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アフターセブンコンサート2022第2回笛田博昭(2023年1月17日)

2023年1月17日(火)19:15~ 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ディ・カプア/オー・ソレ・ミオ
2) トスティ/理想のひと
3) トスティ/可愛い口元
4) ジョルダーノ/歌劇「アンドレア・シェニエ」~ある日、青空を眺めて
5) ヴィクソ/マリウ愛の言葉を
6) クルティス/帰れソレントへ
7) ヴェルディ=リスト/リゴレット・パラフレーズ
8) プッチーニ/歌劇「トゥーランドット」~誰も寝てはならぬ
9) ロータ/映画「ゴッドファーザー」~愛のテーマ
10) ダンニバーレ/太陽の土地
11) プッチーニ/歌劇「トスカ」~星は光りぬ
12)(アンコール)クルティス/忘れな草
13)(アンコール)カルディッロ/カタリ・カタリ(つれない心)

●演奏
笛田博昭(テノール*1-6,8-13),田島睦子(ピアノ)

Review

1月17日火曜日の夜,石川県立音楽堂コンサートホールで行われたテノールの笛田博昭さんによるアフターセブンコンサートを聴いてきました。「開演時間が平日19:15,気楽に楽しむ約1時間」というコンセプトの公演ですので,私の方も夕食を自宅でさっと食べてから出かけてきました。

笛田さんは,毎年1月3日に放送している「NHKニューイヤー・オペラコンサート」に2017年から連続出場されている日本を代表するオペラ歌手です。この日は,「誰も寝てはならぬ」「星は光ぬ」などのイタリア・オペラを代名詞のようなアリア,「オー・ソレ・ミオ」などのナポリ民謡(作曲者がいるので民謡ではないのですが…最近は何と呼ばれているのでしょうか?)などお馴染みの曲をビンビン響く輝きのある声で堪能させてくれました。コンサートホールは笛田さんの声の持つ誠実さとゴージャスさ満たされ,「みんな大満足」という空気になりました。

最初に歌われたのは,誰もが知っている「オー・ソレ・ミオ」。新年最初のごあいさつといったところでしょうか。くっきりとした声がいきなりステージから立ち上がってきて,目が覚めるようでした。笛田さんの歌は,過去,楽都音楽祭などでも聞いていますが,毎回その声を聞くたびに新鮮さを感じます。余裕と輝きのある声には豪華な気分が漂い,ただただ素晴らしいと思いました。

その後,このコンサートのもう一つのコンセプトである「トーク」になりました。「本当はトークは得意ではないのですが」ということでしたが,その「素」の感じが面白く,笛田さんのキャラが伝わってくるのが良かったですね。ただし…「歌った後にトーク。トークの後に歌」というのは,クラシック音楽の声楽家にはかなり負担が大きいようで,この日は,のどを休めるために一旦袖に戻って,再度出てくるという回数が多くなっていました。

続いて,トスティの歌曲が2曲歌われました。「理想のひと」での抑制された詩的な雰囲気。笛田さんの声は,抑制していてもしっかりと響くので,かえって深い情感が伝わってくるようでした。「可愛い口元」はタイトルどおり,かわいらしい感じのピアノで開始。どこか知的な美しさを感じました。というわけで,笛田さんの歌唱の幅広さを感じさせてくれました。

次のジョルダーノの歌劇「アンドレア・シェニエ」の「ある日青空を眺めて」は,今年の「NHKニューイヤー・コンサート」でも聞いたばかりのアリア。凜とした声を聞くと,一気にオペラ気分に変わりました。曇りのない「青空のような声」で,音楽が迫ってきて,スケールの大きさを感じました

この曲についての笛田さんの解説も面白かったですね。次のようなことを語っていました。
・テノールの役名がタイトルに入っているオペラはとても珍しい。
・この曲は4つの幕,それぞれにテノールのアリアがあり,出番も多く,とても大変な曲。
・アンドレア・シェニエは詩人。このアリアは,マッダレーナにからかわれ,悲しくなって歌う曲だが,その後,マッダレーナと恋に落ち...(中略)...最後は死刑に,というオペラ
この話を聞きながら,笛田さん主演による全曲公演を金沢でも観てみたいと思いました。

