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MANSAI CREATION BOX 萬斎のおもちゃ箱 Vol.2「ファリャ 恋は魔術師」金沢公演(2024年2月22日)

2024年2月22日(木)19:00~ 石川県立音楽堂 コンサートホール
トーク 「萬斎のおもちゃ箱への誘い」
1) 藤倉大/箏協奏曲
2) LEO/空 
3) ファリャ/バレエ音楽「恋は魔術師」
●出演者
松井慶太指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング))*1,3,LEO(箏*1-2)
野村萬斎(演出、亡霊)*3,中村壱太郎(振付、カンデーラ)*3,秋本悠希(メゾ・ソプラノ)*3,野村裕基(カルメーロ)*3,吾妻春瑞(ジプシー女)*3

「萬斎のおもちゃ箱」シリーズ第2回「ファリャ 恋は魔術師」を石川県立音楽堂コンサートホールで観てきました。野村萬斎さん企画のシリーズ、今回回は歌舞伎役者の中村壱太郎さんと萬斎さんを中心としたラテン系の歌舞伎+狂言+舞踊といった趣きのある公演となりました。松井慶太さん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の鮮やかな響きの中,品の良い華やかさに包まれました。

公演に先立って「萬斎のおもちゃ箱への誘い」と題して、中村壱太郎さん、そして前半に登場した箏奏者のLEOさんとのトークが行われました。どちらも聞くことによって、それぞれの演目をさらに楽しむことのできるような内容で公演への期待を高めてくれました。

開演前のステージ。箏の準備がされています。

前半最初に演奏されたLEOさんの独奏(LEOさん自身が作曲を委嘱)による藤倉大作曲の箏協奏曲も素晴らしい作品でした。LEOさんは、邦楽器の奏者とは思えない白いマントを思わせるような衣装で登場。靴も白っぽい感じ。登場しただけで、別世界に連れて行ってくれるようでした。

曲は同じ音型が繊細かつ執拗に繰り返されるミニマルミュージック的な感じで始まりました。軽く繊細、そして艶やかな音の連なりが大変魅力的でした。それほど厚くないオーケストラの響きの上で、最初のモチーフが繰り返されながらも、だんだんと変化していきました。変拍子風になったり、奏法が変わったり、音の色彩感やテクスチュアが変わったり…曲自体が常に動いており、まるで生き物のようでした。

途中一息入れて、箏によるカデンツァ風になる部分が何回か出てきました。一見伝統的な邦楽風でしたが、いろいろとヒネリがあったり、特殊奏法が出てきたり、創意工夫がされていました。ヴィブラートが大きく揺れたり、ハンガリーの民族楽器のツィンバロンのような感じに聞こえたり、全く飽きることがありませんでした。

オーケストラとの絡みも面白かったですね。マリンバと箏が絡んで不思議な雰囲気の音世界を作ったり、箏とオーケストラによるトレモロの応酬のような感じになったり、つや消し風の音が出てきたり(ギターとかでもこういう奏法がありそう)…さすが藤倉大さんというアイデア満載の曲でした。

曲の最後の方は、とても華やかなグリッサンドが箏に出てきた後、静かな世界へ。管楽器奏者が演奏する「息だけの音」の部分になると、どこか静かな波音を聞いているような気分になりました。

というわけで、どこを取っても魅力的な音楽で、曲の世界にはまってしまいました。新鮮な華やかさのある音楽はLEOさんの雰囲気にもぴったりでしたした。演奏時間も20分以上ある堂々たる作品で、邦楽器とオーケストラのための協奏曲の代表作として今後繰り返し演奏される曲になるのではと思いました(ただし、演奏は至難ですが)。

盛大な拍手に応え、LEOさん作曲の「空へ」という箏のための独奏曲がアンコールで演奏されました。この曲もリズムの繰り返しが心地よく、どっぷりと音楽の流れに身を任せながら聞いていました。ジャンル不詳といった曲でしたが、そんなことはどうでも良いと思わせるセンスの良さのある作品でした。
# 演奏前、LEOさんがこの曲用にチューニングを行ったのですが、そのチューニングの音自体、「音楽的だなぁ」と思いながら聞いていました。

休憩時間は25分。結構大がかりな”リフォーム”をしていました。

後半は、この公演のタイトルにもなっている、ファリャのバレエ音楽「恋の魔術師」が、中村壱太郎さん(日本舞踊の世界では吾妻徳陽さんというお名前になるようです)の振付で演奏されました。実際の上演の際は曲間にセリフも入り、オペラ風(サルスエラと呼ばれるジャンル)のスタイルで演奏されるとのことですが、今回はセリフはほとんどなく、バレエ的な形で演奏さ
れました。

後半はこんな感じのステージになりました。

この曲でのオーケストラですが、ステージのいちばん奥に配置していました。ステージ両端には字幕用のスペース、その間で色々な踊りが踊られました。板が敷かれていたので、かなり音がするのですが、これがフラメンコに通じる感じがあり面白いと思いました。オーケストラの編成は、青島広志さんによるプログラムの解説に書かれていたとおり、意外なほど小編成(二管編成ですが、オーボエとファゴットは1人づつ)。その点でぴったりOEK向きの作品でした。
# ちなみに青島さんの曲目解説は、短いスペースの中にポイントがしっかりと詰め込まれていて、見事だと思いました。

