オーケストラ・アンサンブル金沢 富山特別公演 with 合唱団OEKとやま(2023年8月20日)
夏休みも後半,この時期恒例のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)富山特別公演が富山市のオーバードホールで行われたので聴いて来ました。
指揮はこの公演の常連,山下一史さんでした。この公演では,毎年,合唱団OEKとやまとの共演で,「めったに聴けないような,こだわりの合唱曲」をメインに取り上げることになっていますが,今年は英国の作曲家ラターの作品と現代日本の作曲家,木下牧子さんの作品が取り上げられました。特に今回は,後半,木下さんの合唱+管弦楽のための作品が2曲演奏されたのが目玉となっていました。
木下さんは合唱業界(?)では「神様」と呼ばれているほどの人気作曲家ですが,今回,そのオーケストレーションの素晴らしさも実感できました。この日は木下さん自身もゲストとして会場に来られておりトークの中で「厚いオーケストラの音が大好き」とおっしゃっていました。そのとおり,管弦楽と合唱が一体となった,充実感のある音楽を楽しむことができました。
前半は英国音楽が2曲演奏されました。最初に演奏された,エルガーの弦楽セレナードは,7月のOEKの定期公演で聴いたばかりの作品。この時のカーチュン・ウォンさん指揮による,一部の隙もないようなクールで濃厚な演奏も凄かったのですが,今回の山下さん指揮による,さらっと自然に流れるような演奏も良いなと思いました。抒情的で控えめな感じが美しく,英国の普通の田園風景の素朴な美しさのようなものを感じました。
続くラターの「タイムの小枝」は,ブリテン諸国の民謡を集めた11曲からなる合唱曲集。どの曲を聴いても「イギリスだなぁ」という空気感があったのですが,曲ごとに活躍する楽器が違っており,変化に富んだ魅力的な曲集となっていました。
この曲には,弦楽合奏に加え,ハープと木管楽器4人が加わっていたのですが,これらの楽器が大活躍でした。特に3月にOEKを退団して現在は東京都交響楽団に移籍した,松木さやさんのフルートを久しぶりに聴けたのが嬉しかったですね(ちなみにこの日のゲストコンサートマスターも東京都交響楽団の山本友重さんでした)。
第1曲「豪胆なる擲弾兵」の最初の部分から,この松木さんの生気のあるフルートが登場し,一気に英国気分に。ハープと一緒に演奏していたので,「グリーンスリーブスによる幻想曲」などを思い出してしまいました。第2曲「漕げよ平船」は,木管楽器が合いの手を入れるような楽しい曲。紅茶のCMなどに使っても良いかもと思いながら聴いていました。第3曲は「柳の木」。哀愁を帯びた男声合唱による歌で,昔から伝わる悲しい物語を聴いているような趣きがありました。
第4曲「タイムの小枝」は,弦楽器中心の曲で,朝夕のひんやりとした空気感のようなものを感じました。第5曲「柳の庭を通って」は,木藤さんのクラリネットで開始。この曲はどこかで聞いたことがあったので後で調べてみると,「サリーガーデン」というタイトルのCDを持っていました。ちょっと懐かしく哀しくなるような愛唱歌ですね。第6曲「カッコー」はハープの伴奏,第7曲「行き先を知っている」は,橋爪さんのオーボエから開始。オーケストラの楽器の使い方も変化があったのですが,合唱の方も男声合唱のみになったり,女声合唱のみになったり変化がありました。
第8曲「柳の歌」は,アカペラによる歌。少し寂し気な表情が曲集の中のアクセントになっていました。第9曲「ねぇクッション縫える」は脱力して聴けるような曲。英国風の子守歌といった感じでした。第10曲「ディーの粉屋」は,金田さんのファゴットなどをはじめとした木管楽器が活躍。男声合唱によるコミカルな雰囲気を盛り上げていました。最後の第11曲「アフトン川の水」は,弦楽器とハープの響きが,美しい川の流れのようでした。
全曲を通じて大きく盛り上がる感じの曲ではなかったのですが,「連日の猛暑」を忘れされてくれるような爽快な音楽を楽しむことができました。
