ガルガンチュア音楽祭2024:本公演3日目(2024年5月5日)
ガル祭2024最終日も快晴。この日は正午の少し前に石川県立音楽堂に到着したのですが...すでに音楽堂前広場には大勢のお客さんが集まっていました。コンサートホールに向かうため,ホール外側のらせん階段を上っている途中で,ゴスペルのラニー・ラッカーさんの「ハレルヤ!」の一声が飛び込んできました。その言葉どおり3日ともハレルヤ(快晴)でしたね。
朝から既に大盛りががりの空気の中,まず【C31】「大阪フィルで聴くスター・ウォーズ」公演を聴いてきました。3管編成の大阪フィルの量感のあるサウンドに包まれました。
最初は「ディズニー・シンフォニック・パレード」。お馴染みのジッパディドゥーダの後,スキップしたくなるような曲が続々登場。板倉康明さんの指揮の動作は大きく明快。1曲目から力強く骨のあるサウンドを楽しむことができました。その後,静かな曲になったり,スケルツォ的な曲になったりといことで,プログラム全体をまとめて,一つの交響曲になっているような感じもしました。
「アラジン」の「ア・ホール・ニュー・ワールド」は,ピアノをベースとした静かなアンダンテ楽章。コンサートマスターの須山暢大さんのヴァイオリン・ソロをフィーチャーしての「シンドラーのリスト」のメインテーマはアダージョ楽章といった感じでした。この曲は,「映像のみでは伝えられない部分を音楽が伝える」例として演奏されましたが,まさにそういった演奏。静かに訴えかけてくる演奏でした(余談ですが...この曲のイングリッシュホルンによるイントロを聴くと,一瞬,都はるみの「北の宿から」のイントロと重なってしまうのですが...私だけでしょうか)。
「ハリー・ポッターと賢者の石」の「ヘドウィグのテーマ」は,スケルツォ楽章的。チェレスタが入ると一気に「不思議系」の音楽になりますね。波打つような弦楽器の音など,ジョン・ウィリアムズのオーケスレーションの妙を味わえる曲だと思いました。
その間にお馴染み「インディ・ジョーンズ」シリーズでお馴染みの「レイダース・マーチ」。トランペットが活躍する曲で,繰り返し冒頭の軽快なテーマが演奏されますが,段々と力を増していき,大きく盛り上がって行くのが楽しいですね。
演奏会の最後は「スター・ウォーズ」のメインタイトルではなく「王座の間とエンドタイトル」でお開きでした。個人的には,せっかくの機会だったので,超有名曲である「メイン・タイトル」も聴いて見たかったのですが,エンドタイトルの方は,映画全体を振りかえるダイジェスト版のような部分もあるので,やはり最後には相応しい曲だと思いました。「王座の間」の音楽は,シリーズ第1作の冒険活劇で活躍したメンバーがレイア姫から表彰されるような場で流れる音楽ということで...個人的にはチューバッカの顔が浮かんできます。全般にオリジナル・サウンド・トラック盤の演奏よりも少しテンポが遅い感じがしたので,「もう少し速い方が良いかな」と思ったのですが,その分大変豪快な演奏。曲の締めの部分のティンパニの連打も爽快でした。
公演時間的にはやや短く,「少々盛りが足りなかったかな」とという印象もあったのですが(「帝国のマーチ」あたりをアンコールで期待していました),上述のとおり大編成の交響曲を聴いたようなまとまりの良さを感じました。何よりも金管楽器の皆様,お疲れ様でした。
少々盛りの足りなかった分は,音楽堂前で売っていた魯肉飯。さらには一度食べてみたかった「能登ミルク」で補いました。
もてなしドーム地下広場でコマニーブラスバンド部ブルーリアンの演奏を聴きながら昼食を取りました。ブラスバンドというよりはビッグバンド風の演奏でサックス各種のソロなども盛り込んだ洋楽の名曲中心。音楽祭のイメージにぴったりのステージでした。
その後,この日も買い物をしてみました。
輪島の「黒作り」を売っていたのでついつい購入。これは音楽祭後の楽しみとして,日本酒と一緒に食べてみたいと思います。ただし...「これは冷蔵しておいたほうが良いかも?」と思い,一旦自宅に戻り,一休みしました。
最終日の夜の部も濃厚・緊密&大いに盛り上がりました。音楽堂前に到着すると,店舗などは片付けを始めていました。太陽も傾く中,音楽祭の大詰めがじわじわと迫っていました。
この独特のムードに包まれて,大西順子トリオによる純正ジャズ公演【H34】を邦楽ホールで聴いてきました。
個人的に今回,いちばん聴きたかった公演でした。実はジャズのピアノ・トリオを生で聴くのは初めてだったのですが,これほど緊密で変化に富んだ,充実感に溢れた世界だとは思いませんでした。
これは大西トリオの素晴らしさだと思うのですが,3人それぞれが自在に振る舞っていながら,熱気を帯びつつ,1つの構築物のような実体を帯びてまとまっていく感じが素晴らしいと思いました。演奏された曲はアンコールを含めて6曲で,曲名がよく分からない曲もあったのですが,呆然と大西さんの世界に浸った忘れられない,約1時間になりました。
