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音楽堂カルチャーナビ2023 Vol.3 Harp & Harp:吉野直子&マリー=ピエール・ラングラメ(2023年9月26日)

2023年9月26日(火)19:00~ 石川県立音楽堂交流ホール
1) レスピーギ(チャループカ編曲)/リュートのための古風な舞曲とアリア~オルランド伯爵,シチリアーナ,ガリアルダ
2) ラモー/鳥のさえずり,未開人,エジプトの女
3) ダマーズ/2台のハープのためのソナチネ
4) バルトーク(チャループカ編曲)/ハンガリーの風景, Sz.97(抜粋)
5) ドビュッシー/アラベスク第1番
6) アルベニス(カンバーン編曲)/スペインの歌, op.232~コルドバ
7) グラナドス(カンバーン編曲)/スペイン舞曲集, op.37~ロンダーリャ・アラゴネーザ(ホタ)
8) レクオーナ(チャループカ編曲)/マラゲーニャ
9) (アンコール)ラヴェル(チャループカ編曲)/組曲「クープランの墓」~リゴドン
●演奏
吉野直子*1,3-9, マリー=ピエール・ラングラメ*1-4,6-9(ハープ)

音楽堂カルチャーナビ2023 Vol.3 Harp & Harpを石川県立音楽堂交流ホールで聴いてきました。9月13日に行われた「Vol.2」では,広上淳一さんとリチャード・ストルツマンさんらによる対談だったのですが,今回は「ほぼ普通のコンサート」。吉野直子さんとベルリン・フィル首席奏者のマリー=ピエール・ラングラメさんとい世界最高峰のハープ奏者2人による演奏を至近距離で聴ける,聴き応え十分のコンサートでした。

カルチャーナビということで,ハープという楽器についての説明があったり,親友であるお2人の交流についてのお話があったり,トークの方も充実していました。終演後は(予想どおり),2人によるサイン会もあり,入場料1000円とは思えない充実ぶりでした。

前半は,レスピーギ作曲のリュートのための古風な舞曲とアリアの中から「オルランド伯爵」「シチリアーナ」「ガリアルダ」の3曲が2台のハープ(前半は下手側が青いドレスを着た吉野さん,上手側がラングラメさん)で演奏されました。2台での演奏でしたが(チャループカという方による編曲),非常に軽やか,かつ明晰で古風な優雅さとモダンな感じが同居しているようでした。何よりハープの音が響くだけで会場の空気が変わるのが素晴らしいと思いました。3曲の中では,特に「シチリアーナ」が良いなと思いました。淡々と音楽が流れる中,ほのかに悲しみが漂うような味わい。2人の繊細なハープの音の室内楽的な絡み合いの美しさも至近距離で体感できました。

吉野さんによる,ハープについての説明があった後(後述します),ラングラメさんの独奏で,ラモーの「鳥のさえずり」「未開人」「エジプトの女」の3曲が演奏されました。元々はチェンバロ用の曲のはずですが,全く違和感なく楽しむことができました。「鳥のさえずり」は,怪しく,ミステリアスなムード。「未開人」からは自在さ,自由さを感じました。「エジプトの女」からは哀愁と繊細さを感じました。チェンバロ同様の繊細さを保ちながら,優雅さと音の膨らみが増しているような感じがしました。

前半最後は,ダマーズの2台のハープのためのソナチネが演奏されました。この日演奏された曲は,ほとんどが編曲作品。独奏曲についても,チェンバロまたはピアノ独奏曲をハープで演奏したものだったので,2台ハープのためのオリジナル曲はこの曲だけでした。ハープの魅力が詰まったような,とても聞き映えのする作品でした。

第1楽章は,曲の最初の部分からメロディがくっきりと流れ,他の曲よりも音楽の動きや曲の作りがダイナミックだなと思いました。その後,別の主題が出てくるとちょっとエキゾティックなムードに。「半音階的な動きはハープは苦手」ということを吉野さんはトークの中で語っていたのですが,そういうことを全く感じさせない優雅さでした(きっと,2人で演奏していることのメリットもあるのだと思います)。

第2楽章はゆっくりとしたテンポで,しっかりとした歩みを感じの音楽でした。ここでも少し不思議な気分を持った,音の絡み合いが面白いと思いました。第3楽章は速めのテンポに戻り,生き生きとしたメリハリの効いた音楽になります。2人の掛け合いが積み重なり,どんどん喜ばしい気分が盛り上がっていくようでした(ただし,曲の最後の部分は「フッ」と終わる感じで少し戸惑いました)。

前半はどちらかというと,優雅な感じの曲が多かったのですが,後半の曲は,スペインやラテン系の曲が多く,より多彩な表現を楽しめた気がしました。ちなみに後半では,お2人の位置が前半とは逆になり,下手側がラングラメさん,上手側が吉野さんでした。

