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企画展「川瀬巴水:旅と郷愁の風景」(石川県立美術館,2023年9月16日)

先日9月16日,石川県立美術館で企画展「川瀬巴水:旅と郷愁の風景」を観てきました。大正から昭和にかけて活躍した木版画家・川瀬巴水1883~1957)の作品約180点を展示した展覧会で,全国を巡回しているものです。

川瀬巴水の版画作品については,日曜美術館などでその完成された美しさに触れ,数年前から注目をしていたので,今回は楽しみに観てきました。巴水の版画は,版元の渡邊庄三郎や彫師,摺師といった職人と一体になって作られた、「新版画」と呼ばれるもので,巴水の個性だけで作られているというよりは,これらの職人集団の協業といったところがあります。そのことにより,ひとりよがりにならない,一種,普遍性を持った作品になっていると思いました。

会場の中で数か所、撮影可能スポットがありました。

その一方で,巴水ならではのハッとさせるような色使いがあり,そのことが,平凡そうだけれども新鮮味を失わない「巴水らしさ」として愛されているのではと思います。特に印象的なのは,色の鮮やかさだと思います。版画化する過程で必然的に色使いはシンプル化されます。しかし,そこには青や緑のグラデーションがあったり,朝焼けや夕焼けのグラデーションがあったり,どの作品も単純さだけではなく繊細さと鮮明さのバランスの取れた作品になっています。その辺がすごいと思います。

例えば,江戸時代までの版画の題材として、月がよく登場していましたが、巴水作品には,伝統的な素材だけでなく,明治以降の文明を象徴するような電灯の光なども、リアルに表現されているのも印象的です。コントラストがくっきりとした作品が多いのも,万人受けする理由だと思います。

題材は,巴水が実際に全国各地を旅して,スケッチを行ったものがベースになっています。その点では広重の東海道五十三次などの伝統を継承しているのですが,スケッチが非常に正確なので,現代の日本の景色につながる原風景を描いているように感じられます。その作品には、特にメッセージ性はないので、かえって「郷愁」や「旅情」のようなものが際立つのではと思います。

巴水の目(フィルター)を通して、木版画化された日本の風景の数々、ということで、さすがに180点もあると、「同じような作品が続いている」印象はあり、展覧会として観るよりは、もう少し単位で日常的に眺めるような形(コレクターが自宅で鑑賞ということなのかもしれません)が本来の鑑賞法なのかなという気もしました。というわけで、展覧会を観終わった後は、私自身の目もすっかり「巴水化」してしまいました。美術館を出た後の空や緑を見ただけで、「巴水フィルター」を掛けてみているような気分になってしまいました。

展覧会のお楽しみということで、グッズを色々販売していました。今回は絵葉書とブックカバー(紙製ですが)を購入。絵葉書の方は、巴水が金沢市の下本多町を描いた作品。このモデルとなった場所を見つけられないかなと思っています。

ブックカバーの方は、展覧会チケットと同じデザインのものを購入。カバーと栞のお揃いとして使えそうです。

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