マーラー・シリーズ 沼尻竜典×京都市交響楽団:マーラー交響曲第7番「夜の歌」(2023年8月26日)+金沢⇔京都⇔膳所日帰り旅行記
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滋賀県のびわ湖ホールで沼尻竜典指揮京都市交響楽団(京響)によるマーラーの交響曲7番を聴いてきました。相変わらずの猛暑の中でしたが,金沢だとまず聴けない曲。久しぶりにサンダーバードに乗って,日帰りで聴きに行くことにしました。このホールに行くのは2013年の「ワルキューレ」(沼尻さん指揮神奈川フィル)以来2回目。やはり琵琶湖畔の立地は最高ですね。
マーラーの7番は,彼の交響曲中,最も知名度が低い曲かもしれません。「夜の歌」というタイトルで呼ばれることもあるなどつかみ所のない怪しげなムードがあるのですが,この日の演奏は,この曲ならではの「違和感」を随所に感じさせながら,「まともな交響曲」としてビシッと聴かせてくれました。
この日の公演ですが,まず最初に,沼尻さんによる曲目解説のトークがありました。「マーラーの曲だと当日券販売が多くて」ということで,半分「時間調整」の意味もあったようですが,大変分かりやすく,面白い解説説明でした。ステージは,(前回のように)客席まで張り出す形にはしなかったので,大編成のオーケストラがぎっしりと乗っている感じでした。
第1楽章の冒頭は,低弦の上にテナーホルンが印象的なフレーズを演奏して開始。この楽器の音を聞く機会は少ないのですが,「違和感たっぷり」で,不思議な別世界(ちょっと怖い感じのメルヘンの世界)につながっているように感じました。この辺の音の立体感は,やはり実演ならでは。マーラーの交響曲はやはり生が最高だと思いました。沼尻さんのテンポ感はじっくりと落ち着いた感じで,十分な濃厚さを感じさせつつも,メリハリの効いた音楽を聴かせてくれました。この曲全体を通じてなのですが,オーケストラの中から突き抜けて聞こえてくるトランペットをはじめとした金管楽器の力感が見事でした。沼尻さんと京響は,びわ湖ホールでワーグナーの「リング」の全曲を上演していますが,その「遺産」なのではと思いました。
しばらくすると,第6交響曲の「アルマ(マーラーの奥さん)のテーマ」のようなちょっと甘い感じになるのですが,思いが溢れる感じではなく,バランスの良い音楽になっていると思いました。中間部になると,ヴァイオリンのソロを始め,いくつかの楽器のソロが続き,色彩的でありながら緻密な音楽が続きました。楽章の最後の方は,トロンボーンのソロが出てきたり,行進曲っぽくなったり,マーラーの第3交響曲に通じるような盛り上がり。怪しさを残しつつも,充実のエンディングでした。
打楽器も活躍していたので注目していました。例えば,タンバリン奏者は最後の方では,楽器を2つ使っており,「へぇ」と思って見ていました。こういったことも実演でないと分からないですね。
第2楽章は「夜の歌」とタイトルが付けられた楽章です。ホルン2本による,遠近感のある「コール&レスポンス」で始まった後,ここでも怪しい世界が続きました。時々出てくるコード進行には,第6交響曲と同様,一音変わるだけで「明→暗」に変化する感じで,この楽章でも前作の「余韻」を感じました。途中,弦楽器にコル・レーニョが入ったり,怪しさたっぷりの行進曲。それでも重苦しすぎず,どこかメルヘンの世界のように感じました。
中間部に出てきた,チェロの演奏するメロディも爽やかでした。そして,コロコロコロ...と舞台裏からカウベルの音が...。ハープの音が加わって,オーケストラ全体の空気感が変わったり,実に繊細で味わい深い世界が続きました。
