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【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第1話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまでダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で、
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します。

第1話「うかれがちな男」作.熊谷拓明

下の住人に迷惑をかけまいと、足音を消して歩くのがすっかり癖になってしまったのか、家からコンビニまでの道程を、3分の2程度をつま先立ちで歩いてしまう。

コンビニまで、数十メートルの公園の前あたりで毎回ふくらはぎがピリピリ熱を帯びて来て、やっと自分が夜道で不器用なバレリーナのようになっている事に気が付く。

右手でふくらはぎを交互にさすりながら、コンビニの自動ドアをくぐるので、熱帯雨林の土地にしか生息しないなんらかの動物のようで、おそらくコンビニ店員にはそんなたぐいのあだ名を付けられているであろう。

そんな事はおかまいなしに、ふくらはぎをさする右手でお気に入りのアイスを手に取る。
「今日は抹茶味だ。」バニラではなく、今日は抹茶な気分なのだろうが、そんなことこのコンビニ内、いや中野区内の誰も興味はない。
「あ、袋大丈夫です。」「あ、スプーンも大丈夫。」

帰り道、交互にふくらはぎをアイシングするのに使われた抹茶味は、ほどよくとけて食べごろである。

一番のお気に入りの、口におさまりのいい小さなスプーンを、この日もアイスは抵抗少なく受け入れる。

最後の一口が口からなくなる前に、朱色のカーペットの上に大の字で寝転んで、電球の明かりでクリーム色になった天井を見渡し、その延長で腰の高さ程の食器棚に目がいった。

「うお!」 
と言って立ち上がると、食器棚の上から2段目に収まっている
太ったグラスを手に取った。

電球の明かりにかざして見ると、ビー玉のように赤やら黄色やら青やらが施されたグラスは、蒸した夜から、からりと晴れた白い砂浜に連れ去った。

足の人差し指と中指の間から、砂が顔をのぞかせる。それがなんとも不快で気持ちがいい。

気持ちのいい不快を楽しみながら、穏やかな海に近づくと、
交互にふくらはぎをさすって歩く男に似た、小さなカニを見つけた。
「ふふ」
右手の人差し指と中指で、その小さなカニを摘んで、左の手のひらに乗せてみて、こういう事が苦手な事を思い出す。
「ふぁっ!」慌てて手のひらを払ったので、小さなカニはアクロバティックに砂浜に着地をする。

何もなかったかのように海に戻る小さなカニの横姿は、やはり男に少し似ていた。

目を細めて海と空の間に目をやると、ヨットが1隻、早いのか、止まっているのかわからないくらいの距離に浮かんでいる。

ヨットに乗ってあんなとこまで行くことは一生ない。 

カニも苦手、砂も不快。

気が付くとつま先立ちになり、気が付くと携帯がテーブルの上でブルブルカタカタ少しずつ移動していた。

数年ぶりの母からの電話は、大好きな祖父が僕らの住むこの世界からいなくなったという知らせだった。

この世界ってなんだろか、いいところなんだろか。

おじいちゃんは、海すきだったのかな。

マグロが好きだと言う孫に、毎晩デパートのマグロを買ってきて、「毎晩、毎晩贅沢よ!」と母に怒られてたおじいちゃん。
「おまえは天才だから大丈夫だ」と言い続けたおじいちゃん。
僕がつくるオムレツを「おまえの作る卵料理は最高だ」と嬉しそうなおじいちゃん。

あっつい風呂にじっと浸かって、祖母にゆで蛸だとからかわれていたおじいちゃん。

朝水槽に浮いていた、大切な金魚に本気で心臓マッサージをして生き返らせたおじいちゃん

今夜はいつもよりにこにこして目を閉じる。

明日は久々に飛行機に乗る。

おわり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう!

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
詳細後日発表

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