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大阪フィルハーモニー交響楽団金沢特別公演(2023年10月12日)

2023年10月12日(木)19:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール
1) ロッシーニ/歌劇「ウィリアム・テル」序曲
2) サン=サーンス/チェロ協奏曲第1番イ短調,op.33
3) (アンコール)バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲第1番~サラバンド
4) ブラームス/交響曲第4番ホ短調,op.98
5) (アンコール)ドヴォルザーク/スラブ舞曲ホ短調,op.72-2
●演奏
沼尻竜典指揮大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:崔 文洙)*1-2,4-5,佐藤晴真(チェロ*2-3)

オーケストラ・キャラバンシリーズとして行われた大阪フィルハーモニー交響楽団金沢特別演奏会を石川県立音楽堂で聞いてきました。指揮は沼尻竜典さん,チェロは佐藤晴真さん。ロッシーニの「ウィリアムテル」序曲,サン=サーンスのチェロ協奏曲第1番,ブラームスの交響曲4番という多彩でありながら,序曲・協奏曲・交響曲がきちんと並んだまとまりの良いプログラムを楽しんできました。イタリア,フランス,ドイツの順に出てくる,西洋料理フルコースといったところでしょうか。

最初に演奏されたロッシーニの「ウィリアムテル」序曲は,私たち(沼尻さんもそうですが)の世代だと,中学校の音楽の授業の音楽鑑賞の定番,学校の運動会などのBGM,往年の人気番組「オレたちひょうきん族」のテーマ曲というイメージがあり,軽く見られがちな曲ですが(そのせいか定期公演で演奏される機会もあまり多くないですね),この日の演奏は,改めて良い曲だなぁと思わせる充実した演奏でした。

最初のチェロの独奏から重奏へと移っていく辺りは,響きの美しさに魅了されました。メンバー表がなかったので首席奏者の方のお名前は分らないのですが,ストレートに切り込むようなキリッと澄んだ目の覚めるような音が素晴らしかったですね。続く句「嵐」の部分はじっくりとしたテンポ。オペラ音楽を知り尽くした沼尻さんならではの見事に設計された嵐でした。トロンボーンや大太鼓が入る,ずしっとした迫力も良かったのですが,嵐の前の部分のピリッとした感じのピチカートの鋭さも印象に残りました。

嵐の後ののどかな部分は…この部分を聞くとこのメロディに合わせて「歌いながら,うがい」をしたくなりますが…イングリッシュ・ホルンやフルートの見せ場。すがすがしくのどかな音楽でした。じっくり間を取った,落ち着きのある音楽でした。

そして最後の「スイス軍の行進」の部分は,トランペットやホルンで爽快に始まった後,非常に軽快に走るギャロップ風。整然とした中にも愉悦感があり,演奏会の開始にはぴったりの気分でした。最後の部分は,最終コーナーでムチを入れる感じの盛り上がりでしたが,熱くなりすぎないのも良いなと思いました。

この日のプレトークは,沼尻さんと広上さん(いつも登場されるのが素晴らしい)による対談でしたが,この曲についてのトークの中で「オレたちひょうきん族」と言っても,若いメンバーに通じなくなっているとおっしゃられていました(私自身もこの番組はほとんど見ていなかったのですが)。「昭和の話題=お昔の話」という時代になりましたが,Webで検索すればその情報が結構詳しく分かり,それが面白ければ蘇るというのも,今の時代ですね。

続いては,若手チェロ奏者,佐藤晴真さんとの共演で,サン=サーンスのチェロ協奏曲第1番が演奏されました。佐藤さんの演奏を聴くのは初めてだったのですが,その音の晴れやかな美しさ(お名前のイメージにぴったり)が素晴らしいと思いました。ガツガツしたところのない,洗練された音楽で,サン=サーンスの音楽にぴったりでした。

第1楽章はスピード感たっぷりにしかも優雅に開始。佐藤さんのチェロには力んだところがなく,どの音域も美しいなぁと思いました。第2主題の淡くメランコリックな気分が漂う部分はじっくりと聞かせてくれました。オーケストラの音もこの気分にぴったりで,木管楽器の音などはフランス音楽にぴったりの晴れやかさがありました。

第2楽章(全3楽章が連続的に演奏されます)は繊細なメヌエット風の部分。ここでも優しさとメランコリックな気分が合わさった優雅な音楽になっていました。佐藤さんのチェロには,心地よい落ち着きがあり,ストレスフリーの世界で遊んでいるような趣きがありました。

