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第22回北陸新人登竜門コンサート〈ピアノ部門〉(2024年5月19日)

2024年5月19日(日)15:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール
1) リスト/ピアノ協奏曲第1番変ホ長調, S.124
2) シューマン/ピアノ協奏曲イ短調,op.54
3) サン=サーンス/ピアノ協奏曲第2番ト短調, op.22
4) グリーグ/ピアノ協奏曲イ短調, op.16
●演奏
森愛竜*1,矢賀部光夏多*2,平野未紗*3,白澤あまね*4(ピアノ)
松井慶太指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)

5月恒例の北陸新人登竜門コンサートを聞いてきました。今年はピアノ部門でした。昨年のこの公演は,広上淳一さんが指揮者として登場し,大勢の若手歌手たちとのガラコンサートのようになりましたが,今年も,松井慶太さん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との共演で,ロマン派のピアノ協奏曲4曲を一気に聴く重量感のあるプログラムとなりました。演奏された曲には過去のこの公演では演奏されてこなかった曲も含まれており,「ピアノ協奏曲の饗宴」といった趣きもありました。

出演者したのは,森愛竜さん(富山県出身),矢賀部光夏多さん(福井県出身),平野未紗さん(石川県出身),白澤あまねさん(石川県市出身)の4人。それぞれに聞きごたえのある演奏を楽しませてくれ,大満足の演奏会となりました。

最初に登場したのは,森愛竜(もり・ありゅう)さん。リストのピアノ協奏曲第1番がこの演奏会に登場したのは初めてだと思います。

森さんの演奏は,第1楽章からゆっくり目のテンポで,しっかり端正な演奏を聴かせてくれました。やや慎重過ぎるかな,という気もしましたが,丁寧な演奏の中から透明で瑞々しい音楽が広がっていました。

この曲では,第1楽章の冒頭からOEKの音も素晴らしいと思いました。ピタッと揃った木管楽器の音がとても心地よく,森さんのピアノをしっかりと盛り上げていました。3楽章でのトライアングルとピアノの掛け合いは,この曲ならではの聞き所でした。第4楽章は堂々たる行進曲といった趣きでカッチリと決めてくれました。

続いて登場したのは,まだ高校1年の矢賀部光夏多(やかべ・ひなた)さんによるシューマンのピアノ協奏曲。全曲を通じて,演奏する楽しさが溢れる安心して楽しめる演奏でした。

プロフィールによると昨年既に沖澤のどかさん指揮ヤナーチェク・フィルと共演(ということはガル祭ですね)しており,ステージ上での堂々とした落ち着き納得とう感じでした。

第1楽章冒頭は勢いよく飛び出していくような速さ。それでいてピアノの音にはマイルドな暖かみもありました。曲想の変化に応じて,生き生きした表現が次々出てきて,どこを取っても生きた演奏になっているなと思いました。演奏の流れも素晴らしく,既にこの曲のオーソリティといった感じのこなれた演奏になっていました。この楽章では,オーボエやクラリネットが魅力的なメロディを演奏するのも聞き所ですが,特に冒頭すぐに出てくる橋爪さんのオーボエのしっとりとした感じが良いなと思いました。

第2楽章でも曲が進むにつれて,歌に熱がこもってくるようでした。チェロ・パートの聞かせどころもお見事。矢賀部さんのピアノともども大変爽やかでした。第3楽章も喜びに溢れていました。軽快に始まった後,色々な楽想が延々と続く感じが素晴らしかったですね。矢賀部さんのピアノは,曲の終盤になるほどノリがよくなり,キラキラとした音が気持ち良く流れていきました。曲の最後はティンパニの重い音でバシッと終了。この音も見事でした。

休憩をはさんで後半最初は,平野未紗さんのピアノでサン=サーンスのピアノ協奏曲第2番が演奏されました。この曲はOEKの定期公演では何回か演奏されていますが,登竜門コンサートで演奏されるのは初めてだと思います。

第1楽章冒頭から平野さんのピアノの音はくっきりと引き締まっており,強い意志の力を感じました。鮮やかな赤のドレスにピッタリの音でした。ちょっと音が硬い感じがしたのですが,随所で凄みのある表現を聞かせてくれました。第2楽章はティンパニ入りのスケルツォ風の楽章。サン=サーンスの魅力たっぷりの音楽をカッチリと聴かせてくれました。第3楽章はタランテラ風の楽章。ピアノとオーケストラが一体になって,強さと軽快さを兼ね備えたような音楽を楽しませてくれました。

演奏会の最後は,白澤あまねさんによるグリーグのピアノ協奏曲でした。この曲もこの演奏会で演奏されるのは初めてだと思います。水色のドレスを着た白澤さんの演奏には,北欧の音楽にぴったりの清潔感と同時に,思い切りの良い大胆さがありました。

第1楽章の冒頭から気合い十分,その後に続く静かな部分での表情の豊かさも聞きものでした。カデンツァも慌てることのないテンポで,しっかりと間を取って,陰影のある音楽を楽しませてくれました。

第2楽章は暖かみのあるOEKの音の後,品の良さと落ち着きのある白澤さんのピアノが続きました。じっくりとした演奏からは,この曲への「愛」のようなものが伝わってきました。第3楽章にはしなやかな美しさがありました。OEKの生き生きとした音と白澤さんの気合いの乗った音による見事なコラボを楽しめました。

この楽章では,途中,気分をパッと変えるように出てくるフルートの音がチェックポイント。心地よい風がすーっと吹いてくるような満丸さんの音は最高でした。その後,ピアノの音も優しく変わっていく感じが非常に自然でした。曲の最後の方では,白澤さんは慌てず騒がず,非常に堂々としたスケール感たっぷりの演奏を聞かせてくれました。トロンボーン3本もしっかりとした音を聞かせてくれ,巨匠の音楽といった聞き応え。そして,この曲でも締めのティンパニの音がお見事。演奏会全体を感動的な気分で締めてくれました。

少し前の石川県立音楽堂・OEK情報誌「CADENZA」に今回出演された4人の出場者のインタビュー記事が掲載されていましたが,皆さんこの演奏会に出演することに子供の頃から憧れていたといったことを書いていました。岩城宏之さんの発案で始まったこのコンサートが,地元ピアニストにとっての大きな目標になっていることが嬉しいですね。今回出場された4人の皆さんのさらなる活躍を期待しています。

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