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わくわく子ども国民文化祭:親子で楽しむオーケストラの世界(2023年11月26日)

2023年11月26日(日)13:00~ 金沢歌劇座
1)久石譲/オーケストラストーリーズ「となりのトトロ」~「さんぽ」「五月の村」「風のとおり道」「ネコバス」「となりのトトロ」
2) ブルックナー/交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」(1878/80(ハース版)
●演奏
松井慶太指揮全国のアマチュアオーケストラメンバーによる特別編成オーケストラ(コンサートマスター:坂本久仁雄),北方邁羽(ナレーター*1)

10月中旬から行われていたいしかわ百万石文化祭2023の最終日,金沢歌劇座で「親子で楽しむオーケストラの世界」という演奏会が行われたので聴いてきました。

文化絢爛の「のぼり」を見るのも最後ですね。

この標題のイメージからは少々ずれる感じでしたが,メインプログラムとして演奏されたブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」が目当てでした。金沢でブルックナーの交響曲が演奏される機会は多くないので,聞き逃すわけにはいきませんね。演奏は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の指揮者としてもお馴染みの松井慶太さん指揮の全国のアマチュアオーケストラメンバー約110名による特別編成オーケストラでした。

この日は「大人1000円,中学生以下無料」ということで,演奏会のタイトルどおり親子連れのお客さんが多かったのですが,さすがに小さな子供がじっとして聴いているのは厳しい曲ということで...「ブルックナー休止」の時などに色々ノイズが入ってました。が,同じようなフレーズを地道に積み重ねた後に金管を中心にビシッとクライマックスが出てくる感じや大編成弦楽器によるトレモロやピチカートなど,ブルックナーを実演で聴く楽しさを体感できました。

前半は「親子で楽しむオーケストラの響き」と題して,久石譲作曲のオーケストラストーリーズ「となりのトトロ」の中から5曲が演奏されました。「となりのトトロ」は,アニメ映画に限らず,全日本映画中でも最も大勢の人に親しまれている,古典と言っても良い作品の一つですが,その中に出てくる音楽を作曲者の久石さん自身がオーケストラ用の組曲に作り直したのがこの曲です。これが予想以上に素晴らしい作品でした。

まず第1曲「さんぽ」が,ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」を思わせる楽器紹介の音楽になっていました。小太鼓の刻むリズムに乗って,フルート,オーボエ,クラリネット,ファゴットの順に,誰もが知っているメロディを演奏し,最後に木管合奏。同様にホルン,トランペット,トロンボーン,テューバの順に演奏して,金管合奏。そして,ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロ,コントラバス,さらには打楽器各種,ピアノ,ハープ…と続き,締めは全弦楽器によるピチカート。間をつなぐ,ちょっとした「つなぎ」ぎの音楽も良かったし,ナレーションもとても分かりやすく,本家ブリテンに劣らない,見事な「管弦楽入門」になっていました。

2曲目は「5月の村」。このタイトルを見ただけでは曲をイメージできなかったのですが,聞き始めると…「ああ,この曲か」という音楽です。この日のプログラムの曲目解説は非常に充実していたのですが,その説明によると「1950年代から60年代に親しまれていた軽音楽(セミ・クラシック)を意識した音楽」とのこと。確かにこの雰囲気,ルロイ・アンダーソンの曲といっても通じると思いました。大編成で聞くとたっぷりとのびやか。まさに「5月の村」の気分でした(今気づいたのですが,主人公のサツキとメイと掛詞になっていますね)。

第3曲は「風のとおり道」。この曲は穴に落ちたメイがおばけ(トトロ)と会い,大きなクスノキが成長して…といった部分で使われる音楽(この説明は…間違っているかもしれません)。もともとはミニマルミュージック的な曲を作っていた,久石さんの「現代音楽の」作曲家としての片鱗が感じられる曲だなと思いました。同じ音型が繰り返される「キラキラ感」に続いて,ヴァイオリンやピアノのソロが活躍する曲でした。ちなみにこの日のコンサートマスターは,OEKのヴァイオリン奏者の坂本久仁雄さん。チェロにはOEKの特別名誉団員のルドヴィート・カンタさんが参加されていました。これも嬉しかったですね。ピアノはオーケストラのメンバーの方が担当されていましたが,元々は久石さん自身が演奏することを想定したパートなのだと思います。和風のメロディをピアノが演奏し,オーケストラと絡んでいく感じは,坂本龍一さんの音楽とも共通すると思いました。