後半は,木下牧子さんの作品が2曲演奏されました。「邪宗門秘曲」は,北原白秋の詩に木下さんが音楽を付けたものです。当初はピアノ伴奏の曲だったのですが,この日演奏されたのは,木下さん自身がオーケストラ用に編曲したものでした。このオーケストラの濃厚な響きが素晴らしかったですね。曲の最初,コントラバスの音の上にムーといった声が入って始まったのですが,この部分から曲の持つ独特の世界に引き込まれました。前半のラターの爽やかさとは正反対の,怪しげで狂気のようなものを持った音楽が続きました。木下さんのトークにあったとおり,「厚いオーケストラの響き」が特徴的な曲で,その上に息の長い合唱が続いていたので,濃厚な緊張感が持続していました。この世界は結構,癖(?)になりそうです。合唱の方は,歌詞の内容まではよくわからなかったのですが,オーケストラに埋もれることなくしっかりと聞こえてきました。そのせめぎ合いが聴きものだと思いました(合唱団の皆様,お疲れさまでした)。曲の後の山下さんと木下さんのトークの中では,「プロのオーケストラならではのバランスの良さ」とも語っていました。曲の最後は,銅鑼などの鳴り物も入り,壮大な盛り上がり。演奏会全体のトリでも良いような充実感のある音楽を楽しむことができました。
演奏会の最後は,木下さん作曲による「大伴家持の三つの歌」でした。こちらは,1995年に富山県国民文化祭子実行委員会から委嘱を受けて作曲した作品ということで,富山で演奏するにはぴったりの作品でした。言うまでもなく,「万葉集」中の大伴家持の歌に曲を付けたものです。短歌ではなく,長歌に曲を付けたのがポイントで,非常に壮大な気分のある音楽になっていました。
第1曲「立山の賦」は,文字通り立山をモチーフにした音楽。息の長い,悠揚迫らざる壮大さがあると同時に,爽やかな気分もありました。エネルギーを思い切り発散するような感じが気持ち良かったですね。
第2曲「霍公鳥(ほととぎす)と藤の花」は,ピッコロから開始。「桃の花」という言葉から始まりましたが,この言葉が醸し出す幻想的な色彩感がそのまま音楽になったような音楽でした。この曲については,木下さんのオーケストレーションではなく,福嶋頼秀さんという方がアレンジを行ったのですが,どこかドビュッシーなどの印象派の音楽のような不思議さがあり,大変魅力的でした。
第3曲「放逸せる鷹を思ひて」は,歌詞の長さもいちばん長く,特に壮大な音楽になっていました。木下さんはトークの中で,「ピアニズム満載の曲,オーケストレーションすることは考えていなかった」と語っていたとおり,オーケストラの方は,速く細かい音の動きが長く続くのが特徴でした。2台のマリンバ(?多分)がこの部分を担当しており,鷹が空を飛んでいるような雄大な気分を味わうことができました。曲の最後の方では,弦楽器もピアニスティックな音型を演奏し,切迫感が増していく感じでした。熱量満載の合唱団OEKとやまの皆さんの声も気持ちよく響いていました。
アンコールでは,恒例の「ふるさと」の前に,木下牧子さん自身のオーケストレーションによる「鴎」が演奏されました。この日,プレコンサートとしてアカペラで木下さんの合唱曲5曲が歌われたのですが,その最後に「鴎」がありました。アンコールで同じ曲がパワーアップして再登場してきた感じで,見事に伏線が回収された感じでした。自由という言葉が,さらに大きく広がっていましたね。この曲の詩については,「どこかで聞いたことがある」と思い調べてみると,三好達治によるもの。もしかしたら国語の教科書などにも載っていたかもしれないですね。プレコンサートで歌われた5曲の中では,「おんがく」がいちばん有名でしょうか。「音楽を眺めていたい」という詩が印象的だったので調べていると,こちらは,まどみちお作詩。木下さんによる合唱曲については,詩の世界とあわせて一度じっくりと味わってみたいなと思いました。
毎回この公演を通じて「知られざる合唱の佳曲」に出会うことができるのが嬉しいですね。来年はどういう曲に出会えるのか,楽しみにしたいと思いいます。
PS. この日は金沢から富山まで,高速バスで往復しました。終演時間が16:50というなかなか微妙な時間だったのですが...オーバードホールから富山駅の中を一気に突っ切って,速足で南口の高速バス乗り場まで向かったたところ...余裕で17:00発の高速バスに間に合いまってしまいました(石川県立音楽堂と同様の便利さ)。その分,土産を買えなかったのが残念。次回は先に買っておきたいと思います。
PS.オーバードホールに中ホールが出来たとのポスターがありました。みんな言ってそうですが...「中バードホール」と呼ばれそう?いつか行ってみたいですね。OEKの演奏会にもぴったりかもしれません。
PS. 毎年同じような写真を掲載していますが,金沢⇔富山の夏の小旅行の写真を紹介しましょう。
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