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松井大輔という謎の生き物2

韓国U23代表との国際親善試合が行われた大阪の長居球技場

彼は前半ベンチに座っていた

何を思っていたのだろう

山本監督はこんなうまい男をベンチに座らせてなんの縛りプレイをしているのだろうか?と後ろから思っていたのだろうか

負けろ!と思っていたのだろうか

勝て!と思っていたのだろうか

正解はわからないがひとつ言えることは

「(ピッチに)出たら魅せる」

そう思っていたことは間違いない

それくらい彼のこの日の2つのプレーは凄まじかった

サッカーの神がその後押しをするようにスコアは0-0で後半を迎え彼は後半開始からピッチに立つ

この日の最大の注目は下の世代から当時飛び級で選ばれていた平山相太

さらに0-0というスコア

彼にとっては自分にプレッシャーのかからない最大の追い風だったのだろう

開始10分もしないうちだった。

左サイドでボールを持つ彼はボールをまるでダンスのようなフィギアスケートの高橋大輔のようなステップでボールをこねる

それに引きつけられた数人の選手が囲むがおそらく今まで見たことない動きですぐには飛び込めない

次の瞬間

ボールはゴール前の鈴木啓太にフリーで渡っていた

本当に時が止まったようだった

一番止まっていたのは鈴木啓太のように見えた

覚えているのは

奇妙で緩やかなリズムを取っていた松井大輔の左足が大鎌のように鋭く動いたことだ

鈴木啓太はシュートを外し天を仰いだが

仕方ない

時差ボケではないがあんな急に自分の足元にボールが移動してきたらボランチの彼はボランチたるシュートをせざるを得ない(当時は鈴木を心で叩いたが)

僕の中でまだ先程の高橋大輔ステップ・タイムストップパスの整理がついていなかった数分後歓喜の瞬間がきた

風のように左サイドでボールを奪った松井はその風状態のまま中に切れ込む

そしてまた次の瞬間 

選手を何人か引き付けた松井が身体をくねらせると 

ボールは田中達也の足元に

田中のシュートはキーパーに弾かれたが

風のように突っ込んできた誰かが蹴ったボールはゴールにギリギリ吸い込まれた

ゴールを決めたのは松井だった

身体をくねらせて奇妙なタイムトラベルパスを出したのも松井だった

なんなのだこの男は

ハイライトでゆっくり見ると

パスは今まで見たこともないヒールパスだった

常人はまずしようとも思わないし

よもやできたとしても走る田中達也に針を通すような正確さと絶妙な速さで出さなければいけない

イマジネーションとテクニックの恐るべき融合

なんなのだこの男は

そのときの実況が

「松井大輔やりました、地元大阪…いや地元関西!」と言い直していたが(実際は京都)

そんなことはもはやどうでもいい

この人は世界でこのプレイを魅せつけなければいけないプレイヤーだと思った

アテネにいく最終メンバーを選ぶ際、松井は当落戦上だという雰囲気もあったが(オーバーエイジで小野伸二が選ばれたため)、実際は選ばれた

山本監督が言っていたのを覚えている

「世界で戦えるという基準でメンバーを選んだ」

そのとき韓国戦で前半松井をベンチに置いた彼を私は永久に許した

もしかしたら韓国戦の2つのプレーの残像がずっと山本監督の脳裏に残っていたのかもしれない


そして残りのメンバー表を見ると

鈴木啓太がいなかった。


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