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反田恭平×務川慧悟2台ピアノコンサートツアー2023金沢公演(2023年1月19日)

2023年1月19日(木)19:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲Op.56b
2) ルトスワフスキ/パガニーニの主題による変奏曲
3) フォーレ/組曲「ドリー」(連弾)
4) ストラヴィンスキー(バビン編曲)/ペトルーシュカからの3楽章(2台ピアノ版)
5) (アンコール)ラヴェル/水の戯れ
6) (アンコール)ショパン/ラルゴ
7) (アンコール)ショパン/英雄ポロネーズ

●演奏
反田恭平*1-4,6-7,務川慧悟*1-5(ピアノ)

Review

反田恭平さん,務川慧悟さんという2人の若手ピアニストによる演奏会が石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので聴いてきました。この公演は「2台ピアノコンサートツァー2023」と題された15回からなる全国ツァーの初日で,会場は大盛況でした。お2人それぞれに,近年,世界的なコンクールで上位入賞を果たしましたが,その素晴らしい技巧と音の饗宴を楽しむことができました。

公演のリーフレットです。有料のパンフレットなどはありませんでした。

まずプログラムが見事でした。演奏された4曲をまとめると交響曲のように感じました。落ち着いたテンポでスケール感たっぷりに演奏されたブラームスのハイドン・バリエーションは,「第1楽章」的な貫禄。切れ味抜群の技巧の競演となったルトスワフスキはスケルツォ風。仲良く連弾したドリーは緩徐楽章風。そして,ダイナミックかつ多彩な音色のペトルーシュカの最終楽章でぐっと盛り上がって終了,といったまとまりの良さを感じました。

最初に演奏されたブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」は,最初の「主題」をはじめ,全曲を通じて大変落ち着きのある演奏になっていました。繰り返しもすべて行っていた(と思う)ので,非常にスケールの大きな音楽を聞いた実感が残りました。

主題の提示の後も慌てる部分はなく,ダイナミックに盛り上がったり,優美に聞かせたり,各変奏がじっくりと描き分けられていました。この曲は管弦楽版の方がよく知られていますが,もともとは2台のピアノ版として作曲されたものです。この版を実演で聞くの初めてだったのですが,反田さんと務川さんによる演奏は大変こなれた演奏だったので,本来の姿を実感できたなぁと思いました。終曲での威厳たっぷりで,2人がガッチリと組み合った演奏を聴いて,交響曲を聴いたような後味が残りました。

2曲目には,ルトスワフスキの「パガニーニの主題による変奏曲」が演奏されました。このパガニーニの「主題(ヴァイオリン独奏のためのカプリースの第24番のメロディ)」については,多くの作曲家が変奏曲を作っていますが,その中でも特にスリリングな曲であり,演奏だと感じました。

この日は曲ごとに第1ピアノ(下手側)と第2ピアノ(上手側)を交替していました。この曲の時は反田さんが第1ピアノ,務川さんが第2ピアノでした(ちなみに1曲目のハイドン・ヴァリエーションでは,務川さんが第1ピアノ,反田さんが第2ピアノでした)。「2台のピアノ」による演奏だと,どちらかが高音,どちらかが低音という感じではなく,ビシッとそろえたり,対等にやり合ったり,ソリスト2人の間でのコンタクトの面白さを実感できました。

曲の最初の部分から,ブラームスの時とは全く違う音色で,クリアで強靱な音に圧倒されました。2人の音が飛び交う中で音楽が盛り上がっていくグルーブ感もすごいと思いました。どこかジャズピアノを思わせる自在さもありました。個人技も冴えており,特に務川さのピアノのクリスタルのような感じのタッチが素晴らしいと思いました。この日のプログラムの中でも特に鮮やかでダイナミックな演奏となっていました。

後半の最初は,フォーレの組曲「ドリー」が連弾で演奏されました。この演奏では,高音部を反田さん,低音部を務川さんが担当していました(プログラムには,第1ピアノ:務川さん,第2ピアノ:反田さんという記述。一見,「逆かな?」という感じがしましたが,詳細はよく分かりません。)。