後半最初のバルトーク「ハンガリーの風景」では,「トランシルヴァニアの夕暮れ(曲名を聞き逃したのですが,多分この曲だと思います),「熊踊り」,「ほろ酔い加減」,「豚飼いの踊り」の4曲が抜粋されて演奏されました。この曲では音色の多彩さ,民族音楽的な躍動感を楽しめました。それでいて落ち着きと優雅さがあるのが2人のハープの素晴らしさだと思いました。

最初の「トランシルヴァニアの夕暮れ」は,和風の雰囲気に近いしっとりとした味がありました。こうやって聞くと,ハープは箏にも近いかもと思いました。「熊踊り」は低音のをしっかりと効かせたトレモロ的な奏法が印象的でした。野性味が漂っていたのですが,それでも品の良さがあるのは,やはりハープの特徴かなと思いました。「ほろ酔い加減」では,ハモっているのかいないのか分からないような「奇妙な和音」とリアルにふらふらしているような足取りが面白いと思いました。「豚飼いの踊り」は,いかにも東欧風の舞曲といった感じの半音階的な音の動きと生き生きとしたテンポ感が楽しかったですね。こうやって聞くと,ツィンバロンなどともにた響きもあると思いました。

続いては吉野さんの独奏で,ドビュッシーのアラベスク第1番が演奏されました。もともとはピアノ曲ですが,ハープの音にぴったりの落ち着きのある優雅さとあでやかさに溢れていました。半音階的な音の動きがあるので,演奏するのは実は大変なのだと思いますが,そういうことは全く感じさせない,自然な音の流れが美しい演奏だと思いました。

後半の終盤は,アルベニス,グラナドス,レクオーナといった,スペイン~ラテン系の音楽が続きました。どの曲も激しい熱さというよりは,ほの暗く怪しいエキゾティズムを感じました。

アルベニスの「コルドバ」は,冒頭から微妙な和音と静けさが魅力的でした。段々と音楽が盛り上がり,グリッサンドの応酬による華麗さにつながっていく感じもハープらしいなと思いました。

グラナドスの「アラゴンのロンダーリャ」も,静かなムードで始まった後,段々と音の膨らみが増していく感じでした。2台のハープで演奏することで,音色の多彩さや音のダイナミックさがより広がるのではと思いました。最後の方で,テンポをどんどん上げていく感じもスリリングでした。

最後に演奏されたレクオーナのマラゲーニャも怪しくほの暗い雰囲気で開始。この曲ではギターとハープの親和性を感じました。フラメンコギターを思わせるような気分もあったし,しっかりとメロディを歌わせる感じもギターそのものだと思いました。最後は演奏会の最後らしく,力強く締めてくれました。

アンコールでは,ラヴェルの組曲「クープランの墓」から終曲のリゴードンが演奏されました。この曲も「速いけれども優雅」な演奏で,2台で演奏すると繊細さも2倍になる感じがしました。

この日の会場にはハープ体験コーナーもあり,開演前は休憩時間に気軽にこの楽器に触れることができました(福井の青山ハープさんの多大な協力があったようです)。

これはペダルなしのハープ。弦の上の方にスイッチのようなものがありました。
注目のペダル
赤がド,黒がファです。

2人の名人の演奏を間近に聴いたばかりだったこともあり,ハープという楽器への親近感を一気に増すことのできた演奏会でした。

PS.

上述のとおり,この日は吉野さんとラングラメさんによるトークコーナーもありました。その内容も紹介しましょう。
■ハープについて
前半1曲目の後,吉野さんからハープという楽器の仕組みについての説明がありました。実はよく知らずに聞いていたので,なるほどという話の連続でした。

  • 弦は47本ある。これらはピアノの白鍵にあたり,赤い弦がド,黒い弦がファである。

  • それ以外にペダルが7つある。この7つのペダルがド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シに対応している。ペダルには,上中下の3つのポジションがあり,その位置によって,フラット,ナチュラル,シャープになる。

  • 演奏する時には小指は使わない。

  • 重さは40Kgぐらいあり,右の肩にかけて演奏する。うまく出来ており,それほど重くない etc

やはり気になったのはペダルの操作ですね。半音階を演奏する時など,一体どういう感じでペダルを踏むのか気になりました。ハープの演奏にはかなり複雑な動作が必要なので,実は演奏しながら音楽に陶酔する余裕などないのでは,と思ったりしました。逆に,大変さを感じさせない演奏が,プロなのかもしれませんね。

■吉野さんとラングラメさん

  • 実は同い年で,2人ともイスラエル国際ハープコンクールの優勝者という点も共通している。

  • ただし,初めて会ったのはジャズクラブ。その後,親友になった。

  • 2台のハープでの演奏については,ラングラメさんから提案があった。1台では演奏できないような複雑な音楽が演奏可能になり,レパートリーが広がった(例)今回演奏したバルトークの曲など。

終演後はお2人によるサイン会もありました。この日演奏した曲を沢山含んでいたCDも販売していたので購入し,サインをいただいてきました。

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