第3楽章はオーボエが第1楽章のメロディを演奏して開始。スムーズで瑞々しい音楽でした。佐藤さんのチェロはこの楽章でもメランコリックな気分を持った歌をしっかりと歌い上げていました。そして終楽章らしく,オーケストラと一体になって生き生きとした活発な音楽になって行きます。その一方,チェロに出てくる超高音などもさりげなく聞かせ,しっかりとした歌と同時に端正さも残して全曲を締めてくれました。

この曲は,それほど編成も大きくないので,オーケストラ・アンサンブル金沢も比較的よく演奏している曲ですが,そのうち佐藤さんとの共演を期待したいと思いました。

アンコールでは,バッハの無伴奏チェロ組曲第1番のサラバンドが演奏されました。これもまた透明感溢れる素晴らしい演奏。脱力した感じで装飾音も品良く入れており,古楽風でありながら新鮮なバッハだなぁと思いました。

後半に演奏された,ブラームスの交響曲第4番では,いかにもロマン派という大きな流れを感じさせながら,メリハリの効いた構成感のある音楽を楽しませてくれました。オーケストラの響きが明る過ぎず,地に足のついた音楽になっていたのもブラームスらしいと思いました。さすが沼尻さんという演奏でした。

第1楽章は沼尻さんのかなり大きな身振りで開始。その動作どおりのしなやかで雄弁な音楽が自然に湧き上がり,大きく音楽が呼吸をしていました。第2主題部は「ほぼタンゴ」のような部分ですが,メリハリの効いた音楽。音楽がくっきりと立ち上がっていました。展開部では,落ち着きと渋みがあり,色々な音がかっちりと組み合わさった,「交響曲らしい」展開になっていました。楽章が進むにつれて,熱い濃厚さが増していき,まとまりのある堂々たる音楽で締めてくれました。

第2楽章はホルンで開始。続いて出てくるフルート共々,しっかりと響いているけれども落ち着きのある平静さのある音楽になっていました。弦楽器のピチカートにもピリピリとした感じがなく,実に味わい深い音楽。楽章の中盤以降,チェロなどが演奏するメロディからは,秘められた思いがぐっと湧き上がってくるような熱さが出てきます。そしてティンパニを中心とした力強く骨太の音楽に。弦楽合奏の太いカンタービレを聞いて「ブラームスらしいなぁ」と思いました。

第3楽章はリラックスした中にビシッとした切れ味の良さのある音楽。対照的に中間部ではホルンの重奏を中心として深い味わいのある音楽になっていました。沼尻さんの指揮は,それら全体を大きく包み込むよう。余裕の音楽運びの中にさりげなくユーモアも漂っていました。

第4楽章は最初に出てくる主題を変奏していくパッサカリア。さりげなく始まった後,くっきりとした推進力のある変奏が続きました。管楽器が次々活躍していくのが聞き所でした。途中出てくるフルートの独奏が聞き所ですが,訥々とした感じでしみじみと聞かせてくれました。その後に続くトロンボーンのハモリも染みました。曲の最後の部分は,落ち着きと力強さが共存したような気分がどんどん盛り上がっていきました。熱く乱暴にならずに,力強さを増していき,速めのテンポできっぱりと締めてくれました。

アンコールは,ブラームスの交響曲の後なので,「ハンガリー舞曲かな?」と予想していましたが…一ひねりがあり,ドヴォルザークのスラヴ舞曲op.72-2でした。ブラームスの4番では第3楽章にトライアングルが出てきましたが,この曲でもトライアングルが活躍します。ということで,トライアングルつながり(+ホ短調つながり)の選曲だったのかなと思いました。また,イタリア→フランス→ドイツの曲が演奏されたので,最後はヨーロッパの別の国で締めようというアイデアだったのかもしれません。

この演奏ですが,非常に速いテンポで演奏されました。最初にぐいっと揺れ動く感じで音楽が始まった後,力強く線が貫通しているような感じで流れていきました。ヴァイオリンの熱いカンタービレも聞き物でした。

全国各地のオケを安価で(最高4000円でした)楽しめるこのオーケストラ・キャラバンシリーズ。この日はとても良くお客さんが入っていました。金沢にいながらにして,全国各地のオーケストラを楽しめるこのシリーズ,今後も続いていって欲しいと思います。

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