続いてはヴィクソの「マリウ愛の言葉を」という小粋な感じな曲。そして,おなじみのナポリ民謡「帰れソレントへ」。輝きのある「イタリアの声」で聞くと,旅情をかき立てられます。

その後,ピアノの田島睦子さんとの掛け合いによる,質問コーナーになりました。お互いにちょっとぎこちげでしたが,笛田さんの人となりやキャリアがよく分かる内容で,「なるほど」と思って聞いていました。次のようなやりとりがありました。

(1)イタリア人になりたいですか?
笛田さんもびっくりの質問だったようです。「イタリア人のような顔になりたい」という回答に対して,田島さんからは「結構,イタリア人っぽいですよ」という返し。「確かに」と思いました。

(2)日本人で良かったことは?
(1)の裏返しのような質問ですね。「外国人は結構大雑把。繊細な感情表現は日本人特有かも」といった答え。あまり単純化はできませんが,私自身もそう感じることがあります。ただし,日常生活のことを考えると,大雑把な社会の方がストレスが少ないことが多いので,どちらが良いとは単純には言えませんね。

(3)声はどう進化してきましたか?
歌の勉強を本格的に始めたのは大学入学後。高校3年の時,先生の勧めで出場した新潟県の声楽コンクールで1位になり,「行けるかも」と思った。その後,色々な歌手に憧れ,目標にしたことが紹介されました。これが面白かったですね。列挙すると...
ルチアーノ・パヴァロッティ→マリオ・デル・モナコ→ジュゼッペ・ジャコミーニ(怪物のよう)→リナ・ヴァスタ(イタリア留学時に師事した高齢のソプラノ。いつまでもキラキラとしていて,「こうありたい」と思った)
30代の時,「神に届くように歌え」という”お告げ”があり,そういう風に歌っている。50歳になるまでは,先のことは考えず「死ぬ気」でやってみます。この生き方には,少し憧れてしまいました。

(4)やりたいことは?
食べて,ゆっくりしたい。田島さんが言われたとおり,「普通の人」なのだなぁと分かり,トークコーナーは終了。

その後,田島さんのピアノ独奏で,ヴェルディの「リゴレット」をリストがアレンジした「リゴレット・パラフレーズ」が自由奔放にキラキラと演奏されました。

そして,お待ちかねのプッチーニ「誰も寝てはならぬ」が歌われました。凜々しい声はトランペットのようで,王子のキャラにぴったり。そして貫禄もたっぷりでした。上述のトークにあったとおり,天に届くような歌でした。

こういった正統派オペラ・アリアも素晴らしかったのですが,次に歌われた「ゴッドファーザー」の「愛のテーマ」も最高でした。美しく染み渡る声を聞きながら,映画の中のシーン(コルレオーネ・ファミリーのゴージャスだけど悲しみを漂わせた気分)を思い出し,ほとんどシチリア島に行った気分(知らんけど...)になりました。ダンニバーレの「太陽の土地」も輝きのあるヒロイックな歌。最後の部分で,力を込めて声の力強さが増す感じが良かったですね。

プログラムの最後は,プッチーニの「トスカ」の「星はきらめき」。悲壮感と美しさと強さの合わさった歌を,しっかりまじめに聞かせてくれました。この1曲だけで,キャラクターが伝わってくるような歌でした。

全プログラムを通じて,安定感抜群,絶好調の歌唱の連続だったのではと思いました。というわけで,もちろんアンコールがありました。歌われたのは「忘れな草」「カタリ,カタリ」。どちらもイタリアのテノール歌手のアリア集の録音の定番曲で,「これで思い残すことはない」という気分にさせてくれました。

この公演については,聞く前から素晴らしいことは確信していましたが,その期待どおりの内容でした。こうなってくると,今度はオーケストラとの共演で笛田さんのゴージャズな声を聞いてみたくなりますね。上述のとおり,「アンドレア・シェニエ」の全曲公演を笛田さんの歌で聞いてみたいものです。真冬の金沢で「青空を眺めた」ような演奏会でした。

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