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オーケストラ・アンサンブル金沢ありがとうコンサート(2024年8月27日)

2024年8月27日(火)19:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール
1) モーツァルト/交響曲第31番ニ長調,K.297「パリ」
2) ガーシュウィン(山下康介編曲)/パリのアメリカ人
3) ルグラン(渡辺俊幸編)/「シェルブールの雨傘」テーマ曲
4) レイ(山下康介編曲)/「男と女」テーマ曲
5) ロイド=ウェバー(山下康介編曲)/「オペラ座の怪人」メドレー
6) (アンコール)レノン&マッカートニー/愛こそはすべて
●演奏
広上淳一指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス),ジャン=フィリップ・メルカールト(オルガン),司会:戸丸彰子

8月末の恒例公演になりつつある,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)「ありがとうコンサート」を石川県立音楽堂で聞いてきました。この公演は,サブタイトルの「日頃の支援に感謝を込めて」の言葉どおり「ファン感謝デー」的な公演で,賛助会会員はご招待,定期会員の入場料も2000円と安価でした。広上淳一さんがアーティスティック・リーダーに就任後,いちばん大きく変わったのがこの演奏会かもしれません。

この日は公演前にJunichi Cafe。
コーヒーを一杯いただいてから入場しました。

幅広いお客さんが楽しめる内容ということで,今年のテーマはオリンピック&パラリンピック・イヤーにちなんで「パリ」でした。前半後半ともパリやフランスに関連した曲が演奏されました。

前半最初はモーツァルトの交響曲第31番「パリ」が演奏されました。モーツァルトの後期の交響曲は意外に2管編成ぴったりの曲は少なく,OEKメンバー全員(打楽器は1名ですが)で演奏できるのは「ハフナー」とこの「パリ」ぐらいです。開演に相応しい祝祭的ムードを高める音楽になっていました。

第1楽章から広上さんの指揮は自然体で折り目正しい演奏。落ち着きと壮麗さが共存したような演奏でした。その一方,弦楽器の緻密な音,彩り鮮やかな木管楽器の音など,OEKの演奏レベルの高さも実感できました。第2楽章は「ありがとうコンサート」に相応しい,暖かな空気感をまとった音楽。最近の広上さんの雰囲気そのものの,のんびりとした「心からの歌」になっていました。第3楽章は出だしの部分の弦楽器が面白いですね。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンで違う曲を演奏しているように独立して動くスリリングな感じが生き生きと伝わってきました(今回,定期公演の時とは違う,1階の結構前方の席で聞いていたせいもあるかもしれません)。この楽章でも堂々としたテンポの中から壮麗な気分が立ち上がっていました。

この辺りから聴いていました。

2曲目はガーシュインの「パリのアメリカ人」。広上さんは演奏前のトークで,ジーン・ケリー主演のミュージカル映画でおなじみ…といった話をされていましたが,そろそろこういった話題も通じなくなっているかもしれないですね。音楽だけでなく,古典的な映画も残していきたい気もします。

演奏は軽快なテンポで開始。今回,上手側で聞いていたこともあり,テューバをはじめとした低音の威力を実感できました。軽快さと安定感が共存する上に瑞々しい音楽が流れてくる感じでした。トロンボーンが強くアクセントを聞かせたり,クラリネットの音が原色的に飛び込んで来たり,上述の映画のシーンを彷彿とさせるようでした。

しっとりとした部分もこの曲の魅力の一つです。この日のコンサートマスターはサイモン・ブレンディスさんでしたが,味わいと余裕のあるソロを要所要所で聴かせてくれました。曲の中間部は,夜のようなムードになりますが,ここでの聞き所はトランペットの独奏です。実はOEK創設時からトランペット奏者を務めてきた藤井幹人さんがこの日の公演で退団することになりました。その有終の美を飾るような演奏を聴かせてくれました。藤井さんの誠実な人柄がスーッと音になってホールに染み渡っていくようでした。気高さと同時に「ありがとう」という思いが音の背後に感じられ,「こちらこそありがとう」と思いながら聞いていました。

この部分ではこの日のトロンボーン奏者だった藤原功次郎さんの雄弁な音も音楽をもり立て,サックスも加わって,大きなクライマックスを気づいていました。曲の最後の部分はチャールストンのような音楽。広上さんはテンポをじっくり遅めに取って,沸き立つ愉悦感をたっぷりと楽しませてくれました。終盤時折軽くジャンプしていたのは,師匠のバーンスタイン譲りでしょうか?ちょっとした間の取り方にも味わいがありました。曲の最後は全曲を振り返るような堂々とした音で締めてくれました。

演奏後はトランペットの藤井幹人さんが盛大な拍手を受けていました。休憩時間は昨年同様30分の交流タイムとなりましたが,藤井さんの前には長蛇の列ができており,名残を惜しんでいました。

私も色々な方からサインをいただきました。演奏が終わったばかりの奏者と話ができるのはとても楽しく,「パリのアメリカ人」の最後に聞かせどころのあったテューバの上森菜未さんに「よく響いていました」などと声を掛けてしまいました。

広上さんのサイン。「パリのアメリカ人」が編曲版だったのでどこが違うのが尋ねてみたのですが,「ほとんど同じ」とのこと。確かにオリジナルとどう違うのがよく分かりませんでした。
メンバー表に色々な方からサインをいただきました。藤原功次郎さんなど,エキストラの方からもいただけたのが嬉しかったですね。
コンサートマスターのサイモン・ブレンディスさんのサイン
ポストカードの裏面には弦楽器奏者の皆さん中心にサインをいただきました。
下の方には「金澤弦楽四重奏団」の皆さんのサインを集めてみました(どうも,習性としてあれこれ工夫してみたくなります)。次回公演について尋ねてみたところ,「ラズモフスキー3番」がメインになるようです。
カフェ・コンチェルトがリニューアルされていました。高級スピーカーも入っていました。

