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竹多倫子ソプラノ・リサイタル(2023年6月18日)

2023年6月18日(日)14:00~ 金沢市アートホール
第1部 おしゃべりコンサート
1) ディ・カプア/私の太陽
2) 岡野貞一(チルコット編曲)/朧月夜
3) ガーシュイン/歌劇「ポーギーとベス」~「サマー・タイム」
4) ドビュッシー/月の光
5) みんなで歌おう!参加型コーナー
6) メンケン/映画「ヘラクレス」~Go to the Distance
7) プッチーニ/歌劇「蝶々夫人」~「ある晴れた日に」
第2部 オペラ・アリア名曲集
8) ドヴォルザーク/歌劇「ルサルカ」~「月に寄せる歌」
9) レオンカヴァッロ/歌劇「道化師」~「鳥の歌」
10) マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲(ピアノ独奏版)
11) プッチーニ/歌劇「トスカ」~「歌に生き愛に生き」
12) ワーグナー/歌劇「タンホイザー」~「歌の殿堂のアリア」
13) (アンコール)プッチーニ/歌劇「ジャンニ・スキッキ」~「私のお父さん」
14) (アンコール)「あなたへ」
15) (アンコール)ヴェルディ/歌劇「椿姫」~乾杯の歌

●演奏
竹多倫子(ソプラノ*1-3,5-9,11-15),田島睦子(ピアノ)

金沢市出身のソプラノ歌手,竹多倫子さんの”出身地での初ソロ・リサイタル”が行われたので金沢市アートホールで聴いてきました。過去,竹多さんは,楽都音楽祭には何度も出演されており,その実力は周知のとおり。昨年度は,岩城宏之音楽賞も受賞されています。今年の6月末には,聴きたい演奏会が集中しているのですが,「これは聞き逃すわけにはいかない」ということで出かけてきました。

公演の前半はご自身の人生を振り返りながらの「おしゃべりコンサート」でした。

まず最初の曲での登場の仕方に演出がありました。ステージには,まずピアニストの田島睦子さんだけが登場。「オー・ソレ・ミオ」の前奏の演奏が始まる中,袖からゆっくりと登場するのかな?と思っていたら,竹多さんは何と客席の後ろのドアから登場。これは全くの想定外。お客さんのすぐ傍での「生の声」は大変迫力がありました。そして,客席だと場所によって声の通り方が全然違うことも分かりました。結局のところ,ステージ上で歌うのがいちばんよく聞こえるなと思いました。朗々と響き渡る太陽のような声でした。

前半のトークですが,竹多さんと家族とのつながり,竹多さん自身が歌手を目指すようになった経緯などが紹介された後,その時々の思い出の曲が歌われました。

まずはお祖父さんとの思い出の曲「朧月夜」。シンプルで暖かみのある声がしっかりとホールに広がりました。チルコット(この方の名前は合唱の世界ではお馴染みですね)の編曲も大変洒落た感じで,歌曲として歌うのにもぴったりだと思いました。

ガーシュインの「サマー・タイム」は,お母さんとの思い出の曲。お母さんが子守歌のように歌っていたとのことです。竹多さんの豊かな声も,母親役にぴったり。この曲はジャズ・ヴォーカルで聴くことが多いのですが,オペラ的発声法で実演で聴いたのは今回が初めてかもしれません。こちらの方が良いかもと感じました。

その後は田島さんのピアノ独奏で,ドビュッシーの「月の光」。この曲もまた竹多さんの人生に寄り添ってくれている曲で,ご自身でも時々ピアノで演奏されるそうです。田島さんの演奏は,物思いに浸られてくれるような演奏でした。

続いては「みんなで歌おう!参加型コーナー」。プログラムにこう書いてあったので,何を一緒に歌うのかな?と思っていたら...まず最初に発声指導からスタートしました。この指導法が素晴らしい内容で,竹多さんの「皆さんすばらしいですね!」という明るい声につられて,大半の人が席から立ち上がって,結構しっかりと声を出していました(ただし,今回のお客さんの中には結構,声楽関係者も大勢いらっしゃったと思います)。

発声法のポイントとしては,まず(1)お腹の筋肉を使う,(2)脱力する,ということがあります。(1)を改善するには,お相撲さんになったつもりで足を広げて重心をさげるのがよく,(2)については両手を上げて歌ってみると良いとのことでした。そして,さらに(3)割り箸を口に加えて歌ってみましょう,ということでプログラムの中に挟みこまれていた割り箸を加えての歌唱。こうすることで声が明るくなるとのことでした。口がしっかり開くということでしょうか。近年,声を出して歌う機会など無かったのですが,騙されたかのようにいつもより声がよく出ていた気がしました。