今回,インストルメンタルだけのジャズの演奏を聴いて感じたのは,クラシック音楽との境界線はほとんどないのでは(意識する必要はないのでは)と思いました。ジャズの曲にも大きなフレームや決まり事があり,その中で繰り返しと変奏・展開が自在に行われて行きます。ベースとなるリズムの上で,3人の音がまとまったり,響きがバラバラに拡散したり...その成り行き即興的で読めないのですが,テーマを展開していく点で,クラシック音楽の世界のソナタ形式や変奏曲に通じるものがあると感じました(各楽器ともマイクを使って拡声していた点はクラシック音楽と違う点ですが,うるさい感じは全くしませんでした)。ハーモニーの方も予定調和的でないのですが,その点では「現代音楽(20世紀以降の音楽)」に通じるものがあると思いました。今回の大西トリオの演奏でも,ポップス的な「美しいメロディ」というのはほぼない点で現代音楽的で,弾むリズムの上で大西さんのピアノがパワフルかつ緻密に展開していく感じでした。
文字ではなく音の力だけで,一定のムードを表現し,空間を満たしている点で,「音楽的だなぁ」と思いました。
この「正真正銘ジャズ」といった雰囲気にもう少しとどまっていたいな気分をも残しつつ最終公演【C34】の「シアターミュージック版紅白歌合戦」へ。ジャズも良いけれども,ガル祭りの「締め」では,やはりオーケストラの音を聴きたいなと思います。
ここ数年、この音楽祭では色々な趣向で「紅白歌合戦」公演を行っていますが,今年は「異分野融合」ということで,今年の音楽祭を盛り上げてくれた色々なジャンルの歌手が,沼尻竜典さん,天沼裕子さん指揮のOEK+ガルガンアンサンブルと共演するというステージでした。ミュージカルの名曲を中心に熱い歌の連続で,多様な生声が,連続する楽しさを会場のお客さん皆さんが堪能していたと思いました。
本家紅白歌合戦同様,紅組キャプテン(石川公美さん),白組キャプテン(門田宇さん),総合司会(木村綾子さん)の進行で進んで行きました。全体の雰囲気が年々こなれた感じになってきており,地元の歌手たちが「エンターテイナー」になってきているのが素晴らしいと思います。これだけの入場者数を集めるようになったガル祭の最終公演が,地元のオーケストラとアーティストを中心とした歌の祭典になり,大いに盛り上がるというのが,何より嬉しいですね。年々地元の常連アーティストそれぞれのキャラが立って来て,知名度も高まっていく正のスパイラルになっているのは,毎年音楽祭を継続していることのいちばんの成果なのではと思います。
歌われた曲はミュージカルの名曲揃い。最初は可憐なコロラトゥーラを聴かせてくれた鶫さん。一気に気分が盛り上がりました。続いて司会の門田さんの紹介どおり「見た目もイケケン,声もイケメン」だった森さんの「魅惑の宵」。深~い声で鶫さんと好対照でした。
「ウェストサイド物語」から「トゥナイト」は,秋本さんと近藤さんのデュオ。特に近藤さんの優しい声はミュージカルにぴったりだと思いました。そして,「美女と野獣」の「愛せぬならば」を歌った栗原さん。その輝きのある声とドラマティックな表現は,今回の歌手の中でいちばん印象に残りました。
その後は一旦,「合戦」は中断し,今回の音楽祭のテーマの一つでもあった「能登半島地震被災者支援」の意味も込めて,祈りの歌「アヴェ・ヴェルム・コルプス」が歌われました。オペラ歌手たち男女9名による,心に染みる歌でした。その後,連続して「椿姫」の「乾杯の歌」。前澤さんと熊田さんの出番はこのコーナーだけだったのですが,歌手たちが次々1フレーズずつ歌い継いでいく贅沢なステージでした。
「アラジン」から「ア・ホール・ニュー・ワールド」は,石川さん,門田さんの司会者のお二人による歌。2人の親しみやすいキャラクターが声になって表れていました。そして,さすがとしか言いようのない中嶋さんの「キャッツ」から「メモリー」。細やかな情感豊かな歌でした。
「オペラ座の怪人」から同名の曲では,飯田さんとCHIKAさんのデュオ。特に飯田さんの声が圧倒的でした。「ウェストサイド物語」から「マリア」はこのミュージカル中でももっともクラシカルな曲で,往年の「三大テノール」も歌っていたりします。伊藤さんのハイトーンは素晴らしく,ホール内の空気がピンと震えるようでした。そしてトリは,金沢出身の由水さんによる,「マイ・フェア・レディ」から「踊り明かそう」。スピード感のある歌で,全体を締めてくれました。
その後,会場の拍手(1票)+10人の会場審査員の審査(紅・白のうちわで表明)で勝敗が決められました。会場の拍手では「白優勢」で,私も「白かな」と思ったのですが,審査員の判断は拮抗しており,結果として1票差で紅の勝利となりました。会場の拍手と違った結果になったので,少々「エッ?」という空気もありましたが,大いに盛り上がった最終公演となりました。
そして,その後さらに会場を盛り上げるアンコールが続きました。「ジーザス・クライスト=スーパースター」の「スーパースター」が飯田洋輔さんのリードで出演者全員で歌われました。ラップのような感じで畳みかけて歌う部分が多い曲ですが,この飯田さんの声がパワフル。本職と言えば本職ですが,お見事!という歌でした。途中,バックコーラス的に女声の合いの手が入ります。この透明な感じとの対比も良いなぁと思いました。最後の部分では,トロンボーンの皆さんも立ち上がっていましたね。祭りの最後に相応しい熱い声で会場全体が熱く盛り上がりました。
それにしても,ナイスな選曲でした。曲が終わった後,1階席の前方のお客さんは皆立ち上がっていました。多分野融合「ガル祭 」に相応しいエンディングになりました。
本公演は3日間とも好天に恵まれたこともあり,過去最高の12万人が入場。大盛況の音楽祭となりました。出演者の皆様,関係者の皆様,本当にありがとうございました。
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