後半は「シェルブールの雨傘」「男と女」の各映画のテーマ曲で始まりました。どちらも1960年代の映画音楽ですが,映画を離れて長く聴かれている「クラシック」な音楽ですね。「シェルブールの雨傘」は,おなじみ渡辺俊幸さん編曲。オーケストラの音が,一気に鮮やかで甘い雰囲気に変わりましたね。半音階的な進行が魅力的なあの名旋律が出てくるまで結構じらされる感じでしたが,その「じらされ感」が映画の雰囲気にもぴったりでした。会場がせつない空気に染まりました。

「男と女」の方は弦楽器の柔らかく,倦怠感の漂う響きが素晴らしかったですね。コントラバスがしっかり効いていいるのも格好良いと思いました。こちらも有名な曲ですが,じっくりと聴くのは実は久しぶりのこと。ず~っと「ダバダバダ,ダバダバダ…」と歌っている印象のある曲なので「一体どう終わるのだったかな?」と途中で気になったのですが,最後は粋に締めてくれて「そうだった」と思い出しました。

書き忘れていましたが,この日の公演の進行役はアナウンサーの戸丸彰子さん。広上さんとの掛け合いが素晴らしく,名コンビだと思いました。なるほどと言う話題も提供してくれました。映画「男と女」の2018年版がある(同じ音楽を使用),という話題も戸丸さんがおっしゃられていたのですが,この映画は一度見てみたいですね。

最後はアンドリュー・ロイド=ウェバー作曲ミュージカル「オペラ座の怪人」メドレー。冒頭からオルガンの音が入る曲で,この日はジャン=フィリップ・メルカールトさんが担当しました。演奏前,メルカールトさんによるトークがあったのですが,素晴らしい日本語でした。「パイプオルガンの演奏は95%ソロ。オーケストラとの共演の機会は楽しみ」とおっしゃられていました。

パイプオルガンの音がホールの上から降ってくる感じでした。

さてこのメドレーですが,今後も石川県立音楽堂での公演の定番曲にして欲しいと思わせるぐらいの充実感のある曲でした。序曲ではいきなりメルカールトさんのオルガンがバーンと登場。ただし重過ぎない音で,シャープな鮮明さを感じました。むしろオーケストラの中のバストロンボーンやテューバの音と一体となった時の重厚さが素晴らしいと感じました。このメドレーの編曲は山下康介さんでしたが素晴らしいサウンドでした。

その後は…曲名は知らないのですが…フルートとハープによる瑞々しい曲。休憩時間中に会話をしてサインをしていただいた八木瑛子さんのフルートということで,特に親しみを持って楽しめました。その後は加納さんのオーボエによるカデンツァ風というか鳥の声のような曲。サラ・ブライトマン(調べて見るとクリスティーヌという役柄)が歌う曲でしょうか。ソプラノの声をイメージして聴いてしまいました。

そして,再度パイプオルガンの音が激しく入ってきて,お馴染みのテーマ曲になりました。オリジナルではサラ・ブライトマンが歌う部分は,やはりオーボエが担当していたので,今回は「オーボエ=ブライトマン」という設定なのだなと思いました。ドラムスが入っているので,ロック音楽のような感じでテンションが高まる曲ですが,オルガンの音が加わることでどこか宗教音楽的な気分も感じさせてくれる独特な感触を持った作品です。

続いてはファゴットがしみじみと歌う「The Music of the night」。今年のガル祭の時,飯田洋輔さんが歌っていたのを思い出しました。重厚な雰囲気からパッと開放され,音が外に広がっていくようでした。最後は「All I ask of you」。この曲も名曲です。ホルンから始まった後,暖かな情感に包まれていくような曲でした。実は,このミュージカル(映画版もありますが)全体を見たことはないのですが,聞き応えのある曲の連続で「一本見た感じ」になりました。

欲をいえば…プログラムにメドレーで演奏する曲のリストを付けて欲しかったですね。最後の方の曲は大きく盛り上がる曲が多く,拍手が入ったのですが,本当の最後の曲は結構静かに終わったので,「拍手しても良い?」という感じになりました。

盛大な拍手に応えてアンコールで演奏されたのが,ビートルズの「愛こそはすべて」でした。

この曲のタイトルは「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ」でも十分通じるかもしれないですね。

テーマのフランスとのつながりは?曲のイントロに出てくるフランス国家「ラ・マルセイエーズ」。なるほどという選曲でした。ジョン・レノン作曲の曲ということで「博愛精神の曲」といえます。オリジナルのリード・ボーカルもレノンですが,曲の最初の方の「語り歌う」ような感じをオーケストラで再現するのは結構難しそうでした。最後の方の「All you need is love」のフレーズが何回も出てくる部分は,やはり一緒に歌いたくなります(原曲では「All together now」とか「Everybody」とか掛け声が入りますね。これはポールの声でしょうか)。

そして終盤,クラシック音楽などの断片が色々と入ってくる部分も楽しかったですね。トランペットが高音でバッハの2声のインベンションを演奏する部分が特に印象的ですが,これもしっかり再現されていました。オリジナルの最後はフェードアウトしていきますが,今回はしっかり「ジャーン」と終わっていました。

演奏後は,この日で退団するトランペットの藤井さんへの花束贈呈。前半後半に加え休憩時間も大いに盛り上がった「ファン感謝デー」でした。



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