その後,この発声練習の成果を試すために,パッヘルベルのカノンの合唱になりました。「カノン」といっても,輪唱をするわけではなく,下手側の座席のお客さんがラの音,上手側のお客さんがレの音を,田島さんのピアノ,竹多さんの指示に合わせて出す(交互に歌った後,最後はハモる)というものでした。非常にシンプルな合唱でしたが,体を使って声を出すことの楽しさを実感できた気がしました。

映画「ヘラクレス」の中の Go the Distance は,高校生の頃,歌手になるのを諦めかけていた竹多さんに勇気を与えてくれた曲。まさにそういう感じの歌であり声でした。この日,お客さんの中に小学生ぐらいの子供もいましたが,この竹多さんの歌を聴いて,後に続く人が出てくるかもなどと思ってしまいました。

前半最後は,プッチーニ「蝶々夫人」の中の「ある晴れた日に」。いつも支えてくれている金沢の人たちへの恩返しの思いを込めた歌とのことでした。竹多さんの声には,高音でも鋭くならない厚みが感じられます。そのことが表現の迫力や幅広さにつながっているなぁとこの定番アリアを聴いて思いました。

後半は「オペラ・アリア名曲集」。ただし,こちらも,おしゃべり好きの竹多さんの解説付きでした。前半よりも,ややおしゃべりは少なめでしたが,時々,水分を補給しながら,しゃべったり,歌ったりという前半と同様のスタイルで,楽しく楽しむことができました。

ドヴォルザークの歌劇「ルサルカ」の中の「月に寄せる歌」は,今年の楽都音楽祭でも歌われた曲ですが,竹多さんの瑞々しい声,すべてを包み込むような安定感のある声がここでも圧倒的でした。不吉な音が入った後(竹多さんの事前の解説どおり),音楽が大きく盛り上がり,ドラマティックになっていくのが素晴らしかったですね。

レオンカバッロの「鳥の歌」は,歌劇「道化師」の中のネッダのアリア。ヴェリズモオペラの傑作ということで,ドラマを熱く語るような迫力に溢れていました。「自由への思い」が伝わってくる歌唱でした。

その後,マスカーニの歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲がピアノ独奏で演奏されました。この間奏曲には,昼寝(シエスタ)の雰囲気があるなと以前から思っていたので,この時間帯(15:00過ぎだったと思います)に聴くには,ぴったりの曲でした。

プッチーニの歌劇「トスカ」の中の「歌に生き,恋に生き」は,瑞々しい気分を残しつつも,しっかりと脂の乗った充実の歌声。情感もしっかりと伝わってくるけれども,感情的になり過ぎることはない安定感抜群の素晴らしい歌でした。

演奏会の最後は,竹多さんの十八番のワーグナーの歌劇「タンホイザー」から「歌の殿堂のアリア」。これまでオーケストラ・アンサンブル金沢との競演でも数回聴いたことがありますが,間近で聴く声の迫力が素晴らしかったですね。まさにプリマドンナの声。喜びに溢れた声で会場全体を幸せな気分にしてくれました。

アンコールは3曲歌われました。1曲目はプッチーニの「私のお父さん」。これは偶然の選曲だったのかもしれませんが,この日は「父の日」。前半の思い出コーナーに,お父さんのことが出てこなかったので,その意味もあったのかもしれませんね。この曲も主役の貫禄を感じさせる歌でした。

2曲目は「あなたへ」という日本語の曲が感謝を込めて歌われました。卒業式に歌っても良いような,「ありがとう」の気分に満ちた曲でした。

最後はヴェルディの歌劇「椿姫」の中の「乾杯の歌」ということで...個人的には竹多さんから声の贈り物をもらった気分。夕食時のビールがうまくなりそうな歌でした(実は聞きながら,「夕食の時にはビールを飲もう」とひらめきました)。

竹多さんの声はどの曲も余裕たっぷり,エネルギーたっぷりでした。表現の幅がとても広い歌唱を聴きながら,金沢でも竹多さんによるオペラ全曲公演を期待したいなと思いました。最後の挨拶の中で竹多さんは,「自分で決めた高い理想に近づくことが夢」といったことを語っていました。これからもその理想に向かう姿を応援して行きたいと思います。

10月に東京文化会館で行われる「ドン・カルロ」公演のチラシが入っていました。
竹多さんはエリザベッタ役で登場。注目の公演ですね。

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