見出し画像

【読み聞かせくまがい】脚本公開。

こんにちは。noteにて踊るさぶすくマガジン『くまのつべべこべ』という定期購読マガジンを発信している、ダンス劇作家の熊谷拓明です。
毎月、◆ラジオ◆エッセイ◆ショートムービー◆朗読ラジオ◆対談番組
◆料理番組?を通して「-暮らしに踊りをー心おどる日々には、楽に生きるヒントがいっぱい」というコンセプトにてみなさま多くのコンテンツをお届けしています。
今回はその中の朗読ラジオ【月刊読み聞かせ熊谷】より2020/12/25に配信開始した「赤鼻の小堺」の脚本を公開致します。
毎月読み聞かせオリジナルの脚本を書き、
これを実際はマイクの前で一人で喋り、効果音を録音して、音を足して等々。。。踊ることとは一見かけ離れた作業をしながら収録しております。気になる!という方はぜひ踊るさぶすくマガジン『くまのつべべこべ』をチェックしてみて下さい。

「赤鼻の小堺」  作/熊谷拓明

鼻の中の粘膜が一度凍てくっ付いては、すぐに自分の体温で溶けて離れる。
いつのころからかだろうか、この感覚を気にせずに雪かきをするようになったのは。。。
当番制で月に2回自宅アパートの前の、敷地の雪かきをしなくてはいけない事が、
小堺の冬の3ンか月の憂鬱である。

今年で41歳になる所謂中年男性になった小堺の世代が、雪を漕ぎながら登校していた頃は、今より20センチは高く積もっていたであろう。
祖父に雪かきを手伝うように命じられて、しかたなくスコップを持って雪をかくのだが、
学校帰りにそのまま家に立ち寄った、長谷川さんとそりで遊びたかった小堺には苦痛で仕方のない時間だった。

息を吸うたびに、鼻の粘膜が凍ってくっついては、体温で溶けて離れた鼻の穴から、白い煙があふれ出て、あと何回この煙を見たら、この苦痛な時間は終わるんだろうと考える。
そう思う度にスコップを持つ手がとまり、「おい!どした?もう休憩か?」と祖父に優しく叱られた。

友達と遊びたい時に雪かきを手伝わせる事以外は、全てが好きだった祖父には、子供特有の文句も言えず、小堺はただ「大丈夫」とだけ言ってまたスコップを動かすのだ、
4時間にも思える1時間を過ごすと、ようやく長谷川さんと遊べるのだが、このころには流石に小学生でも筋肉疲労に襲われ、彼女を乗せたそりがやけに重く感じられた。
しかし、そりではしゃぐ長谷川さんの声が聴きたい小堺は、ロープを腰に巻きつけて、公園を笑顔で走るのだった。

そりではしゃぐ長谷川さんの事も、休日はデパートに連れて行ってくれて、金曜の夜は大好きなマグロを買って帰ってきてくれて、友達と遊びたい時に雪かきを命じる祖父の事も、小堺にとっては大切な感情だった。
そんな2人を悲しませたくない小堺の精一杯の笑顔は、冬の寒さで全ての感情を真空パックされたかのように、全てが漂っていた。

家に帰った小堺は、今日の出来事を母親に話したが、「あんたらしいねー。基本的に嫌われたくないものね、人に。」そう母親が言った。その事に、心の知らない部分をつねられたようで、膨れて見せた。

基本的に人に嫌われたくない人。が、小学生の小堺には卑怯な人間だと言われたような感触があったのだろう。
息子が卑怯ではないことも、長谷川さんのことも、祖父の事も好きなこと、もちろん母の事を大切に思っている事も知ったうえでの、母親の『遊び』。には流石について行けない小学生であった。

その晩、風呂につかりながら、腰についたそりのロープの後を眺めて、なんだか気恥ずかしい気分になった事をふいに思い出したころ、41歳の小堺は、背中に沢山の汗をかき、体から湯気を出しながら、相変わらずそらから落ちてくる雪を目を細めて見上げていた。

「小堺さん、小堺さん!」「ああ。おはようございます。」
「そらからなにか降ってくるんですか?」「ははは、相変わらず雪しか降ってこないですね。」
「そうよね、1万円札でもひらひらおちてきそうな顔してたから、そうなのかと思って。」

「あー。だといいですけどねー。今年は降ってこないでしょうね。」

「ははは、小堺さんたら嫌だよー、来年も降って来やしないよ。」
「ははは、そうですよね。」

「そうよ!そらからお金が降ってこなくても家賃お願いねーははは。」

大家の佐久間さんとの会話でようやく41歳に戻りっきった小堺は、
スコップにこびりついた雪を丁寧に道の隅に払い落すと、アパートの倉庫に戻し、
2階の自室へと戻った。

午後からもとくにこれと言った用のない土曜日に、腰の高さほどの所にある、小さな窓を開けてゆっくりと、さっきまで自分が雪かきをしていた地面に新しい雪が落ちていくのを眺めた。
「ははは、さっきの雪かき意味あったのかな。
まぁ、雪かきだけじゃないよな意味がないことは。沢山ある。
せっかくあたたまった部屋の窓を開ける。
さっきの房費の意味は。。。
缶酎ハイのあとに、缶コーヒーで酔いをさます。
酔いたいのか、まともでいたいのか。
そもそもまともでいる意味はあるのか。

あんなにそりの上ではしゃいでいた長谷川さんは今何してる。。。
腹にあとつけてまで、そりを引っ張った意味は。

意味なんてないよな。

誰からも嫌われたくない卑怯な奴でいる意味は。。。
ってか、ほんとに人から嫌われたことがないはずない。ははは

長谷川さんはどうだったかな。

じいちゃんは俺の事どう思ってたかな。。

まぁ、この暇な土曜日に、そんなこと考えていても意味がない。」

家の中はすかり外のようになり、小堺の鼻は寒さで粘膜がくっ付いては、体温で離れ、
白い煙を吐いては、また粘膜をくっ付けた。

先ほど淹れたコーヒーはもうとっくにアイスコーヒーになった頃だろう。


小堺の鼻は。赤く、冷たく、しかしあの日の匂いを嗅いでいた。


2020/12/25 配信

***********************
■踊るさぶすくマガジン「くまのつべこべ」
月額1050円。
毎月踊る、喋る、書く、読む、撮る、様々な熊谷が配信される、定期購読マガジン。↓
https://note.com/odorukumagai/m/mce1dc5b670fb

■熊谷拓明の正体はこちら。
踊る『熊谷拓明』カンパニー公式HP
https://www.odokuma.com/

■オドクマストア
ダンス劇DVD『上を向いて逃げよう』
着る踊る「熊谷」Tシャツ/踊熊てぬぐい
等の公式グッズをオドクマストアにて好評発売中!
オドクマストア↓
https://odokuma.stores.jp/

■YouTubeチャンネル
踊る「熊谷拓明」チャンネル
チャンネル登録↓
https://www.youtube.com/channel/UC1mT_KwLNpcWxJfsyQ1Abcg

■踊る「熊谷拓明」カンパニー公式LINEアカウント
最新情報やお得なクーポンが手に入る!
お友達追加↓
https://lin.ee/5uLnXnW

よろしければ願い致します。頂いたサポートは楽しい【ODORU】企画のの運営費として大切に使わせて頂きます!