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オーケストラ・アンサンブル金沢第481回定期公演フィルハーモニー・シリーズ(2024年6月20日)

2024年6月20日(木)19:00~ 石川県立音楽堂コンサートホール
1) ミヨー/組曲「スカラムーシュ」,op. 165d
2) ベルリオーズ/夏の夜, op.7
3) シュトラウス, R./組曲「町人貴族」, op.60
4)(アンコール)シュトラウス, R./組曲「町人貴族」, op.60~第4曲「仕立屋の登場と舞踊」
●演奏
マキシム・パスカル指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング),遠藤文江(クラリネット*1),池田香織(メゾ・ソプラノ*2)

夏至直前の「夏の夜」,マキシム・パスカル指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による定期公演を石川県立音楽堂で聞いてきました。

18:00過ぎでもまだまだ明るい開演前。
同じ時間帯,志の輔さんも同じ建物内に居たのですね。

パスカルさんが定期公演に登場するのは,コロナ禍に入る少し前の2020年1月の定期公演以来です。今回演奏された曲はミヨーのスカラムーシュ,ベルリオーズの「夏の夜」と夏至の時期にぴったりの曲が演奏された後,後半はR.シュトラウスの組曲「町人貴族」が演奏されました。パスカルさんは「ル・バルコン」という芸術集団を創設し,実験的な試みをされている方ですが,その片鱗を感じさせてくれるように,室内オーケストラにこだわったサウンドを楽しませてくれました。

1曲目のスカラムーシュについては,サクソフォーン+オーケストラ版を実演で聞いたことがありますが,今回はOEKのクラリネット奏者,遠藤文江さんの独奏を交えた,クラリネット+オーケストラ版で演奏されました。こちらの版で聞くのは初めてでしたが…いきなりものすごく速く軽快なテンポで始まった後,音が甲高く1オクターブ上になり「おっ」となりました。往年のジャズ・クラリネット奏者,ベニー・グッドマンために編曲された版ですが,何が飛び出してくるかわからないこのワクワク感はジャズ的かもと思いました。涌きたつようなお祭り感はブラジル風でした。その後,テンポも音色も色々と変化。遠藤さんを中心に自由自在の表情豊かな演奏でした。

第2楽章(この曲「組曲」という呼称なのですが,実質的には3楽章からなる協奏曲風です)は一転して,深~い音。クラリネットという楽器の音域の広さを表現力の豊かさを実感しました。そしてフルート,オーボエなど他の楽器と対話をしながら,どんどんミステリアス気分が高まっていっきました。第3楽章はトロンボーンの強烈な音に続き,ゆったりとしたラテン系のリズムに乗ってクラリネットが力強く登場。夏向きの曲だなぁと思いました。最後はピリッとした感じで終了。

2曲目はメゾソプラノの池田香織さんの独唱を交えてのベルリオーズ「夏の夜」。池田さんは鮮やかな青の衣装でしたが,1曲目の遠藤さんも青っぽいドレスだったので,ステージ上の雰囲気も夏のイメージでコーディネートされていた感じでした。OEKがこの曲を取り上げるのは初めて…かなと思ったのですが,ヨーロッパでの公演(確か)であのジェシー・ノーマンとこの曲で共演をしたことがあったことを思い出しました。いずれにしても,金沢でこの曲をOEKが演奏するのは初めてだと思います。オーケストラの編成はそれほど大きくはなく,室内オーケストラにはちょうど良い感じ。季節感もぴったりでした。

第1曲「ヴィラネル」は涼やかでしっかりとした池田さんの声で開始。どこか可愛らしさも漂っていました。オーケストラの木管楽器の音などにはメンデルスゾーンを思わせる感じもあり,その点でも「夏の夜」の音楽だなぁと感じました。喜ばしさとそれを抑えようとする感じとのバランスも良いなぁと思いました。

第2曲「薔薇の精」はひっそりとした雰囲気に。満丸さんのフルートが気分を盛り上げていました。池田さんの余裕のある声には,ゆったりとした起伏があり,スケールの大きさを感じました。力のある高音も素晴らしく,大変聞き応えのある楽章になっていました。

第3曲「入り江のほとり」でも,深さと同時に輝きのある音楽を聴かせてくれました。途中音楽がドラマティックに変化していく辺りは,飯尾洋一さんがプログラム解説に書いていたとおり,オペラの一場面を見るようでした。池田さんの力のこもった声にぐっと引き付けられました。

第4曲「君なくて」は,「愛する人に戻って来て欲しい」という曲。シンプルな音楽でしたが,しっかり間を取って演奏されたこともあり,この曲でも深さとドラマを感じました。第5曲「墓地にて」も静かな曲。池田さんの声には語るような感じがあり,音楽がすっと耳に染み込んできました。OEKのバックアップもとてもデリケートでした。

第6曲「未知の島」は全曲の締めということで,声もオーケストラも音の豊かさと輝きを増し,前向きな希望がパッとわき上がってくるようでした。ベルリオーズならではの色彩感も良かったですね。曲の最後は派手に盛り上がるのではなく,品良くフワッと終わる感じ。全曲を通じて,じっくりと深い別世界に誘ってくれる良い曲だなぁと思いました。