第4曲は「ネコバス」。この音楽もまたお馴染み。ちょっとレトロな昭和のポップスといった曲想をオーケストラで演奏すると何とも華麗で,嬉しくなってきます。というわけで,1曲目から4曲目まで,次々と色々なタイプの曲が出てきます。堅く説明すると「多様式からなる組曲」だと思いました。

最後はテーマ曲の「となりのトトロ」。じっくり聞くと,名作ファンタジーの最後を締めるのに相応しい名曲だなと改めて思いました。特に弦楽合奏で聴くと,ゆったりと映画全体を回顧しているような気分にさせてくれますね。最後は華やかに盛り上がって終了。

北方邁羽さんのナレーションは,きちんと物語を伝えてくれる分かりやすいもので,曲の雰囲気にぴったりの暖かみもありました。オーケストラ入門曲であると同時に,映画のストーリーをしっかりと体感させてくれる音楽劇になっており,音楽と語りに誘発されて,映画の名場面が蘇ってきました。魅力的な曲・演奏・語りの相乗効果で,予想以上に聴き応えがありました。というわけで,この組曲は,今後,オーケストラのレパートリーとして定着していくのではと思って調べてみると…すでに吹奏楽版なども含め,定着しているようですね。来年7月には広上淳一指揮OEKもこの曲を演奏するようです。この公演も聞き逃せません。

この日は1階席のみ使用

後半のブルックナーの交響曲第4番は,松井慶太さんの指揮の下,じっくりとしたスケール感たっぷりの音楽を聴かせてくれました。第1楽章は,大編成オーケストラならではの弦楽器のザワザワ感で始まる「ブルックナー開始」。その上で首席ホルンが神秘的な空気感を持った第1主題を演奏。この部分,何回聴いても良いなと思います。その他にも,この曲では各楽章でホルンが大活躍しますが,どの部分もしっかりと演奏されていました。演奏後は特に大きな拍手を受けていました。しばらくして,金管楽器の合奏で「タンタン・タタタータン」という「ブルックナー・リズム」のモチーフが力強く演奏されますが,今回はトロンボーンだけでも6人(ぐらい)いましたたので,バーンと音が飛び込んできて,気持ちよいなと思いました。もうしばらくして出てくる,鳥の声を思わせる第2主題にも,素朴な感じがあり,自然を感じさせてくれる音楽だなと思いました。楽章全体を通じて,大きくテンポを動かすことなく,どっしりと聴かせてくれたのも良かったと思いました。

第2楽章は,カンタさんがリードする,厚みと美しさのあるチェロの合奏で開始。ヴィオラによる地味な美しさ,訥々と語っていくような音楽の運びなど,落ち着きのある世界が広がっていました。色々な音が積み重なった後,ティンパニがバシッと引き締めてくれるような部分も良かったですね。

第3楽章は,ホルンやトランペットなどの金管楽器が大活躍する,狩の雰囲気のある楽章。生で聴く金管合奏の充実感,輝かしさ,遠近感を生き生きと体感できました。中間部は一転したのんびりとしたムードになるのですが,このいきなりの気分転換もブルックナーらしいと思いました。

第4楽章もまた,低弦の刻むリズムの上にホルンが主題を演奏して開始。ティンパニの強打がオーケストラ全体の音を引き締め,くっきりとしたクライマックスになっていました。ブルックナーの交響曲を聴いていると,色々なパーツを組み合わせ,積み重ねていく充実感のようなものを感じます。集結部はその総決算のような威厳のあるエンディングになっていました。

というようなわけで,前半と後半でかなり雰囲気は違いましたが,大編成オーケストラの楽しみを実感できる公演になっていました。金沢で大編成のオーケストラ作品を聴く機会は多くないので,全国アマチュアオーケストラによる合同演奏は,是非また聴いてみたいと思いました。

終演後,ステージ上ではメンバー同士が記念撮影などをしたり,和やかな雰囲気でした
音楽体験企画も行っていたようです。
金沢歌劇座の隣にある21美。快晴の日曜日ということで,この日も盛況。
こちらは,金沢歌劇座の向かいの旧石川県立図書館。銀杏の黄色が日に映えていました。

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