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小山実稚恵ピアノリサイタル(石川県立音楽堂リサイタル・シリーズ vol.2)(2023年12月13日)

2023年12月13日(水)19:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール
ブラームス/3つの間奏曲 変ホ長調,op.117-1
ブラームス/3つの間奏曲 変ロ短調,op.117-2
シューベルト/即興曲 ハ短調, op.90-1
シューベルト/即興曲 変ホ長調, op.90-2
シューベルト/即興曲 変ト長調, op.90-3
シューベルト/即興曲 変イ短調, op.90-4
ショパン/ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調, op.58
(アンコール)ショパン/マズルカ第45番 イ短調, op.67-4
(アンコール)ショパン/ピアノ協奏曲第2番ヘ短調, op.21~第2楽章(ピアノ独奏版)
(アンコール)ショパン/ノクターン第2番 変ホ長調, op.9-2
●演奏
小山実稚恵(ピアノ)

小山実稚恵さんのピアノリサイタルを石川県立音楽堂で聴いてきました。小山さんについては,金沢ではオーケストラ・アンサンブル金沢との共演など協奏曲を聴く機会の方が多く,リサイタルを聴くのは実は今回が初めてのことでした。小山さんがデビューされた1980年代以降,同じ時代を歩んでいるアーティストとして,ずっと親近感を持ち続けているベテラン奏者による堂々たるステージを楽しむことができました。

この公演は,今年7月から始まった「石川県立音楽堂リサイタル・シリーズ」の第2回目として行わたのですが,ピアニストが登場するのは小山さんが最初。今後のこのシリーズへの期待を高めるような内容だったと思いました。

演奏会は,ほの暗さと透明な美しさにあふれたブラームス晩年の間奏曲2曲で始まりました。1曲目のop.117-2は静かな水面を思わせる染み渡るような音で開始。中間部で少し音楽にドラマが出てきましたが,全曲を通じて声高になることなく,自然な高級感が漂うような演奏でした。2曲目のop.117-2は,もう少し音楽に動きが出てきましたが,ほの暗く透明なトーンは共通していました。安定感のある音楽がホールに染み渡り,演奏後には深い余韻が残りました。

続いて演奏された,シューベルトの即興曲op.90全4曲は,個人的に大好きな曲集です。小山さんの演奏は,各曲ともまさに音楽が即興的に揺れ動いていくようで,瑞々しさから深々とした情感まで色々な表情を見せながら,停滞することのない音楽を聴かせてくれました。多少ミスタッチもありましたが,そのことも含め,堅苦しさよりは自在で有機的な音楽を楽しませようといった意図を持つ演奏になっていたと思いました。

1曲目は抑え気味の音量で,美しいモノローグがスタート。時々溜めを作りながら,停滞することのない音楽が静かに流れていきました。キラキラした高音,しっとりとした低音の歌。そこには何とも言えない孤独感もあり,曲の最後の部分での深さを感じさせる大きな間が強い印象を残してくれました。

2曲目は軽やかな音が時々揺れながらサラサラと流れていくような即興的な音楽。中間部で陰りのある表情をダイナミックに聴かせた後,曲の終盤ではテンポをぐんと上げて,さらに大きく高揚していきました。

3曲目は豊かで自由な歌。ここでも停滞することなく,味わい深い音楽が流れていきました。中間部から終盤に掛けての深くしっとりとした歌がここでも美しかったですね。

最後の4曲目はキラキラとしているけれども冷たくなることのない音楽。短調なのか長調なのか分からない,素速く流れ落ちるような独特の魅力を持った音楽が,次々と湧き出てくるようでした。この曲でも中間部で変化が付けられており,自在で人間味のある音楽となっていました。最後は落ち着きのある風情でしっかりと締められました。

後半はショパンのピアノ・ソナタ第3番が演奏されました。この曲も大好きな曲なのですが,実演で聴くのは久し振りでした。こちらもメインプログラムに相応しい堂々たる力感と楽章ごとに違った表情を持つ抒情性を楽しませてくれました。演奏自体に力んだところはないのですが,自然な風格が漂っており,最終楽章に向けて大きな盛り上がりを作っていました。

第1楽章は気負いなくさらりと開始。豊かな低音の歌と軽妙さを持った音の動きとのコントラストを感じさせる幅広い表現力を楽しませてくれました。中間部ではしっかりとした歌がパッと立ち上がってきたり,自在に揺れる歌が流れてきたり,さらにスケールアップ。楽章の最後は平然と締めるあたり,ベテランらしいなと思いました。

第2楽章は無窮動的で高速のスケルツォとインティメイトなモノローグとが合わさったような演奏でした。大げさになり過ぎず,ビシッと決めてくれました。第3楽章はしっかりとしたカンティレーナ(滑らかで叙情的な歌)。重くもたれることはないけれども,味わい深さをもったモノローグで,少しずつ落ち着きのある深みのある世界へと入っていきました。楽章の最後の方の幻想的な雰囲気が特に魅力的でした。

第4楽章では一段音量がアップし,勢いのある音楽が続きました。こういった楽章での有無を言わさぬ推進力は小山さんならではかもしれません。楽章が進むにつれて,じわじわと音楽全体としての高揚感も高まり,その頂点で充実感のあるガッチリとした音で全曲が締められました。

アンコールは,ショパンの曲が3曲演奏されました。最初に演奏されたマズルカ第45番はさらりとした味わい。中間部での転調が大変鮮やかでした。

2曲目に演奏された曲は…「聴いたことあるけれども何?」という感じで開始。曲が進むにつれて,ショパンのピアノ協奏曲第2番の2楽章をピアノのみで演奏していることが分かりました。高音の輝き,貫禄のある美しさ…こうやって聴くと,そのまんまノクターンといった感じでした。終演後のサイン会の時にこの曲について「アンコールのあの曲はどういう曲なのでしょうか?」と小山さんに伺ったところ,「ショパン自身がアレンジたものがあるんです」とのことでした。ちょっと意外性のある音楽はアンコールにぴったりだと思いました。

アンコール3曲目は,名曲中の名曲,ノクターンop.9-2(映画「愛情物語」で使われている曲…と書いても通じなくなりましたね)。淡く,優しく,美しい演奏。音楽が次第に大きく盛り上がったり,弱音をとても美しく聴かせたり,とても聴かせ上手な演奏だと思いました。

終演後はお待ちかねのサイン会。

サイン会の実施を見越して,我が家から持参したのが,ベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」ソナタのCD。このCDをネタに「次はベートーヴェンをお願いします」と小山さんと一言会話をすることができました。

せっかくなので音楽堂玄関のクリスマスツリー前で記念撮影。「自分へのクリスマス・プレゼント」といった感じになりました。

ここ数年,石川県立音楽堂のコンサートホールをリサイタル用に使う機会は少なかった気がしますが,久し振りに大ホールで聴くリサイタルは大変気持ちの良いものでした。この「石川県立音楽堂リサイタル・シリーズ」には,音楽堂洋楽監督の池辺晋一郎さん推薦のアーティストが登場するとのこと。これからどういうアーティストが登場してくるのかも楽しみです。

PS.ホールの外はクリスマス・シーズン。音楽堂の公演ガイドの色合いもクリスマス色です。

ANAクラウンプラザホテル金沢の玄関付近もクリスマスらしい感じになっていました。

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