後半前に撮影。こんな感じの編成でした。

後半はR.シュトラウス組曲「町人貴族」が演奏されました。OEKは編成的にR.シュトラウスのオーケストラ作品はほとんど演奏できないのですが,この曲については室内オーケストラ編成なので,岩城宏之さんが音楽監督だった時代から何回か定期演奏会で取り上げてきました。とはいえ,トロンボーン,ハープ,ピアノが加わり,打楽器も多数参加という独特の編成なので,OEKの編成にぴったりという訳でもありません。この日の指揮者のマキシム・パスカルさんは,室内オーケストラ編成に編曲されたマーラーの交響曲「大地の歌」のCD録音を残していますが,その感じに近いですね(OEKは,この編曲版を昨年9月に川瀬賢太郎さん指揮で演奏していますが,その時の感じを思い出しました)。パスカルさんが得意とする「実験的なサウンド」を楽しめる曲と言えます。

最初の「第1幕への序曲」の冒頭から鮮やかでした。ヴァイオリンが通常よりかなり少ない(6人ぐらい)一方,ピアノが加わることで,独特の軽快さと硬質感のあるサウンドになっていました。このモダンな響きが非常に美しかったですね。ハープも加わっているので,音の輝きもあり,めくるめくような音楽になっていました。全曲を通して,非常によく練られた音色を楽しむことができました。

2曲目の「メヌエット」以降は,擬古典的な舞曲風の曲が色々と出てきました。1曲目は結構速目のテンポでしたが,パスカルさんのテンポ設定は大変ゆったりとしたものになり,こだわりの美しい響きをじっくりと楽しむことができました。第3曲「フェンシングの先生」もじっくりとしたテンポ。朗々と響くトロンボーンの後,トランペット,ピアノと続くのですが,個人的には,この曲についてはもう少しテンポが速くても良いかなと思いました(少々演奏しにくそうな感じもしました)。後半はテンポがアップするので,その対比は存分に楽しめました。

第4曲「仕立屋の登場と舞踊」もゆったりとした舞踊の音楽。この曲では,コンサートマスターのアビゲイル・ヤングさんのソロを存分に楽しむことができました。「さすが!」という鮮やかさでした。テンポはゆったりしているけれども編成が小さいこともあり,音楽が重苦しく停滞する感じはなく,逆にユーモアを感じさせてくれるようでした。

第5曲「リュリのメヌエット」では,橋爪さんのオーボエのくっきり,しっかりした美しい音で開始。この曲は,本当に色々な楽器のソロが出てきて,ちょっとした「オーケストラのための協奏曲」風だなと思いました。第6曲「クーラント」も速すぎないテンポで,じっくりと聞かせてくれました。こういった舞曲系の曲でも音のブレンドの美しさを楽しむことができました。

第7曲「クレオントの登場」では,ちょっと鄙びた感じのあったヴィオラ独奏をはじめ弦楽器が聞き物でした。最後の方ではキラキラとした感じも出てきて,鮮やかなコントラストを作っていました。最後は打楽器パートが大太鼓の叩くゆったりとしたリズムの上でうるくなり過ぎずに盛り上げる感じに。この部分での「雅び」な感じが良いなと思いました。

第8曲「第2幕への前奏曲」はクラリネットやファゴットが活躍(1曲目ソリストだった遠藤さんが登場)。ここでもこだわりの音色美を感じました。終曲は「宴会」。賑々しく色々な人が入ってくる感じの音楽で始まりましたが,ここでもじっくりと練られた音だったので,安っぽい感じにはならず,全曲を締める風格のようなものを感じました。色々な楽器のソロが出てきたり,シュトラウス自身の「ドン・キホーテ」の中の一節が引用されていたり(独特の変な音が出来る面白い音楽。一度,全曲を聴いてみたい曲),大変変化に富んだ音楽になっていました。特に植木さんのチェロ独奏の後,チェロの二重奏になっていく辺りの濃厚な気分が良いなと思いました。R.シュトラウスの世界ですね。終盤,突然音が大きくなった後は,金管楽器や打楽器も活躍し,めくるめくようなエンディングに。美しく優雅なワルツに独特のスパイスが降りかかったような不思議な世界の中で全曲が締められました。

演奏後はソロを取った人たちが順番に立ち上がって拍手を受けていましたが…ほぼ全パートがソロという感じでした。アンコールでは4曲目「仕立屋の登場と舞踊」が演奏され,再度,ヤングさんの見事なソロを楽しむことができました。

上述のとおり,こういったオーケストラのための協奏曲といった楽しさに加え,パスカルさんこだわりのオリジナル・ブレンドといった音色がやはり素晴らしかったですね。聞く前は,やや地味目の印象のあるプログラムでしたが,前半後半ともOEKならではの魅力満載の演奏会だったと思いました。

PS. 終演後はサイン会。

今回は色々自宅からディスクを持参しました。まずは,マキシム・パスカルさん。セットものCDに見えますが1枚もの。上述の室内オーケストラ用に編曲されたマーラーの「大地の歌」です。各楽章ごとにイラストが入っているなど,「ビジュアルにこだわった」こだわりのディスクです。

遠藤文江さんには室内楽のCDにサインをいただきました。かなり前に,「いつかサインをいただこう」と思って買ったディスクです。

そして池田香織さんには,コロナ禍の蔓延が始まったばかりの2020年3月8日にびわ湖ホールで行われたワーグナーの楽劇「神々の黄昏」のBlu-rayにサインを頂きました。この「びわ湖リング」には元々関心があり,急遽「無観客+YouTubeで生中継」上演となった公演を自宅でじっくりと観ていました。後日,その入場料のつもりで購入しました。ブリュンヒルデを歌っていた池田さんからサインをいただくことができ,大変良い思い出になりました。

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