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いしかわ・金沢風と緑の楽都音楽祭2002秋の陣:マルティン・カルシア・ガルシア with ガルガン・フェスティバルオーケストラ(2022年11月3日)

2022年11月3日(木・祝)14:00~石川県立音楽堂コンサートホール
1) スメタナ/連作交響詩「わが祖国」~「モルダウ」
2) ドヴォルザーク/スラヴ舞曲集第2集,op.72~第1番,第2番
3) シベリウス/交響詩「フィンランディア」
4) ショパン/舟歌嬰へ長調,op.60
5) ショパン/ポロネーズ第6番変イ長調,op.53「英雄」
6) ショパン/ピアノ協奏曲第2番ヘ短調,op.21
7) (アンコール)ラフマニノフ/絵画的練習曲ニ短調, op.39-8
8) (アンコール)ラフマニノフ/絵画的練習曲ニ長調, op.39-9
9) (アンコール)ラフマニノフ/楽興の時, op.16-2 Allegretto 変ホ長調
10) (アンコール)ショパン/24の練習曲第13番嬰ヘ長調, op.28-13
11) (アンコール)ラフマニノフ/サロン小品集, op.10-2 ワルツ

●演奏
松井慶太指揮ガルガン・フェスティバルオーケストラ(コンサートマスター:町田琴和)1-3,6マルティン・カルシア・ガルシア(ピアノ4-11)

Review

絶好の行楽日和となった文化の日の午後,「いしかわ・金沢風と緑の楽都音楽祭(ガル祭)2022秋の陣」として行われた「マルティン・ガルシア・ガルシアwithガルガン・フェスティバルオーケストラ」を石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。公演のタイトルのとおりピアニストの方が主役で,前半がオーケストラのみによる演奏,後半がピアノ独奏とピアノ協奏曲を交えた演奏という2部構成になっていました。

後半に登場したガルシアさんは,昨年のショパン・コンクールで3位を受賞した注目のピアニストです。昨年のコンクールは非常にハイレベルなコンクールになりましたが,その中でガルシアさんが「最優秀協奏曲賞」を受賞し,今回はその時に演奏した,ショパンの2番の協奏曲を演奏。さらには,今回のために,コンクールでガルシアさんが弾いた同じ機種ファツィオーリF308をわざわざ持ち込んでの演奏。色々と注目ポイントの多い公演となりました。

前半は松井慶太さん指揮のガルガン・フェスティバルオーケストラのステージでした。このオーケストラは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と北陸を中心とした実力派アーティストたちによるアンサンブル,ガルガン・アンサンブル(GE)の合同オーケストラです。GEの方は固定メンバーというわけではないのですが,メンバー表を見ると,OEKのOB,OEKのエキストラの常連の方,石川県新人登竜コンサート出演者など金沢の音楽ファンにはおなじみの方ばかりです。春に行われているガル祭の時にも大活躍していましたので,半年に一度集まる,半分常設のアンサンブルといったところです(音楽祭用オーケストラということで,松本のサイトウ・キネン・オーケストラのようになっていって欲しい…と個人的に期待しています)。

前半のステージの配置

というわけで,日頃,OEKだけでは演奏できないような大編成の曲(トロンボーン3本,テューバ1本,ホルン4本)が3曲(実質4曲)が演奏されました。

最初に演奏されたモルダウは,滑らかな起伏を持った自然な高揚感のある演奏でした。冒頭,松木さんのフルートからスタート後,途中,ポルカ風になったり,急流になったり,気持ち良く楽しむことができました。途中,夜の月明かりのイメージのある静かな部分になりますが,この辺での「OEK的繊細さ」が良いなと思いました。終結部では,雲がパッと晴れたような爽快さが感じられました。

スラヴ舞曲は2曲続けて演奏されました。第1番の方は速過ぎないテンポでたっぷりと聞かせてくれました。中間部でのしみじみとした味わいも良いなと思いました。有名な2番の方は,センチメンタルになり過ぎることなく,熱い歌を聞かせてくれました。弦楽器を中心としたニュアンス豊かな歌が聞き物でした。中間部は,少しテンポアップ。この部分でトライアングルが加わる感じが,個人的には大好です。やはりよい曲だなと感じました。曲の最後は長~く余韻を残して終了。

前半最後のシベリウスの「フィンランディア」は,ロシアのウクライナ侵攻後,世界的に演奏される機会が増えている曲です。冒頭の金管楽器のアンサンブルを聞くとやはり気持ちが引き締まる気がします。ビシッと揃った,力感がある響きが見事でした。その後は威圧的になりすぎることなくじっくりと聞かせてくれました。中間部の有名な賛歌風の部分には透明感と誠実な真面目さがありました。

