令和6年能登半島地震 復興支援チャリティコンサート:祈り、安らぎ、勇気(2024年2月6日)
2024年1月1日16:10に発生し,石川県を中心に多大な被害を残した(まだ進行形だと思います)令和6年能登半島地震からの復興を支援するために石川県音楽文化振興事業団主催のチャリティーコンサートが行われたので参加してきました。「#がんばろうNOTO」 のキャッチフレーズの下,「祈り」「安らぎ」「勇気」をキーワードとした3曲を川瀬賢太郎さんと松井慶太さん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)とルドヴィート・カンタさんのチェロの演奏で聴いてきました。
演奏会に先立ち,OEKアーティスティックリーダー,広上淳一さんのビデオメッセージが流され,その後,全員で黙祷を捧げました。
1曲目は「祈り」の思いを込めて,バッハの管弦楽組曲第3番の中のアリアが演奏されました。考えてみるとこの作品については,今回のような災害で亡くなった人や亡くなったアーティストを追悼したりする場面で聞くことの方が多くなってしまったかもしれないですね。松井慶太さんの丁寧な指揮の下,誠実な優しさを持った歌が流れて行きました。
ちなみに昨年5月,松井さんがOEK定期公演に初めて登場した際にアンコールとして演奏されたのもこの曲でした。その時も珠洲で発生した大地震の被災者のための義援金の募金が行われたことを思い出しました。その時は通奏低音にチェンバロが入り,大活躍していたことが印象似残っています。今回はひたすら優しい歌。そして,確かに前に進もうという足取りを感じました。
2曲目は「安らぎ」。ルドヴィート・カンタさんの独奏チェロとともに,ハイドンのチェロ協奏曲1番が演奏されました。この曲はカンタさんの十八番と言っても良い曲で,カンタさんが演奏したNAXOSレーベルの録音は,このレーベルの初期の隠れた名(迷)盤としてでお馴染みです。今回もその録音で異彩を放っていた「ジャズ風カデンツァ」による演奏でした。これはカンタさんの作曲でも,即興演奏でもなく,NAXOS盤での指揮者ペーテル・ブレイナーさんの作曲によるものです。正直なところ,何回聞いても「違和感」の残るカデンツァなのですが,いつの間にか,妙に馴染んでしまっています。「習うより慣れろ」といったカデンツァです。
第1楽章はガッチリとした晴朗な気分で開始。そしてOEKの弦楽器の音が美しかったですね。松井さんは上述の定期公演でもハイドンを取り上げましたが,その丁寧で真面目な音楽作りはハイドンにぴったりだと思います。じっくりとしたテンポの中から,曲想に応じたニュアンスの変化がくっきりと伝わってきました。
カンタさんがソリストとしてOEKと共演するのは,結構久し振りのことですが,いつもどおり,何とも言えぬ人間味を感じさせる暖かさを持った演奏を聴かせてくれました。技巧的な部分でも機械的な感じにならず,特に弱音部での繊細さが素晴らしいと思いました。
第2楽章は,「安らぎ」のキーワードにいちばん相応しい楽章でした。ここでも,大きく歌われたOEKの誠実で折り目正しい歌が美しかったですね。カンタさんの音にはしみじみとした味わいがあり,お客さん一人一人に語りかけるようでした。音程が微妙に揺れるような感じもありましたが,それが人間的な味わいとして迫ってきました。この楽章も「ジャズ風カデンツァ」でしたが,ブルースっぽい味わいも良いなと思いました。
第3楽章は急速なテンポになります。が,爆走する感じではなく,十分な美しさと輝きを持った演奏となっていました。カンタさんのチェロには機敏さと繊細さがあり,技巧をしっかりと聞かせてくれました。ノンストップの速い動きが続くスリリングさとノリの良さが楽しい演奏でした。
この曲を聴くたびに,「安らぎ」の気分に加え,常に変わらないカンタさんのチャレンジ精神と人間味を感じることができます。そのことも嬉しかったですね。2月18日,カンタさんはOEKと再度共演し,井上道義さんの指揮でグルダのチェロ協奏曲を聴かせてくれます。こちらのチャレンジも聞きものになることは必定です。
