽しめました。やはり,バレエ全曲版の方が聞き所満載です。

第5場「パゴダの女王レドロネット」は,フルート,オーボエ,シロフォンなどによるエキゾティックな音楽が演奏された後,「いかにも」という感じで銅鑼が入ります。全体的に浮ついた感じにはならず,美しいファンタジーの気分が出ているなと思いました。

この場の後の「つなぎ」の音楽はホルンやヴァイオリンが活躍する聞き応えのある音楽でした。いちいち,「良いなぁ」と思いながら聞いていました。

そして終曲「妖精の園」に。ここでも抑制された美しさに溢れていました。ヴィオラやイングリッシュホルンなどが明滅する中,ヤングさんのヴァイオリンやフルートなどが浮き上がってきくる美しさ。そして,じわじわと華やかな気分が広がり,最後は堂々とした盛り上がりで終了。花が大きく開いた後,品の良い香りがすっと後に残るような素晴らしいエンディングでした。

この日の”コーヒーショップ”はT・Beans

後半はプーランクシンフォニエッタが演奏されました。これも明るいトーンに満たされた演奏でしたが,ビシッとした自信に溢れており,小交響曲というよりは,普通の「交響曲」と言ってよい聞きごたえがありました。

第1楽章の最初の部分は,くっきり+ピリッとした感じでスタート。大変鮮やかでした。その後はプーランクらしく,色々なモチーフが繰り返し繰り返し湧き出てくる感じでした。これもまた鮮やかで,静かで緻密さのある部分と見事な対比を作っていました。

第2楽章はタランテラ風の音楽。飯尾洋一さん執筆のプログラム解説に「チャイコフスキーの「悲愴」の第3楽章のパロディのよう」と書かれているのを読んで,「確かにそのとおり」と思いました。躍動感と同時に粋でウィットに富んだ気分を感じました。その他にも「これは「白鳥の湖」のあのテーマとそっくりでは?」というフレーズも出てきました。ティンパニも加わってのダイナミックな気分も楽しめました。

第3楽章は,前半の「マ・メール・ロワ」の世界に戻ったような抒情的な気分に。クラリネットの演奏するメロディにはシンプルでストレートな素朴さがありました。聞いているうちにじわじわと体温が上がってくるような,安らかさのある音楽が続きました。ただし,途中,ホルンやトランペットが出てくる部分は,ちょっと不安定な感じ...でした。

第4楽章は,第1楽章に戻ったような感じで生き生きと開始。急速なテンポで上がったり下がったり,止まったり動いたり...という展開はいかにもプーランクらしいですね。生き生きとしたエピソードが次々と湧き上がってきた後,流れるようなメロディが出てきたり,冗談で大笑いするようなフレーズが入ったり...息を付かせぬ楽しさがありました。音楽の雰囲気としては,ガーシュインの「パリのアメリカ人」などと通じるようなムードもあるなと思いました。最後はシンプルにすっきりと終了。これもまた清々しさがありました。

後半の演奏時間はやや短めだったので,何かアンコールがあるかなと予想していたのですが...ビゼーの「アルルの女」組曲の中のアダージェットが演奏されました。演奏後のトークで,江原さんが「デュムソーさんとのリハーサルは至福の時間でした」と語っていたのですが,静かで耽美的なアンサンブルに浸りながら,これはデュムソーさんから弦楽メンバーへのプレゼントなのかもと思いました。改めて考えてみると...今回の公演は,1回の公演で終わらせるのはもったいない気がしました。この「アルルの女」組曲はOEKは2月にも演奏予定なので,絶好のPRにもなっていました。

この日は広上淳一さんがプレトークのみに登場。私もカフェコンチェルトでコーヒーを飲みながら,デュモソーさんとの対談を楽しみました。

途中から会場に入り,2階から眺めてみました

昨年の9月以降,広上さんを中心として「あの手,この手」による盛り上げにより,定期公演の充実度がさらに高まっていることを実感しています。雪かきの疲れをしばし忘れさせてくれる幸せな時間を味わうことのできた定期公演でした。

PS.

この日のアフタートークには,上述の江原さんに加え,ファゴットの金田さんも登場しました。

現在ではオーケストラの楽器として使われることが少なくなったフランス式のファゴット(バソン)の話,デュモソーさんも実はファゴット奏者だったとか(そういえばミンコフスキさんもファゴット奏者でしたね),色々と興味深い話が続きました。

PS2.

この日の金沢は,かなり雪は残っていたものの,昼頃は予想外の好天になりました。音楽堂までの「雪景色を見ながらの散歩」を写真でご紹介しましょう。

まずは浅野川の鈴見橋付近
立派な木が多い静明寺
滝の白糸像にも雪
雪+梅ノ橋も絵になりますね
橋の上にはしっかりと雪が残っていました
梅ノ橋の上流。遠くに見えるのは天神橋
梅ノ橋の下流。遠くに見えるのは浅野川大橋
もてなしドームが見えてきました。
雪が積もるとドームの屋根を見上げたくなりますね。


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