この曲は技術的には,この日演奏された曲の中ではいちばん平易な曲で,さらりと美しく演奏されていました。そして,2台ピアノの場合とは違って,音楽全体に親密さが漂っていました。フォーレが自分の子供のために,毎年1曲ずつ書いていった組曲で,曲全体のベースにアットホームなムードがありましたが,ユーモラスな気分になったり,ファンタジー溢れる気分になったり,少しミステリアスになったり,曲ごとに別の世界が広がっていきました。

特に面白かったのは,終曲の「スペイン踊り」でした。明るい陽光の下,楽しいリゾート気分が沸き上がってくるような音楽で,二人のピアノからは色彩感が湧き出ていました。

最後に演奏された,ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの3楽章」 は通常は独奏で演奏される曲ですが,この日はヴィクター・バビン編曲の2台ピアノ版で演奏されました(この曲では第1ピアノが反田さん,第2ピアノが務川さんでした)。

第1楽章の冒頭から,原曲の持つ機敏さを残したまま,音の厚みが加わった感じで,躍動感とファンタジーの溢れる音楽となっていました。この部分でも務川さんのキラッと光るような音が美しいなと思いました。第2楽章は,起伏のある音楽で,静謐な雰囲気から強靱な音まで,音楽のダイナミックレンジが広いと思いました。

第3楽章はたっぷりとしたメロディが立体的に重なりあい,聴き応えのある音楽が続きました。反田さんの方がリズムを支えている感じで(多分),オリジナルのバレエ版「ペトルーシュカ」を思わせる躍動感がありました。楽章の後半での,重みがあるけれども,心地よく弾む感じが素晴らしいと思いました。

全曲を通じて,ピアノ独奏版よりもダイナミックレンジが4倍ぐらいに(適当に書いていますが)なった感じで,音色の豊かさについても,オーケストラを聴くような多彩さを感じました

4曲の演奏が終わった後は,2人によるカジュアルな語り口のトークとなりました。反田さんは,ここ数年,テレビの音楽番組に頻繁に出演されていますが,こういった「切り替え」ができるのも,その経験が生かされているのではと思いました。お二人とも,キャリアの最初の頃に石川県で演奏会を行ったことがあると語っていました。反田さんが最初のリサイタルを能登で行ったというのは意外でしたし,務川さんについては,石川県で演奏するのは,何と小学校2年生の時以来とのことでした。

その後,お二人の独奏でアンコールが演奏されました。演奏順をジャンケンで決めていましたが,これもまた大胆でした。

まず務川さんが,ラヴェルの「水の戯れ」を演奏しました。速めのテンポによる非常に鮮やかな演奏。玉を転がすような(水滴が飛び散るようなといった方が良いでしょうか)怜悧な音の連なりが素晴らしく,務川さんの最新CDのラヴェルのピアノ曲全集の絶好のデモンストレーションになっていました。

反田さんの方は,ショパンのラルゴと英雄ポロネーズをセットで演奏しました。この組み合わせは,2021年のショパン・コンクールの時と同じで,反田さんならではのスペシャルな構成ですね。祈りの音楽のようなラルゴがポロネーズへの序奏のようになっており,曲の「格」が一段アップしたように感じました。荒っぽいポロネーズではなく,静かに始まった後,段々と力強さと自信を増していく構成感が素晴らしいと思いました。

アンコールの演奏後,お客さんは大喜びで,金沢では珍しいぐらい大勢のお客さんがスタンディングオベーションをしていました。そもそも,この日の客層は,オーケストラ・アンサンブル金沢の定期公演の時とは違っており,幅広い年齢層の女性客が非常に多かった印象です。公演の紙のチラシも全く見かけなかった点でも独特だったと思います。

その後は「CDお買い上げの方向けサイン会(この日,お2人による新譜がリリースされたとのことです)」が行われました。コロナ禍後,どの公演でもサイン会は行われていなかったので,久しぶりに参加したいと思ったのですが...何と財布を忘れてきてしまい無念の断念。こちらも大盛況だったようです。次回は反田さんと務川さんのソロ・リサイタル×2+デュオといった構成でも面白いかもと思いました。

CDや書籍の販売コーナーも盛況でした。

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