後半は「勇気」がテーマ。OEKの十八番,ベートーヴェンの交響曲7番が川瀬賢太郎さんの指揮で演奏されました。川瀬さん指揮OEKによるベートーヴェンにつついては,第5番と第8番を聞いたことはありますが,第7番は初めて。いかにも川瀬さんにぴったりの曲なので,演奏前から大変楽しみだったのですが,その期待どおりの「元気をもらった!」という感じの演奏でした。
第1楽章はそれほど力むことなく,それでいてどっしりとした貫禄のある響きで開始。序奏部では加納さんのオーボエがいつもにも増して美しく,オペラのアリアを聴くような豊かさがありました。オーケストラの響き全体にも切れ味の良さもあり,聞いていてワクワクしました。
そしてくっきりとした若々しさのあるフルート。この日の第1フルートの満丸彬人さんの音には色々な色合いが混ざったような,例えるならば,虹を見るような充実感がありました。このフルートに先導されて,オーケストラの全奏になる部分も自然に弾むように盛り上がっていました。ちなみに呈示部の繰り返しは行っていました。
展開部でも同じリズムパターンの繰り返しが心地よく,若々しかったですね。OEKがベートーヴェンを演奏する場合,コントラバス3に増強するのが定番なのですが,今回は2名編成のまま。それでも終結部に出て得るバスのオスティナートの部分では,じっくりとした盛り上がりを聞かせてくれました。
その後第2楽章になりますが,今回川瀬さんは第1楽章が終わった後も指揮棒を下ろさず,そのまますぐに第2楽章に入っていました。この形は,かなり以前,岩城宏之さんもやっていたことがありますが,今回の演奏では非常に自然に楽章間の明暗の対比を感じさせてくれました(岩城さんの時はもっと間が短く,少々慌てているように聞こえてしまいました)。
第2楽章は,停滞することなくしみじみとした歩みを感じさせるような演奏。第2ヴァイオリンにチェロが絡んで対旋律を美しく聞かせたり,緻密なアンサンブルの美しさを味わうことができました。途中,少し明るくなる部分での,クラリネット,ファゴット,フルートなどのしっかりとした歌も聞きものでした。静かで精緻なフガートの部分を経て,最後ははかなげな気分と名残惜しさとが同居した感じで締めてくれました。
第3楽章はテンポは速すぎないけれども軽快に弾むような演奏。キリッとしたリズム感が爽やかでした。この楽章では,トランペットの鋭い音の後,ホルンの低音が続く部分が何故か好きです。藤井さんの突き抜けてくる音を聞いて,やはり良いなあと思いました。
第4楽章も速すぎないけれどもキレの良い演奏。しっかりとオーケストラを鳴らしつつも,軽快さのある演奏でした。弦楽器が非常に雄弁に歌っているのも印象的でした。楽章終盤では段々と音楽のテンションが上がり,アクセントの付け方が段々と強烈になっていきます。最後の部分でのビシビシと畳みかけるような鋭い音の連続が特に印象的でした。大きく盛り上がりながらも,乱暴な感じにならないのが,川瀬さんの指揮の素晴らしさだと思いました。
この日のOEKは,ほぼスタンダートサイズでしたが,ガルガン・アンサンブルのメンバーもエキストラでかなり加わっていました(後半はカンタさんもオーケストラの一員として演奏していました。渡邊さんがティンパニを演奏していたのも久し振りだと思います)。地元アーティストが結集している感じも良かったと思いました。
アンコールでは,文部省唱歌の「ふるさと」が川瀬さんと松井さんの2人の指揮の下(オーケストラ担当,会場のお客さん担当で分かれていたのですが,最後の部分は2人でオーケストラを指揮。かなり珍しい光景でした),会場のお客さんみんなで合唱しました。歌詞の最後に出てくる「山はあおき故郷,水は清き故郷」という言葉が特に心に染みました。美しい自然に恵まれた能登半島で起きた大きな自然災害。OEKには,自然とともに暮らしてきた能登の人たちの心を音楽の力で支えていって欲しいなと思いました。
PS. 前回の定期公演の時同様,メッセージを書き込めるようになっていました。今回は専用の用紙に書いて,貼れるようにもなっていました。こちらの方がじっくりと考えて書けるので良いかも知れませんね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?