見出し画像

魔法のステッキひと振りで

 この日のために、この日のためだけに、服装を考えたり、ネイルチップやうちわも作っちゃって、メイクもいつもより気合いを入れてみたりして。朝起きてから普段の数十倍テキパキと動く自分にちょっと笑ってしまう。大好きな人に会いに行く時のやる気と手際の良さが毎日続けばいいのに。午前中に卒業研究のデータ整理だって進めてるんだから。なんでもできそうな気分。

 本当は行く予定のなかった仙台公演だけど、年明けに急いでチケットを取った。新潟公演が地震で延期になってしまって、次いつトラジャが見られるのか目処が立たなくなってしまった。せっかくの地元公演だし、どんな席でもいいから会いたかった。
 地震や津波の恐ろしさは他人事には出来なくて、痛いほど理解しているつもりでいる。余震が続く中で強行しないという賢明な判断には心底ほっとした。被害は膨大で、完全に元の姿を取り戻すには何十年と時間がかかるだろうけれど、どうか延期の日程が決まった時には、みんな笑顔で会場に集まれるといいなと淡い期待を抱いている。

 会場へ向かう。会場外は昼公演後で大興奮の人や、うちわを抱き抱えて幸せそうな人たちで溢れかえっていて、コンサートに来たという実感がじわじわ広がってくる。紙のチケットをギュッと握りしめて入場列に並ぶ。
 案の定座席はスタンドの上の方で、それでも凄く嬉しかった。1年ぶりにやっと会える喜びを噛み締めて開演を待った。

 会場が暗転して、オープニングが流れて、スポットライトが照らした先に7人がいた。疑ってるわけじゃないけど、本当にいるんだ、夢じゃないんだってやっぱり今回も思ってしまった。
 大好きな曲から始まって、そこからはあっという間の時間だった。共有している空間の中で生まれる表情も、ダンスも、歌声も全部閉じ込めておきたいくらい魅力的で愛おしかった。
 なによりも外の寒さを感じさせないほどの熱気に驚いた。声援や歓声の量がデビューコンよりもはるかに増している。各々が好きなようにペンライトを振ったり踊ったり、一人ひとりのダンスに歓声があがったりしているのを上の方から見ていて、自分もその中の1人として歓声や拍手を届けられるんだってそれだけでなんか嬉しくて泣きそうだった。

 座席の高いところまでニコニコの笑顔でくまなくファンサをくれる閑也くん、アンコールまでフラフラになっちゃうくらい全力で踊り続けるげんげん、トラッコの上でバチバチにかっこいい曲中にこっそり可愛いポーズしてる如恵留くん、ふわふわとしたMCの雰囲気から一変して悲鳴が上がるような妖艶なダンスを魅せるしめちゃん、ステージの端っこの方まで走って大きく手を振りに来てくれる松倉くん、遠くを走るトロッコの上で思わず笑っちゃうくらい突然わたわた元気に踊り出したり、MCでしめちゃんへのキレキレの煽りを見せたり絶好調のちゃかちゃん。
 ライブでしか見られないみんなの好きなところがこんなにある。でもやっぱりうみちゃんがいつもの如くMC中にステドリとタオルをみんなの分せっせと運んでくれているのを見る度に、中村担で良かったな〜と心に温かさが広がって、パフォーマンス中は自然と目で追ってしまう。生きててよかったな〜と思える。全員まるっと抱きしめた中で、特にありがとう、大好きだよの気持ちを込めて緑のペンライトを振る。

 終演後、放心してペンライトをつけたままで会場を出る。期限がそう長くは無い魔法がどうか解けないように、できるだけ永く持つようにと、魔法の杖のようにくるくると回したりする。
 もしかすると本当に魔法の杖なのかもしれない。いやほんとイマジネーション過ぎる一文で申し訳ないけど。ペンライトを持っている時だけは、7人の前で光らせた時だけは普段じゃ信じられないくらいなんでも出来ちゃう気がして、まるで魔法にかかったような気持ちになるのは本当のことで。

 魔法にかけられたまんまで、ちょっと奮発した夕飯を買って帰った。あの夜から今の今までまだ解けないままでいるのは、トラジャがくれたお土産のおかげだ。自分だけではかけられないんだけど、あの日の魔法をタップひとつで思い出しながら、また現実をどうにかやっていくよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?