第3楽章は「影のように」という指示が付いているスケルツォ楽章。こちらも何か怪しい魑魅魍魎がうごめいているような音楽。テューバが突然ドスの効いた音を聞かせたり,時折,ドキッとさせるような「違和感」が出てくる感じがこの楽章にもありました。テューバ以外にもコントラ・ファゴットの音が聞こえてきたり,「バルトーク・ピツィカート」と呼ばれる,バチンという感じの強いピチカートが出てきたり(バルトークよりも早く使っているとのこと),生々しい音が多彩に飛び出して来るのが楽しく感じました。マーラーの「工夫の面白さ」に溢れた楽章で,静かだけれどもわくわくとして聞いてしまいました。
その後,オーケストラの楽器のチューニングが入り,一息ついた後,第4楽章と第5楽章が連続的に演奏されました。そうやってみると,第5交響曲とも構成が似ていますね。
第4楽章も,第2楽章同様,「夜の歌」というタイトルが付いていますが,こちらはより親密さのある,居心地の良い音楽になっていました。ヴァイオリンの独奏,ギター,マンドリンなど,「窓の下でのセレナード」用楽器一式が活躍していました。大オーケストラの中でマンドリンやギターの音が聞こえるのだろうか?と聞く前は思っていたのですが,とても良い感じで聞こえていました。逆に言うと,これらの楽器の音が聞こえるようなバランスでまわりの楽器は演奏していたと言えそうです。ただし極端に音量を小さくしているという感じでもなく,ギターやマンドリンの音がオーケストラの中から涼やかかつ親密さをもって,自然に聞こえてきました。この楽章では,通常のオーケストラに入らないこれらの楽器が「違和感」になっていましたが,大変心地よい「違和感」でした。
以上のように,「他の曲には出てこないような独特の音楽」が続いたのですが,個人的には,暗い不気味さよりは,現実離れしたノスタルジーの世界につながっているように感じました。沼尻さんの軽妙さのあるプレトークからもそういうムードを感じました。
そして最後の第5楽章は,ドンドコドンドコ...とティンパニの乱れ打ち(?)で開始。それに続く,トランペットを中心としてファンファーレ風のモチーフは,その後,何回も何回も登場。気分としては,「まつり」の始まりといったところでしょうか。この「まつり」の気分がずっと続くのですが,羽目を外したお祭り騒ぎというよりは,第4楽章までのファンタジーの世界を懐かしむような,総まとめのような音楽になっていたと感じました。
ファンファーレが出てくるたびに,違ったエピソードが出てきて,管楽器がベルアップしたり,トルコ風の鳴り物たっぷりの音楽になったり...次々と違う情景になり,スリリングさもあったのですが,沼尻さんはそれを暖かく見守っている感じ。すべては沼尻さんの手の上で踊っているような安心感を感じました。
最後の方は,第2楽章に出てきたカウベルが再登場。今度はステージ上で賑々しく鳴らしていましたが,うるさい感じはせず,曲全体を締める大きな盛り上がりへとつながっていきました。エンディングの部分も第5交響曲と似ている感じがありましたが,どちらかというと「スター・ウオーズ」などの映画音楽とかなり似ているのではと思いました(逆にこの曲の影響があるともいえそう)。ビシッと締まった,非常に格好良いエンディングでした。
終演後は盛大な拍手が続きました。特にトランペットとホルンの首席奏者への拍手が盛大でした(よくお分かりの常連のお客さんからの拍手という感じ)。全曲を通じて金管楽器は重労働。そして,それを見事にクリアした大活躍だったと思いました。
沼尻さんは,京響とマーラーの交響曲をシリーズで演奏されているようですが,こういう大曲を大らかでありながら,ビシッとまとめるのがとても巧いと思いました。びわ湖ホールまでなら,十分日帰りができるので,是非また来たいと思います(千人の交響曲に期待)。次は敦賀まで北陸新幹線ですね。
PS.金沢⇔京都⇔膳所 日帰り旅行記
コロナ禍中,金沢から関西方面へは全く出かけていなかったので(米原経由で名古屋まで行ったことはありましたが),久しぶりに京都駅まで行って嬉しくなりました。以下,写真を中心とした「金沢⇔京都⇔膳所」の夏の日帰り旅行記です。
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