曲の最初「序奏と情景」はトランペットを交えた鋭い音で開始。このキリっとした音が素晴らしかったですね。序奏と情景という部分になりますが、この部分ですぐに萬斎さん(アンダルシア地方一の浮気者という設定)は死んでしまい、亡霊になってしまいます。

しばらくすると夫を亡くしたカンデーラによる「悩ましい愛の歌」に。このバレエは亡霊とその妻カンデーラの絡みが見どころなのですが、このカンデーラ役を中村壱太郎さんと秋本悠希さんの2人で分担するという設定が面白かったですね。さすがに壱太郎さんが歌うわけにはいかないので出てきた発想だと思いますが、ファンタジーの世界がより一層広まるように感じました。今回私は3階席で聞いていたので、秋本さんの声はやや遠く感じたのですが、スペイン情緒が一気に盛り上がりました。

4曲目の「亡霊」(の辺りだと思いますが)では、萬斎さん演じる亡霊が登場。「お客さんはどちらから?」という感じで声を掛けたり、文字通り「狂言回し」といった感じの部分もありました(ちなみに「千葉県から」という回答で,さすが萬斎さんの人気は全国的だなと思いました)。こういった部分での萬斎さんの演じる亡霊のコミカルな軽妙さも、狂言の世界に通じると思いました。

5曲目「恐怖の踊り」、6曲目「魔法の輪」の辺りはでは、怪しくも美しい雰囲気が出ていました。そして7曲目「真夜中」で時を告げる鐘の音がピアノなどで演奏された後、いちばん有名な「火祭りの踊り」に。今回のバレエでも、前半の最後を締める「全員の踊り」という感じの見せ場になっていました。生き生きした音楽と赤い布を使った和風の踊りが見事にマッチしていました。ピアノが隠し味になったカチッとした硬質感のあるリズムの上で、オーボエの加納さん、フルートの八木さんなどがソリストのように活躍。音を聴くだけで踊りのイメージが沸いてくるような音楽でした。ちなみにこの曲の最後の部分ですが…旧制高校時代の応援などによく出てくる「三三七拍子」のリズムと結構似ている気がします…が,これは余談でした。

後半の方は、音楽と踊りがどう対応していたか忘れてしまいましたが、萬斎さん壱太郎さんの絡みの部分が特に素晴らしいと思いました(神出鬼没的にパイプオルガン前のスペースも使っていたと思います)。2人が醸し出す艶っぽく若々しい雰囲気は、バレエで言うところの「パ・ド・ドゥ」といったところでしょうか。チェロやヴァイオリンのソロが出てきて、ロマンティックな気分を盛り上げるなど、魅力的な踊りが続きました。

亡霊を交えた三角関係の物語は,正直なところ視覚だけではややわかりにくかったのですが,各情景ごとの舞踊や照明がどれも美しく(やはりポスターでも使っていた赤のイメージと夜のイメージの黒が基調でしたね),退屈せずに楽しめました。野村裕基さん演じる亡霊の恋敵の若者役も初々しい魅力がありました。全曲最後の「フィナーレ 暁の鐘」は、朝になって亡霊は退散という「時が解決」といった部分。この部分では,金色や赤色の紙吹雪がステージ上から品よく舞い降りてきて、大変優雅な雰囲気になりました。このおめでたい和風の締めも良かったですね。

萬斎さんプロデュースによる、クラシック音楽×和風舞踊企画は、ますます好調といったところでしょうか。萬斎さんのソロによる「ボレロ」の緊迫感も良かったですが、今回のように群舞が沢山出てくるバレエ音楽も楽しかったですね。さて次回の「おもちゃ箱」には何が入っているのでしょうか。今から楽しみです。

このシリーズのスクリーンもありました。毎回見られそうですね。

PS. 最初のトークでは、壱太郎さんに依頼することになったいきさつなどを話されていました。「壱太郎さんのことはネット検索した後、You Tubeで知った」というのがいかにも現代的で面白かったですね。壱太郎さんは、フラメンコに関心を持つ歌舞伎役者という点で、唯一無二の存在かもしれません。壱太郎さんは、変拍子がスペインの特徴かもと語ってましたが、非常にスムーズな踊りだったと思いました。

箏アーティスト(こういう呼称を使っているとのこと)のLEOさんとのトークでは、「箏は龍に例えられる楽器。龍が天に昇るイメージで演奏する」といったことを語っていました。今回の演奏を聴いて、まさに箏界(?)のスターだなぁと思いました。ジャンルを超えたアーティスティックな活躍には今後も注目したいと思います。今度は石川県立音楽堂の邦楽ホールあたりで(もっと間近で)聞いてみたいものです。

PS. この公演は3月上旬,広島,鳥取でも行われるということで,このミニツァー用にオリジナルグッズも販売していました。こういう試みは初めてだと思いますので記念にコーヒーとクリアファイルを購入してみました。その後、自宅で味わってみました。

せっかくなのでポットでお湯を沸かして入れることに。
ぐるぐると回して入れてみました。
金箔を散らして完成。「恋は魔術師」の最後のシーンと
重ね合わせて味わってみました(どら焼きは,「たまたま」家にあったものです)。

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