実は,以前から「OEK+αによる半分常設的なフル編成オーケストラ」が実現すると良いなと思っていましたので,この際,ガルガン・フェスティバルオーケストラには,音楽祭に合わせ,今後も年2回ほど「定期公演」を行ってもらっても良いのではと思いました(通称「ガル・オケ」でどうでしょうか)。期待しています。

この日も広上リーダーの精神を引き継いで,休憩時間に松井慶太さんがガルちゃんぬいぐるみとともにカフェコンチェルトに登場。華やいだ雰囲気をさらに盛り上げていました。

写真のいちばん奥が松井さん

この日の主役のガルシア・ガルシアさんは,上述のとおり後半に登場しました。まずは,ショパンの舟歌でたっぷりと酔わせてくれました(船酔い?),ファツィオーリF308は,世界最大級のグランドピアノということですが,ガルシアさんのピアノには,この楽器の大きさにぴったりのスケールの大きな歌がありました。明るい陽光の下で繊細さと深さとが同居している―そんな感じの演奏でした。

休憩時間にファツィオーリのピアノを撮影している人が大勢いました。

「英雄ポロネーズ」の方も,慌てることのない大らかさのある演奏でした。硬質な剛毅さいうよりは,独特のちょっともたれるような感じで,自由闊達に開放的に曲を楽しませてくれました。中間部は同じような音型の繰り返しが続きますが,この部分ではタッチが美しいなぁと思いました。若くして王者が漂うような,まさにヒロイックな気分を持った演奏でした。

その後,オーケストラのメンバーが入って来て,お待ちかねのショパンのピアノ協奏曲2番が演奏されました。

終演後に撮影したステージ

この曲は,ショパン・コンクールのファイナルでも演奏した,ガルシアさんの十八番と言っても良い曲ですね。第1楽章,ガルガン・フェスティバルオーケストラによる,美しさと同時にどっしりとした安定感のある序奏に続き,ガルシアさんのピアノが入ってきました。大変クリアな音で,じっくりと歌っていました。ガルシアさんの演奏には健康的には明るさがあります。そして,同じフレーズが出てくるたびに微妙にニュアンスが変化していくような有機的な演奏となっていました。第2主題での伸びやかでありながらしっとりとして気分も美しかったですね。輝く高音,詩的で叙情的なモノローグ...多彩な気分があふれた演奏でした。

そして,第2楽章。この楽章での深く耽美的な歌も見事でした。ガルシアさんの,瑞々しく歌うピアノの魅力が最大限に発揮されていました。中間部ではドラマティックな気分になります。この部分でのオーケストラのトレモロの響きなども美しかったですね。ショパンの協奏曲の第2楽章では,2曲ともファゴットが対旋律を演奏しますが,この演奏での金田さんの深く落ち着いた音も見事でした。

第3楽章は,軽快でクリアに開始。若々しいなぁと思いました。きらめきのある音,洒脱な気分など,品良く,ノリの良い音楽が続きました。この楽章では静かに歌うクラリネットの演奏も美しかったですね。ホルンの信号の後,スピードがさらにアップ。キラキラとした気分がさらに盛り上がりながら,全曲を終了しました。

終演後は盛大な拍手が続きました。近年,ピアノの演奏会では,アンコールの曲数が増える傾向があるので,きっと複数のアンコールがあるかなと予想していたのですが...ラフマニノフの曲を中心に何と5曲も演奏されました。オーケストラメンバーだけ先に引っ込んだので「沢山演奏しそう」という予感はありましたが,予想を超えるサービスの良さでした。

最初の「絵画的練習曲」op.39-8では,メランコリックな流れに身を任せるように歌っていました。2曲目の「絵画的練習曲」 op.39-9は,行進曲風。ガルシアさんとファツィオーリのパワーが全開になっている感じでした。3曲目の楽興の時op.16-2は,軽妙でミステリアス。そして熱い高揚感もありました。4曲目は24の前奏曲13番。じっくり,しっとりと歌っていました。最後はサロン小品集 op.10-2。鼻歌風(本当に歌っていた?)のワルツで気持ちよく締めてくれました。

というわけで後半はノリノリのガルガルといったステージになりました。是非,春の「ガル祭」 にも出演して欲しいものです。

PS.

この日は,会場限定でCDが発売されるということで(こういう宣伝に弱いです…),購入しました。帰宅後に聞いてみたのですが,最初のバッハの平均律から,ファツィオーリのピアノの明るく澄んだ音が大変心地よい演奏です。特に美しく歌う緩徐楽章でのベルカントな感じの部分が素晴らしいですね。気のせいか…ガルシアさんの鼻歌(?)も収録されおります。

よく見ると,音楽堂前の掲示が変わっていました。
洋楽監督の池辺さんの写真が加わっていました。

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